砂楼の王国 <5> |
「おい、いくぞ」 「あ?」 いつもの調子で牢番に鍵を開けさせ薄暗い部屋に入ってくるなり、ゾロが突然サンジの体を持ち上げた。 「ハ?なんだよ、何処…っぶ」 ひょいと雑穀袋のように肩に担ぎ上げられて天地が逆さまになり、分厚いゾロの肩甲骨に強か鼻を打ちつけた。 のしのしと歩き始めたゾロは牢を出ると、そのまますぐ地上へと続く細い階段を昇り出す。 「…っお前、この担ぎ方やめろ!」 上下する振動で逆さになった顔が何度も硬い肩甲骨に当たって痛い。バタバタと足を振って抗議すれば、うるせぇと呟いたゾロがむんずと尻の肉を掴んだ。 「ぎゃっ…いて、イテテ、痛ぇ!!」 バカでかい手のひらでギリギリと掴まれれば思いの外痛い。叫ぶサンジをよそに、ゾロはぐるぐると一階のフロアを歩き回った末、一つの扉を開けた。 客間だろうか。柄の織り込まれた緋色の布が四方に掛けられ、壁には花まで飾られている。 天井付近にある明かり取りの窓のお陰で、部屋全体はやわらかに明るい。 どこか暖かく湿った空気にふと匂いを嗅いで辺りを見回せば、部屋の奥に置かれていたのは白い陶器の風呂だった。 広くて深いその浴槽には砂漠では貴重な水が存分に溜められ、並々と張られた水面からはわずかに湯気が立っている。 床に置いてある数本の、一抱えもある大きな瓶は多分換えの湯だろうか。 呆然とするサンジをゾロはその前で降ろすと、おもむろにぐいっと服を引っ張って頭から脱がせた。 元から身に着けているのは簡単な布一枚だ。細くて白い体が露になるのを今更恥ずかしがるわけでもないが、ゾロは抜けずにサンジの背後で手首に絡まったその服を、めんどくせぇなと呟くと突然ビリッと左右に引きちぎってポイと捨てた。 呆れて何も言えないでいれば、ゾロはそのままサンジの体を担ぎ上げ。 「ちょ、おいッ…!!」 あろうことかぽい、とその風呂の中に放り投げた。 派手な飛沫が上がり、暖かな湯の中で天地が逆転する。 「……ッ、…!?」 ガボゴボと耳の奥に煩い水音。第一両手は後ろで固定されたままなのだ。 浅い浴槽の中とは言え一瞬パニックになりかけるが、なんとか必死に指先と膝を突っ張らせてサンジは水面に顔を出した。 「っ…こッ…殺す気か…!!」 「悪ぃ悪ぃ」 湯船の縁に首を引っ掛けてげほごほと咽た喉から飲んだ水を吐き出していれば、同じく裸になったゾロが隣に足を入れてきた。 ぜいぜいと荒い呼吸をしているサンジの体をひょいと抱えると、くるりと向きを変えさせて自らの脚の上に座らせる。 「……」 段々呼吸が落ち着けば、部屋は途端に静けさを取り戻した。 ほわりと体を包む暖かさ。 体が揺れる度に、ちゃぷりと湯が音を立てる。 ゆるやかに空気を湿らす湯気に、思わずほう、と息を吐く。 (あー気持ちいー…) ………じゃ、なくて!! 「……何だこれ!!」 何この状況!? 裸の男の膝に乗せられて、というか後ろからぴたりと抱き寄せられているこの寒い図! 叫んだサンジのすぐ耳元で、ゾロがのんびりと欠伸をした。 「なんだ、魔人には風呂入る習慣がねぇのか」 「あるに決まってんだろ!違ェよ!なんで俺とテメェがこんな体勢で風呂入ってんだ!」 「お前溺れるじゃねぇか」 「っ…そりゃ誰のせいだよ!普通に反対側に座らせてくれればいいんだよ!!」 「うるせぇな、別に体勢くらいどうでもいいだろ」 ……よくねぇよ!! 叫びたかったが、ぐっと堪えてサンジは湯の中で指先を握った。 当たり前だが、ゾロも裸だ。 後ろに回した腕に当たるのはゾロの腹筋。 それから指先にさわさわと当たるのはなんだか、体毛…のような。 それ以上考えたくなくてサンジはぶるっと頭を振った。 別にこんな男を意識しているわけじゃないが、なんせ普段されている事が事だ。 居心地が悪くなって腰を浮かせば、ぐいと腹に回された手で脚の上に引き戻され、前よりもしっかりとゾロの太腿に乗り上げる形になった。 「〜〜〜〜ッ」 尻の間に触れる素肌の感触がどうにも微妙だ。 動けずにいるサンジの頭を撫でるように、ゾロが湯をかけては指を滑らせていく。 「お前、こうして見ると本当はもっと綺麗な色なんだな」 ゾロの指が光に透ける金糸をさらっては遊ぶ。 「美味そうだ」 「……っ」 低い声が耳朶を掠めて、かぷりと歯が立てられた。 ぶるりと震えたサンジの体を、ゾロの手のひらがゆっくりと撫でさすって行く。 けれどそれは、今までの様にサンジの中を無理やり暴く為でも、何か意図を持っている訳でもなかった。 まるで目の前の形を辿るように、ゾロの指先は柔らかくサンジを撫でていく。 首の後ろに置かれた手の暖かさに、ふ、と自然に体から力が抜ける。 