盟 約 3 |
ゾロはその身を全て亀裂から引き抜くと、カツリと石の床に降り立った。 黒い革靴、着崩したスーツはこの西洋風の城に酷く場違いだ。 そして片手には真っ白く長い、一振りの刀。すらりとしたそれは、この暗い屋敷の空気をものともせずに、白銀に輝いて見えるようだった。 「……てめぇは…!」 闖入者にクリークが唸る。ゾロは獣のように牙を剥いて笑った。 「俺とお前は直接名と望みを交わした。よってこの場においては俺の契約の方が上位だ」 ゾロが足下を見下ろした。 「『サンジ』」 どこか甘いその響きに、ふ、と転がっていた体の呪縛が解ける。 体の芯にあった錘がすっと軽くなり、自由になった肺に急激に酸素が飛び込んできて、サンジは咽ながら上体を起こした。 「――お前を助けてやるぜ?」 金色の瞳がサンジを捉えて三日月に歪む。 瞬間、ゾクリとしたものが背筋を駆け上がり、サンジは無意識に乾いていた唇を舐めた。 「そんなエクソシスト野郎を助けるってのか!」 クリークが吼える。 「…その人は渡さない!」 同時にギンが飛び出し、ゾロに向かって武器を薙いだ。 「ウルセエよ」 一瞬、ゾロがゆったりと横に身を傾いだ気がした。 同時に白い太刀筋が宙に閃く。 「…ガ、ハッ!」 ゾロはその場から動いてもいないし、刀を鞘から抜いてもいない。 けれどすれ違ったゾロの背後で膝を折ったのは、ギンの方だった。 胸元から紫色の血を溢れさせ、床に転がる。トンファーが大きな音を立てて滑り落ちた。 「テメェのランクじゃ俺に触る事も出来ねぇよ」 「…獣風情が!」 ガギン!と金属のぶつかる音と共に、脇から振り下ろされたクリークの拳をゾロが受け止めた。 分厚い鋼鉄の鎧を前に、両手で支えたゾロの細い刀身がガチガチと鳴く。 「…チッ」 ミシ、とゾロの膝が重みにたわむ。勝ち誇ったようにクリークが笑った。 「力ってのはこういう事を言うんだ!」 瞬間、見上げるサンジからしか見えない角度で、小さくゾロの唇が笑った。 ふわ、とまるで残像を残すように、ゾロが消えた。 思った瞬間、クリークの背後、鎧の継ぎ目から滑らかに差し込まれる白銀の切っ先。 まるで柔らかな食材を優しく切り分ける時にように、クリークの胸元から無駄のない力でゾロが刀を引き抜いた。 「力ってやつは、目に見えねぇのが悲しいよなぁ」 自分が相手とどんだけ差があるのか、わからないからな。 笑うゾロの非情さを前に、返り血一つ浴びずに凛とした輝きを保つその刀の純白さが、異様に際立って見える。 「き、さま…」 重い鎧を揺らしてクリークが膝を着いた。 ゾロは呆然と動けないままでいるサンジの腕を取って軽々と引き起こすと、片手で腰を抱き寄せた。 「……ッ!」 グイと後髪が引かれ、頭が仰け反る。 痛みに瞳を眇めたサンジの、破かれたシャツから晒された首筋にゾロが歯を立てた。 「っ、…」 チクリとした熱い痛みに思わずゾロの袖口を握りしめれば、ゾロの目笑った。 「じゃあな」 倒れる二人を一瞥し、ゾロがすい、と白い刀を床に滑らした。 ガシャン、再び足下の空間が割れ、二人はクリークの屋敷から真っ暗な奈落へと吸い込まれていった。 * * * 暗みを帯びた緋色の絨毯にシャツが散っている。 厚い天蓋に仕切られた同じく緋色のベッドの上、蠢く真っ白な肢体。 「…ぅ、…ク、ソ…!」 ぎり、と唇を噛み締めてサンジは擦れる視界の先でゾロを睨んだ。 ゾロの住処だと言われたここは一体何処なのか――いや、そもそもどこの異空間にあるのかすらわからない。 今が何時で、あれからどれほどの時間が流れたのかすら、段々と曖昧になってくる。 「ひ……――」 ぐちゃ、と一際大きくはしたない水音が響いて、サンジの思考は再び霧散した。 ベッドの背に凭れるサンジは両膝を立て、肩幅に開いている。膝裏にはゾロの持っていた真っ白な刀が差し込まれ、縄で固定されている為にそれ以上閉じる事もできない。 「俺自身が欲しいか?」 サンジの目の前で、ゾロが笑った。 