KOAKUMAラヴァー 6 ------------------------------------------------------------------------------- |
(6) * * * * * 「……はぁ」 昼休み、屋上の中央に突き出した何かの白いタンクがあるコンクリ台、その一番高い特等席で寝転びながらゾロは手の中の紙をぐしゃりと握り潰した。 ウソップに調べて貰った金髪の男のリスト。 全員に会ってみたが、そのどれもがハズレだった。 首にホクロが無いのは勿論、実際に触れてみればあの男じゃないというのがまざまざとわかった。 体格というか、雰囲気というか、何かがピンと来ないのだ。 そもそも夢の中の男だ。本当に居るのかもわからない。 『男に乗っかられる夢を見る毎に腕の痛みが消えるんです、その訳を聞きたいので同じ学校の制服を着ていた金髪の男を捜しているんです』だなんて。 もし誰かがそんなゾロの理由を聞いたら、即効で頭の病気を心配されるだろう。 自分だって知り合いが同じ事を言っていたらきっと、ああこいつアホなんだなって思うはずだ。 青空を見ながらもう一度盛大に溜息をついた時、ふと風に乗ってきたいい匂いにゾロは鼻をスンと動かした。 「うお…」 デミグラスソースにとろりとチーズが掛かったような、甘くて香ばしい匂いだ。昼休み開始と同時に弁当をかっ込んだが、それでも足りない腹がぎゅうっと唸った。 思わずごろりと体勢を変えて、下を見る。 高い金網が張られたこの屋上は生徒が自由に出入りできるようになっているが、遊ぶには仕切りが狭いのでそれほど人気スポットではない。でも、たまに弁当を食べに来たり息抜きに来る生徒もいる。 匂いの元を見下ろせば、そこにはほかほかと湯気の立ったハンバーグが入った弁当箱があった。ゾロの乗った高台を背にして座った制服のズボン、その膝に抱えられた箱の中には、他にもぎっしりと色んなおかずが詰まっている。 「すげぇ美味そうだな」 「っ!?」 ゾロが頭上から声を掛ければ、ビクっと弁当箱を持った手が震え、カランと箸が転がった。 慌てて拾う男の髪が、きらりと太陽の光を受けて輝く。 「――!」 その色にはっとして、ゾロは寝そべっていた高台から飛び降りると男の前に立った。 「あれ、お前…」 「ッ、ロロノア、くん」 男は同じクラスのサンジだった。 顔を上げたサンジの髪は、くすんだ色をしていた。じっと見つめても、記憶に残るあの甘い蕩けるような輝きとは程遠い。 さっきは光の具合で、一瞬輝いて見えただけだったようだ。 まさかという思いと同時にがっかりしたゾロの前で、サンジはおどおどと肩を竦めた。 じっと見下ろすゾロの視線から逃れるように、俯きがちに目線を逸らす。 眼鏡の上に前髪が被さって、詳しい表情が更にわからなくなった。 「あー…」 そんな態度を取られると、まるでこっちが脅しているみたいで困る。 なんと言っていいのかわからずに、ゾロはそのままサンジが抱えた弁当箱に目線を戻した。 「…なんでそれ、そんなに熱々なんだ」 一瞬意味がわからなかったのか、再びゾロを見上げて、サンジは視線を辿るように手元の箱をぎゅっと握った。 「これ、かっ、家庭科室のレンジ借りたからっ…」 「へぇ」 ぐう、と眺めるゾロの腹が言葉より先に返事をした。 「……っ」 少しだけ恥ずかしくなって眉を寄せたゾロに、サンジは意外そうにぽかんと口を開けると、小さく笑った。 「す、少し食べる?」 「お、おう」 サンジは箸でハンバーグを一口大に切り分けると、はい、とゾロの方に差し出した。 変な体勢だが、ゾロは少し腰を屈めるとぱかっと口を開け、その肉にかぶりつき――サンジの持つ箸と指、その先に見えたものに目を見開いた。 肉の味もよくわからないままゴクリと飲み込み、差し出されたままのサンジの手首をわし掴む。 「…てめぇ」 こちらを見上げる形になった、サンジの首元。 そこにあった、小さな小さな印。 見間違えるはずもない。 ようやく――。 「……見つけた」 低い声で呟くと、ゾロは唇を引き上げた。 「えっ、えっ!?」 がしっと首を押さえ、背後のコンクリに背を押し付ければ、サンジが驚いたようにゾロを見上げた。 硝子越しに見えた青い目が、忙しなく瞬きをする。 「テメェだな?……俺の夢で散々、勝手してくれた野郎は」 言葉を聞いた途端、サンジの顔がさっと青褪めた。 「な、なんっ…」 腰を浮かせようとする相手の体を、腕の力で押し留める。 「…逃がさねぇぞ」 ニタリ、笑った顔に、サンジがぴゃっと背筋を正して「ひょぇうぁあああ」と意味不明な叫びを漏らした。 |
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