狭い入れ物の中で、突然ジャバッと湯が跳ねた。ゾロがサンジの体を持ち上げて向きを変えさせたせいだ。 正面から向き合う形に座らせられて、静かに見詰め合う。 ゾロはサンジの首に手を伸ばすと、そのやわらかく脈打つ喉を親指で軽く押さえた。 サンジは逆らわず、じっとゾロを見つめる。 ゾロの目は不思議な色をしていた。 真っ直ぐに澄んでいる瞳の奥には、何の感情も読み取れない。 獣のような本能も、人としての欲望も。この世の中にあるべき正邪の天秤の振れが何も無いように、ただ恐ろしく静謐な色を湛えてサンジを映している。 その静けさになぜかゾクリとした時、ゆっくりとゾロの口が開いた。 まるで確かめるように、サンジの首筋に歯が立てられる。 強くは無い、甘く押し当てるような刺激に肌がちりっとうずいた。 「……っ」 小さく吐息を漏らして、サンジはゾロを受け止める。 首に立てられた歯は、サンジの耳の下に、そして頬に移動して。 じっと、どちらともなく絡んだ視線の末に、唇が触れ合った。 軽く食むように数回重ねられた後、ちゅ、と一際深く吸い上げられる。 いつの間にか震えていた瞼を開き、サンジはハ、と熱い息を逃がした。 「…なんだよこれ」 問えば、ゾロの指が不思議そうにサンジの唇を拭った。 「いや…なんだろうな。なんとなくだ」 ふ、と笑うように空気が揺れた。 「ってめ、どこ触って…」 ぎょっと身を引けば、湯の中に沈んだゾロの手がサンジの股間のものを戒めるようにぎゅっと握り込んだ。 「ちょ、待て……ッ」 跨って開いた尻の間にもう片方の手が滑りこみ、やわやわと蕾んだ部分をこねている。 逃げ出そうとする体が不自由な体勢と湯に絡めとられているうちに、ぐっと半ば捻じ込む様に指先が潜り込んできた。 「ぅ、あッ、…!」 隙間から入り込んでくる生ぬるい湯の感触に総毛立つ。 膝立ちになりながらその手から逃れようと浮かした体はしかし、更に腰ごと強い力で引き戻されて、熱い塊に挿し貫ぬかれた。 「っぐ…――ッ!!」 僅かに湯だけで緩んだ後孔など、濡れていないに等しい。 痛みと衝撃に引き攣れる体を、目の前の男は容赦なく割り開く。 ちかちかと視界が霞む。悲鳴を飲み込む為に、倒れ込んだ先にあったゾロの肩にサンジは思い切り歯を立てた。 一瞬自分を抱くゾロの体に力が入る、が、次の瞬間お返しとばかりにぐっと奥深くまで突き入れられた。 「ぁ、あぁ、……ッ!」 唇が離れ、悲鳴が小さな部屋に響く。 ぱしゃりと水が跳ねる。 気づけばゾロは動きを止め、乱れた呼吸を繰り返すサンジの頬をそっと撫でていた。 またあの不思議な色を宿した目が近づく。 「やめろ…」 首を振り、サンジは顔を逸らした。 けれど顎を掴まれ、逃げ場など与えられないまま深く唇を割られる。 絡まる舌に、浴槽を揺らす水音が重なる。 「こういうのは、やめろ…っ」 まるで勘違いしそうなほど甘い呼吸の合間に、サンジはゾロの唇と指先から逃げようともがいた。 こんな扱いは酷い。 今までにない柔らかな動きに、ゾロの自分へと向けられる興味の中に、特別な何かを見出してしまいそうになる。 目の前の男のただの気まぐれに、何かを期待してしまいそうになるではないか。 やわりと撫でられ、萎えかけていたものがゾロの手の中でずくりと疼いた。 「へぇ」 ゾロがサンジの顔を覗き込みながら、目元を撫でた。 「今日はいつもと色が違うんだな」 「……っ!!」 驚きに目を見開いたサンジの頬を伝って、一粒の雫が湯の中に落ちた。 二人の間にゆっくりと沈んで行くそれを、ゾロの手のひらが受け止めて掬う。 目の前に持ち上げられた手の中、透明な赤のグラデーションの中に金色の火花のようなきらめきが入っている一粒の宝石が輝いた。 サンジは目を逸らして、後で括られた自らの手の内にきつく爪を立てた。 認めるよりも先に自覚させられた自分自身の感情に、その事実に、どうしようもなく震えた。 言われなくてもわかっている。 サンジの内面の感情をそのまま映し出す鏡、その涙の色が違う理由など。 諦めたように静かに目を閉じたサンジの濡れた髪を、ゾロがやわらかく後ろへ梳いた。 三度与えられる口付けはやはり、毒薬のように甘く、奥深くからじわりと自分を壊す音が聞こえる。 まるで硬く乾いた砂の城が、足元からじわじわと波に崩れ落ちていくような。 やがて緩やかにゾロが律動を再開し、手の平から零れた粒は二人の立てる波の間に消え落ちた。 (こんなのは――だだの気の迷い、一夜の夢だ) そう思うのに、溢れる想いはサンジの中から止まる事なく流れていった。 |
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