だからその手を離さない 5
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「…なっ、テメ、なにしやがる!」
 途端にいつもの小生意気な青い光が、慌てたようにゾロに向けられる。
 それにニヤリと笑い返し、そのまま尾骨をなぞって尻の割れ目に中指を突っ込んだ。
「……ッ!」
 すかさず抑えこんでいたはずの体から顔に血を上らせたサンジの強烈な蹴りがぶっ飛んできて、ゾロは慌てて体を捻った。
 ブンッとぶち当たったら骨がイっちまうような凶悪な風が胸元をかすめて、思わず笑う。変わらぬ力強さ。やはりサンジだ。
 拘束の緩んだその隙に逃げ出そうとする金髪を、そうはいくかと今度はソファにうつぶせに押さえ込む。
 足首の上を自分の脚で固定し、ついでに右腕を後で捻りあげてやるとギッと悔しげな目線が返ってきた。
 知らず血が沸くような高揚感。大人しいばかりのサンジより、がぜんこういうサンジの方がそそられる、自分も大概参ってるな、と心の中で苦笑してゾロはサンジの背にのしかかった。
 少し長めのやわらかい金糸の感触を食むように楽しみながら、耳元に口を寄せて低く囁く。
「見せてみろよ、大人になったテメェの体」
「なに馬鹿なこと言って……、ッ!」
 ゾロの武骨な手が前に回した手でサンジの性器を探り当てた。
 布越しに唐突にやわりと握り込むと、サンジがびくりと背を反らせて言葉を飲み込む。
「やめ、やがれ!」
「…そのわりにはもう兆してんじゃねぇか。感度が良いのは変わってねぇな」
 くつくつと耳元で笑うと、サンジの耳たぶがカァッと朱に染まった。
 左手で体を支えたサンジの腰だけを上げさせ、ゾロは左手でボトムを割るとサンジのモノを取り出した。
 ジンジンと既に熱を持っている亀頭部分をやわやわと指の腹で扱くと、すぐにぬめったものが溢れてくる。
「……っ、ふぅッ」
 薄暗い部屋の中、くちょりといやらしい水音が漏れる。
 悔しげに目元を赤らめたサンジを満足げに見下ろしてゾロは乱れたシャツからのぞく腰骨に唇を寄せた。
 薄く筋肉のついた真っ白な肌に、眩暈がする。
 汗と共に立ち香るサンジの匂いを吸い込むと、自分の下腹が重くなると同時にまるで美味い酒を流し込んだ時のように心の奥が満たされるような気持ちを味わう。
 背に濡れた感触を感じたのか、小さくサンジが身震いした。
 ゾロは左手の動きを止めぬまま、背に覆い被さりながら口でそっとシャツを捲り上げた。
 暴れたせいで元からぐしゃぐしゃになっていた白いシャツはするりと持ち上がり、ほんのりと桃色に汗ばんだ痩躯をあらわにする。
(左肩の…肩甲骨の下、くらいか?)
 ゾロは情事の最中とは思えない鋭い光を目に乗せて、その白い背に油断無く視線を走らせた。
 先ほどゾロの右手がちょうど触れたあたり、サンジが一瞬体を強張らせた場所だ。
 サンジは自分の体調に関して、殊更仲間の目から隠す習性がある。小さな動物が自らの弱みをひた隠しにするようにも思えたそれは、最近では崇拝するナミや庇護欲に逆らえないチョッパーなどに散々言われたせいで大分改善されてきているのだが。
 相変わらず自分や仲間の目の届かないところでまた、勝手に怪我でも背負い込んでいるのかもしれない。
 そう思うとゾロの眉間に 不機嫌極まりない縦皺が刻まれる。
 ちら、と視界の端に黒いものが映った。
(……花?)
