罠と毒薬 1
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 薄汚い倉庫の中だ。廃材がそこかしこに無造作に積み重ねられて薄暗い。
 へへ…と下卑た笑いを浮かべながら周りを囲む男たちは5人。それを見守るように離れた所に4・5人。
 見張役だろう、ドアの脇に2人。
 たったこれだけだ。
 これだけの人数、サンジ一人だって倒すのにものの数分もかからない。
 けれど今はサンジも、そしてその隣にいるゾロも、身動きなんて出来ない理由があった。
 
 男たちの顔は、どこかしら見覚えのあるものばかりだ。
 女の子以外は顔も名前も覚える気などないのだが、しょっちゅう絡んでくる相手を叩き潰しているうちに覚えたというか。とにかく高校に入った当初から色々難癖つけて喧嘩を売られては、ゾロとサンジがことごとく沈めてきた相手だった。
 前を開いた学ランの、襟元についたバッチは近隣の高校のものがいくつか。
 ゾロとサンジのどちらか一人相手にすら勝てた試しのない連中が、どうやら手に手を取り合っての計画らしい。
 涙ぐましいというか、しつこい。こんなことしている暇があるならそのエネルギーをもっと別の場所に燃やせといいたい。
 折りしも本日はサンジたちの在籍する東海高校を含め、近隣の高校の卒業式だ。
 これは俗にいう、お礼参り、というやつらしい。
 
「…ナミさんはどこだ」
 指定された倉庫に来るなり二人を囲んだ男たちに、サンジは苛々と吐き捨てた。
 にや、と中央にいる頭半分を包帯で巻いて片腕にギブスを嵌めた男、スパンダムがポケットから携帯を取り出した。
 つい最近サンジにやられた怪我が治りきってないらしく、笑った顔はどこかいびつに引きつっている。
「女は別のトコにいる。まだ何もしてないぜ。…もっともこの電話であと2時間連絡がなければ、何してもイイってことになってるがな」
 ひひ、っと周囲の男がにやけた笑いをもらした。
「てめぇら……ッ」
 含まれた意味を知って怒りに飛び出しかけたサンジの肩を、背後からぐっとゾロの手が止める。
「落ち着け。今はまだ…待て」
 囁かれたその言葉にぎっと唇を噛み締める。
「そうそう、そんな熱くなるなって。いつものテメェらしくねぇな。ようはテメェらがちょっとの間言うこと聞いてくれればいい話だ」
 サンジはふーっと怒りの息を飲み込んで、ギロリとスパンダムを見据えた。
「じゃあさっさと用件を済ませ。殴るなりなんなりすればいい」
 携帯を仕舞ったスパンダムはニヤリと笑うと、脇の男に目配せをした。
「手をだせ」
 男は指示に従ったサンジの手首をひとまとめにロープで縛ると、頭上に垂れ下がっていた荷物を引き上げるための太い鎖のついたフックに引っ掛けた。
 次にスパンダムはサンジの背後にいたゾロに、くいと顎をしゃくった。
 
「ロロノア、コイツのズボンを下ろしな」
「……はァッ!?」
 突然の指示に、サンジが声をあげる。
「いいからやれ」
 携帯をちらつかせ、スパンダムが再度指示する。
 背後からゾロの手が、サンジの腰に回った。
 ゾロに抱きしめられるような格好で、カチャカチャとベルトが外されて制服のズボンが埃塗れの床に落ちた。
 
「ボコってもいいけどな、テメェらにゃそんなもん屁でもねぇだろう?だからちっと趣向を変えることにしたんだよ」
 ニヤニヤと笑うスパンダムは、そうそう、と胸ポケットから小さな何かを取り出した。
「これを噛んでおきな」
「あ、ぐッ……?」
 頬を挟んでサンジの口を開けさると、スパンダムは小指の先ほどもない何かをガムのようなものにくるんで奥歯に貼り付けた。
「おっと噛み締めないように注意しろよ?そいつぁ発信機になってんだ。そいつが起動すると、女のとこで『待て』してる狂犬に『よし』が出されちまうからなァ」
 手を噛んでやろうかと思っていたサンジは、その言葉にぴたりと動きを止めた。
 わんわん、と馬鹿にした鳴き真似で笑いながら、その隙にスパンダムが指を引き抜く。
 相手を睨みながらそろりと咥内を舌で探れば、確かに厚みのある固いものが右の奥歯に張り付いている。
 奥歯を噛みしめられないということは、痛みに耐えられないということだ。
 人間は衝撃を受けたときや何かを我慢するとき、自然に奥歯に力を入れて堪えるのだ。
 それを知ってのタチの悪い行動に、背後のゾロも小さく舌打ちした。
 スパンダムの目がにたりと歪んだ。
 
