罠と毒薬 6
-------------------------------------------------------------------------------

 
 制服で腰元を包まれたままゾロに担がれて暗い倉庫を出れば、そこには大きく伸びをしたルフィが立っていた。
 慌てて降ろせ、と体を突っぱねるようにしたら、逆にぎゅっと腰に回るゾロの手に力が込められる。
「…てめ」
 しかし暴れた拍子に剥き出しの足が空を蹴って、サンジはハッと体を縮めた。今の自分の情けない格好を思い出す。
 気まずい思いで足下に視線をやれば、方々に転がってうめく塊たち。顔が半分ひしゃげたまま白目を剥いているスパンダムに、決着がついたのだと知る。
 
「ルフィ」
 耳元で大きく響いたゾロの言葉に、サンジは思わず顔を伏せた。
 みっともない自分の姿。きっと顔だってひどいことになっている。
 しかもゾロなんかに担がれて、散々泣きごとまで言ってしまった。
 ……情けねぇ。
 ルフィの視線に触れたくなくて、サンジは隠れるようにぎゅっとゾロの肩口にしがみつく腕に力を込めた。
 
「悪ぃが俺達はこのまま引き上げる」
「おぅ」
 ゾロとルフィの会話に耳にしながらじっと息を詰める。
 しかし交わされた言葉はそれだけだった。ゾロは大人しくなったサンジを怒ったような顔でぐっと力を込めて抱え直すと、その場を離れはじめた。
 遠ざかるルフィの気配。
 代わりにしっかりとサンジを抱きとめる、熱いゾロの体温。
 絶対に弱みを見せないと、唯一負けたくないと思っていた相手に、今こうしてしがみつくしかない自分。
 
(―――チクショウ)
 理屈などではない、悔しさや羞恥や哀しみ。様々な感情が渦を巻いてサンジを打ちのめした。
 
 
 
 時折すれ違う好奇の目から逃げるようにして、住宅街を抜けた。
 足早に歩くゾロは、ルフィと別れてから一言も口をきかない。ただ怒ったようなオーラが全身からびりびりと伝わってきていて、サンジは胸の奥に溜まる気持ちを苦々しく飲み込んだ。
 喧嘩で感じ慣れたはずの強く鋭いその気配は、今のサンジを押しつぶすかのように重い。
 嫌でも蘇ってくる、先ほどまでの情景。
 
 ゾロの目の前で、性器を弄られた。
 そしてゾロに突っ込まれて、入れられて…そしてあの場でブチ撒けた。
 何もかもをゾロの目の前に晒してしまった。
 あまりにショックな出来事が続きすぎて、どれに重点を置けばいいのかわからなくなっている頭をサンジは緩くふった。
 
 そうだ。SEX、してしまった――のではないだろうか。自分とゾロは。
 歩くリズムに揺られて上下する、ゾロの筋肉のついた逞しい首筋をサンジはぼうっと眺めた。
 昨日までただの喧嘩仲間だった相手。男で、意地とプライドをもって、こいつにだけはと思っていた相手。
 そのゾロと繋がった。
 それは本当に体の一部を繋げただけで、到底SEXとは程遠い行為かもしれない。
 でも、それは決して嫌悪ではなかったことに、今更ながらに思い当たった。
 
 じわり、とゾロに触れた指先が熱くなる。
 無理やりそういう状況に陥ってしまったことは悲しいが、掘られた、とかそういう意味でのショックはあまりないかもしれない。
 ……それはゾロだからこそ、だ。
 同い年で性格は正反対で、でも常に対等でありたいと思った。
 本気で殴り合って本気で馬鹿やって、そして本気で笑いあった、いつもすぐ傍にあったその存在。
 サンジの唯一の存在であったから。
 だからこそ、ゾロに自分の汚いものを見られたことが、ゾロをそんな自分と繋げさせてしまったことが、ショックだった。
 ……でも。
 