 真っ黒い、サンジの白い肌に焼きつく刻印のようなそれは。
「あ、あぁ、ゾロ、や、駄目だッ……!」
 突然の嬌声に、背中を凝視していたゾロはっと我に返った。
 知らず力を入れて握りこんでしまったらしい。
「あ……あッ」
 ゾロの胸元に抱え込んだ金髪がぶるぶると震えたかと思うと、左手に暖かいものがびしゃびしゃと弾ける。
「ぁッ、わ、悪ィ……」
 荒い呼吸を吐きながら顔を朱に染めたサンジが恥ずかしげに身じろぐ。
 元々1回イかせるつもりだったし、問題ねぇと思いながらニヤリ口端を持ち上げてゾロは汗で張り付く前髪に口付けた。
「随分早いな、久々だったか」
 正直に口を滑らしたのが悪かった。カッと目元を赤らめたサンジが、支えにしていた左の肘を容赦なく背にあるゾロの顔目掛けて叩き込んできた。
 慌ててそれを手の平で受け止めて捕まえると、右腕と一緒に背で括る。両肩で体を支えるハメになったサンジが、悔しげにうめいた。
「避けてんじゃネェよこのエロミドリ!」
「口の悪さも変わってねぇな」
 はは、と明朗に笑いながら、ゾロはサンジの下衣をずり下ろすと白い尻を剥き出しにした。
「な、何しやが……ひっ!?」
 ぬるりと濡れた感触がありえない場所から起こって、サンジはゾクリと背筋を粟立てた。
 ゾロの舌がサンジの隠された蕾を舐めている。
 片手でサンジの腕を押さえ込んだまま、ゾロはサンジの吐いた蜜でしとどに濡れた左手を舌と同じ場所に滑り込ませた。
「やッ、だ、駄目だ!ゾロッ…!」
 サンジはビクリと大きく背をしならせ、必死に腰をねじって逃れようとする。
 思い出したように暴れ出す両脚を抑え、襞をほぐすように舌を這わす。しかしぎゅうと口を閉ざしたそこはゾロの爪先すらも受け入れてくれない程固い。
「やめろッ!や、め……ッ!」
 握り込めたサンジの手に冷たい汗を感じて、ゾロは小さく舌打ちしてその場所から顔上げた。
 先ほど性器を弄った時とは違い、サンジは全身でゾロを拒絶するかのように体を震わせている。
 そこまで嫌ならいつもみたいに蹴り飛ばせばいいじゃねぇかと。ふと不敵に笑ういつものコックの顔が思い出されて、ゾロは嘆息すると一まとめにしていたサンジの手を静かに開放した。
 自分が見たいのは、こんな表情のコックではないのだ。
 離れていく気配に、いぶかしげに顔を上げるサンジをゾロはぐいとソファに引き起こす。
 そしてらしくもなく瞳を歪ませているサンジを見据えた。
「キスしたり、俺のモン突っ込んだりは、しねぇ。お前は、あー…確かにクソコックだけど、俺のコックじゃねぇからだ。……ただ気持ちよくはさせてぇ。テメェの、そういう顔が見てぇんだ……わかるか」
「わ、わかってたまるか!だいたい俺はいつてめぇのモノになったんだよ」
 自分の言い方も大概だと思うが、それに対して肝心な部分を否定しないコイツもコイツだ。
 ゾロは小さく溜息をつき、うし、っと気合をいれるとソファの上に再びコックをこてんと転がした。
「何を怖がってる」
「あァ!?誰がビビッてるだと!」
 今度は拘束はせず、正面からのしかかって先ほど触れた窄まりに手を伸ばす。
 ギクリとしたように体が震えたが、しかしすぐに何でもないという顔をして自分を睨みつけてくるサンジに、いくつになってもこういう所は変わらないんだなと妙に安心をした。
「じゃなけりゃ、ちょっとここいじらせろ。気持ちよくしてやるだけだ」
「なッ…、テメェなんて言い草だ!そういう横柄さを今からもちっと改善しやが…あっ!?」
 ぐだぐだ話して気の緩んだ隙に、ぐっと人差し指を突き入れた。
「……っ、ん」
 苦しげな息を飲み込み、サンジのつま先がソファカバーをぎゅっと握る。