「っん、な…ワケ、あるか…ッ」 朦朧としかけた意識が、一気に戻ってくる。 ギリ、と睨んだサンジの言葉など意に介さぬように、ゾロは「それはまた次回な」と唇の端で笑った。 ――次回なんてあるかクソ野郎。 そう叫びたいのに、出てくるのは煩いくらいに乱れた自分の呼吸の音だけだ。 手は痺れた訳でもないのに持ち上げる事は適わず、僅か、指先が滑らかなシーツを掻き毟る。 くちゃ、と音がするのは目の前に居座ったゾロの手元からだ。 ゴツゴツした長い指が二本、サンジの普段日に当たらず真っ白な肌の中心、淡く色づいた孔の中に深々と埋められている。 「ぅ、ぐ……―」 ずる、と引き抜かれれば言い様のない震えが背筋を駆け上り、サンジは唇を噛んだ。 ちゅぷり、糸でも引きそうな程潤んだ音を立てて、サンジの後孔が収縮した。 出て行ってしまったゾロの指を惜しむように、そこは熱く震えている。 「テメェみたいに綺麗過ぎる魂の奴は、いきなり俺を受け入れたら毒に耐え切れずに壊れちまうからな」 引き抜いたその指は、蜀台の灯りしかない室内でぬるりと淫靡に輝いた。 「だからこうして」 付け根に垂れたサンジの液を、見せ付けるようにゾロが舌で掬う。 「……ッ」 羞恥に目を逸らしたサンジの顎を、ゾロが掴んだ。無理矢理引き上げられ、目線を合わせられる。 笑うその顔はまさに――悪魔だ。 二本の指を更に三本に増やし、サンジの汚したものの上からゾロは自分の唾液を丹念に絡めて行く。 赤黒い舌先が、まるで性器に愛撫を施すかのように、自身の指の付け根から指先までを丁寧に濡らしていく。 一度見せ付けられてしまうと、目は吸い寄せられたように動かない。 動悸が激しさを増し、頬が熱くなる。 ゾロが酷くいやらしい顔をして、小さく唇を引き上げた。 「……ッ」 サンジは息を零し、慌てて小さく首を振った。 それは期待では決してない。これからゾロに行われるその行為に対する恐怖――それをこの永遠にも取れる短い時間の中で覚えこまされたからだ。 「俺の味がどんなもんだか、ゆっくり馴染ませてやるよ」 とろりとしたゾロの指が、ひたりと後孔に押し当てられる。 動かせない脚の間、震えるサンジの窪みに、ぐぬり、と再びゾロの指が押し入れられた。 「ヒ…――ぅ、あ、あぁア…――ッ!」 見開かれたサンジの目が、衝撃にじわりと潤んだ。 貫かれた指先が、ジンジンと熱い。 まるで熱い酒でも浴びせられたかの様に、サンジの粘膜に触れたゾロの唾液が一瞬にして燃え上がる。 けれどそこから呼び起こされるのは痛みではなく、身を捩りたくなる程の快感だ。 狭い肉壁に潜り込むゾロの指の太い関節、肉を抉る爪の先、ぐるりと掻き回されれば当たるその感触ごと、指先がビリビリと痺れる程の快感が全身を貫く。 脳の中心が真っ白く痺れ、まるで何度も強制的にイかされているかの様な衝撃にサンジは喉を反らせてガクガクを身を震わせた。 意識が飛ぶ寸前まで、目の前がスパークする。 けれどぴくりとも動かす事も出来ない体は、その衝撃を逃がす術もない。 「ひ、ぃ、……ぎ」 辛うじて引き結んだ唇は、サンジの無意識下であっても揺るがない精神の現われだ。 ゾロは笑って、中に入れた三本の指でサンジの柔らかな肉壁を思うが侭に掻き回してその身を揺さぶった。 「ちゃんと見てろよ、俺が、どうやってテメェに入り込んでいくのかを」 ふるり、それでも首を振って抵抗するサンジの心を笑うように、ゾロがゆったりと四本目の指をサンジの入り口に押し当てる。 瞬間、ゾクリと背筋を走ったのは恐怖なのか、それとも―――。 「……―――ッ!!」 涙を溢れさせ、サンジは声なき悲鳴をあげた。 |
* 4へ * ------------------------------------------------------------------------------- 10.02.19 久しぶりに酷いゾロです。 ……楽しい(笑)そして今回から裏に移動です。 |