「じゃあロロノア、こいつの下も下ろしな」
「……ッ、野郎のシモを見る趣味があんのかよ…」
 馬鹿にしたように吐き捨ててやれば、スパンダムは面白そうに笑った。
「強がってられるのも今のうちだ」
「……」
 ゾロは何も言わず、サンジの腰のトランクスに手をかけた。
 いつも喧嘩する太い腕が下着のゴムの内側に入り込む。その感触にぴくりと震えた瞬間、ずるりと下着が足元まで落とされた。
 シャツの下を露に晒した状態のサンジに、周囲の男からひゅうと口笛が飛ぶ。
「へぇ、随分随分色白いじゃねぇか」
「下の毛もブロンドかよ」
 ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべて囁かれる言葉を、ギッと睨みつける。
 スパンダムがおかしそうに口を歪めた。
「おお怖ぇ怖ぇ。…じゃあ次はロロノア、こいつに入れな」
「……ア?」
 聞き返したゾロにスパンダムは鼻で笑う。
「オイオイこういう場面で入れるって言やぁ、ひとつっきゃねぇだろ?」
 
「ぶち込めって言ってるんだよ、その便所に」
 
「な……ッ」
 じゃらっと鎖を揺らしたサンジをニヤリと見下ろして、スパンダムは再び携帯をちらつかせた。
 そしてサンジの後ろに立つゾロに向き直る。
「どうすんだロロノア?まぁ、このままあと2時間、おしゃべりしててもいいがなぁ」
「くそ…ッ」
 うめいたサンジの背後で、ゾロが動いた。
 吊り下げられてふらふらするサンジの腰をぐいと引き寄せ固定すると、もう片方の手が剥き出しの尻の割れ目に滑り込んだ。
 少し汗ばんで冷えていた肌に、熱いゾロの指先が触れる。ガサガサと硬い感触はきっと剣ダコだ。
 普段喧嘩でぶつけることしかしない、力強い拳。
 その太い指がサンジの肌をなぞって落ち、固くすぼんだ秘所をさぐり当てた。
「……ッ」
 どこかに囚われたままのナミを助け出すまでは、どんなことがあっても耐えねばならない。
 勝機が見えるまでは、ゾロと、なんとしても耐えねばならないのだ。
 幸い痛みに耐えるのには慣れている。
 
 排泄にしか使ったことのない穴。男のそんな汚い部分をゾロの熱い指がゆっくりと撫でている。
 次第に早まる呼吸を飲み込んで、サンジはぎゅっと足に力を込めた。
 途端、グイッと硬いものが入り口をこじあけて内部に入り込んだ。
「……ぃッ!」
 突然押し込まれた痛みに思わず体が跳ねる。
 咄嗟に押し殺すはずの声が、噛みきれずに零れた。
 強張った尻の間、肛門の中に入っているものが動いた。
 ゾロの指だ。
 余計な力が入ったせいでぎちぎちに咥え込んでしまったらしい。
 内部に入った異物感。押し出すわけにもいかずに小さく身じろげば、ぴくぴくと勝手に筋肉がゾロの指を締め上げてしまう。
 その度ゾロの指が妙にリアルに感じられて、サンジは羞恥に震えてくる息を隠した。
 少しでも力を抜こうと腹に息を吸い込んだ時、スパンダムが大げさに首をすくめてみせた。
 
「おいおいロロノア、カワイソウに痛がってるじゃねぇか。ちゃんと解してやれよ」
 
「舐めてやりな」
 




*2へ*

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 まだ序盤です〜。タイトルは有名な著書のパロのようですが、全く深い意味はありません。
 他にはI罠YOUとかふざけたタイトルしか思い浮かばなかっ…

 06.09.09