 含ませた指先に熱い粘膜が絡みつく。まだ1本だというのに、解れていない入り口は必要以上にゾロを締め付けた。強張る硬いすぼまりに、最近受け入れてないことが予想される。
 それはこの時代の自分との距離を確実にするもので苦い気持ちになったが、同時に自分以外を受け入れているわけではないことは喜ばしくもあった。
 折り曲げた指でサンジの内壁を探る。今ではすっかり覚えてしまった少しコリコリするその場所をサンジの腹側に向けてぐいっと撫でると「ぅあッ」と途端に嬌声があがる。
 そこを攻めながらゆっくりと蕩かすようになんとか指2本まで入れる頃には、サンジはじっとりと全身に汗をかいてゾロの服を握りながら喘ぐまでになっていた。
「……、ゾロ」
 はひ、はひ、と呼吸を乱しながらサンジが、とろけた目をゾロに向ける。
 ぎゅっと背に回された両腕が、震えながら爪を立てた。
「余計なことは考えるな」
 零れそうな青い目を閉じさせてベロリと舐めた。
「俺の前じゃ、いつもこうしてアホな顔晒して笑ってろ」
「…こ、こんな場面で笑うやつがいたら、それこそアホだろッ……」
 ぐりっと指先を折り曲げてそこを強く攻め立てると、ゾロの腰を挟んでいた白い両脚が一際大きく震えた。
「あ、あぁあッ!」
 ビクビクと体を震わせてサンジがイくのを見て、ゾロは埋め込んでいた指をずるりと抜き去った。
 互いの呼吸が荒い。夕闇の部屋に、2人分の息遣いだけがしばらく響いた。
 身を起こし、ゾロは根元まで濡れた2本の指をぞんざいに体の下にあったカバーで拭う。するとソファにくってりしていたサンジが驚いたように半身を起こしてゾロを見つめていた。
「なんだよ、行儀が悪いとか言いやがるのか」
「ん、なのはとっくに諦めてるって…そうじゃなくて、テメェ、体……」
 その時になって、ゾロはようやく自分の体が薄くなっているのに気がついた。
 薄く、というか空気の様に徐々に色合いが淡く輪郭がぼやけて来ている。
 かざした手の平の向こうにびっくりした顔のサンジが透けて見えた。
「どうやら時間切れみてぇだな」
 ニっと笑うと、サンジも呆けた顔を引き締めて、そうか、と小さく呟いた。
 そして今更自分の嬌態に気づいたのか、うっすらと頬を上気させて肌蹴たシャツやずり下ろされたボトムなんかを整える。
 ゾロだって突っこまねぇとかき持ちよくさせるだけとか大人びた台詞を吐きはしたが、サンジの痴態を見せられていて無反応で居られるわけがない。股間はさっきからぐっと鎌首を持ち上げっぱなしでジンジンと熱を持っていた。
 それに気づいたのか、サンジがばつの悪そうに目線をちょっとずらす。
 そんな顔を見ていたら、抱きしめてぇな、と漠然とした思いがゾロの胸を占めた。
 無償にそう思った。
 性欲的な意味ではない。ぎゅうと自分の腕に抱き寄せ、閉じ込め、首筋に鼻を埋めて、強く強く。抱きしめてやりたい。
 自分の良く知るあの時代のサンジも、目の前にいるサンジも、サンジであるなら自分の知り得ないどんな過去も、未来も、抱きしめていてやりたいと。
 そう思った。それが自分のただのエゴだとしても。
「……ありがとな、ゾロ」
 掠れた声に愛しげな響きをにじませてサンジが呼んだ。
 目線を返せば、いつのまにかその青い目はしっかりとゾロ見つめている。
 そしてサンジはふわりと笑った。
 大事なものをそっと見るように、でも照れた頬の赤さを誤魔化すように少し強気な光も目元に織り交ぜて。
 
 広がったのはやわらかい笑顔。いつも愛して止まない、コックの笑顔だった。
 
 それを最後に、ゾロの視界は再び真っ白になった。





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