 『汚くねぇ』
 そういって、ゾロはキスをしてきた。
 そう――確かに、自分とゾロはキスを、した。
 あれはどういう意味なんだろうか。
 自分に無理やり突っ込まされて、あんな処理をさせられて、一体どう思っているんだろうか。
 無言で歩くゾロの横で、サンジは黙って小さく身をすくませた。
 
 
 辿り付いたのは、ゾロの家だった。
 ゾロの両親は遅くまで共働きで、まだ昼もまもない今の時間は誰もいないのだろう。
 サンジを抱えたままゾロはポケットから取り出した鍵で玄関を開けると、靴を脱ぐのもそこそこにすたすたと廊下を急いだ。
 そしてガラッと勢いよく風呂場の扉をあけると、浴槽のふちにサンジをどさりと降ろした。
 ようやく解放された足が冷たいタイルに当たる。
 反射的にゾロを見上げたら、目線が合う前にブシャーッっと頭から冷たいシャワーを浴びせ掛けられて息が詰った。
「ッ!てめぇ何しやがる!!」
 飛沫の合間からゾロを睨みあげ、ようやくお湯に変わったシャワーを抑えようとするが、ゾロはおかまいなしにそれを制すとサンジの腰に巻いてあった制服を剥ぎ取った。
 お湯に濡れて肌に張り付いたシャツの下に現れた、剥き出しの白い両足。
「じ、自分でやるから、出てけ…ッ」
「うるせぇ!」
 立ち上がろうと腰を浮かしたところにゾロの手が伸びた。ぐいっとひっくり返されて、サンジは慌ててバスタブの淵に手を掛ける。
 床に膝をついたサンジの背中を、すかさずゾロの手が押さえつけた。
「なにす…ッ!?」
 四つんばいになったサンジの足の間に、ゾロの手が入り込んだ。
「ひッ」
 ぐいっと尻が割られて、温かなシャワーの湯が勢いよく押し当てられる。
「なにやっ…な、ゾロ…!?」
 熱い飛沫が掛かる中、太ももが大きく左右に割られてサンジの最奥が押し開かれた。
 降りかかるお湯の合間に、狭い襞を掻き分けてずぷりと差し込まれた硬い感触。
 グイッと中で探るように折り曲げられたそれは、おそらくはゾロの指。
「……ッ!」
 先ほど無理やりこじ開けられたそこに、ぴりぴりと痛みが走る。
 息を詰めて体を強張らせたサンジに構わず、後孔が更に広げられた。
 太いゾロの指が本数を増やして、サンジの狭い穴をかき回すように再び入り込んでくる。
 
「あ、あ……あ」
 指で広げられたそこめがけて、ゾロがシャワーのヘッドを押し当てた。
 勢いよく噴き出すお湯が、広げられた口からどんどん入り込んで腸内を逆流する。下腹が少しずつ重くなる。
「ひぃ、ヤだ…ッ!」
 ――怖い。
 抗う間もない責めに、先ほどの倉庫でのことがまざまざと思い出されてサンジは喉を引きつらせた。
 自分の意志を無視して暴かれる行為。
 再びゾロの手によって、ゾロの目の前で。
 なんで。
 どうして。
「…っ、ゾロ……ッ!」
 顔も見えないゾロの真意がわからなくて、ぼろぼろッと曇った視界からなにかが溢れた。
 バスタブを掴んでガクガクと震えるサンジの背後で、チッと舌打ちが聞こえた。
 ぐいっと腕を掴まれて、視界が反転させられる。目の前に、怒ったゾロの双眸。
 びしょぬれのサンジを、制服のままのゾロが突然ぐっときつく抱きしめた。
「……っ」
 息が詰るほどの抱擁に目をみはったサンジの耳元で、チクショウ、と低くゾロがうめく。
 熱いお湯を撒き散らしながら、シャワーのホースが床を転がった。
 




*7へ*

-------------------------------------------------------------------------------



 06.11.07