砂楼の王国 <3>
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 熱いな。
 
 転がりながら、サンジはぼんやりと思った。
 後ろ手に縛られているのは変わらないものの、今日は吊り上げられてはいないので床の上に横になっている。
 床石は切り出した表面が粗く、乾いた大地そのままに冷さとは程遠い。その上ざらざらした砂まみれで気持ち悪い事この上ない。
 
「ぅ、………」
 小さく呻いたサンジの額から、滑り落ちた汗が地面に吸い込まれていく。
 この屋敷の上階に住む男は、今頃大理石の冷たい床の上で脂の乗った腹を更に肥やしているのだろう。
 そういえばいい加減喉も乾いてきた。
 魔人といえど決して不死ではない。しかも今は力も封じられているのだ。

(もしかしたらそろそろ死ぬかもしれないなぁ。)
 虚ろな目で考えていたら、ビクリと無意識下の反射で体が跳ねた。
 
 熱い。
「っ、く……ッ」
 熱くて熱くてたまらず、サンジはぎゅっと爪先に力を込めると腹を折るように体を曲げて衝撃に耐えた。
「あ…――あ」
 一瞬目の前が明滅し、呼吸が止まる。
 一気に熱の回った体の末端が、じんじんと痺れる。
 
 大きく息を吐き出せば、どっと流れた汗が冷たく肌を伝った。
 力の抜けた体。けれど脚の間に差し込まれたままの男の手が、力任せに達したばかりのサンジのものを扱き上げる。
 ぬるぬると滑る内腿が気持ち悪い。
「っ……」
 どんな状況、相手であっても、優しく快感を引き出す様に擦られれば達する。
 達すれば体力を消耗するし、そして達したばかりのそこは無防備で感覚が鈍くなる。
 鈍くなるけど不思議と敏感で、そして手加減なしに握られれば快感を通り越して痛い。
 
「やっとかよ。反応悪ィな。毎日あのオヤジにヤられて不能になったか?」
 散々サンジのそこを弄くっていた男が、まるでため息でも吐くように言った。
 
(うるせぇ。テメェの技がねぇんだよ。)
 そう言えば返ってくる仕打ちは容易に知れるので、言葉にはしない。代わりにサンジは男を睨み付けた。
 
「魔人って言うからどれだけ屈強な奴なのかと思ってたんだが」
 ゾロと名乗った男は床に座り、淡々と行為をこなす。サンジに対する欲などはまるで見えず、ただ機械的に仕事をこなして行くだけだ。
 裸で汗まみれになって転がるサンジに対して、ゾロは初めて会った時と同じ、腰に剣を差した服装のままで片手しか動かしていない。
「こんな事しか出来ねぇと腕が鈍っちまうな」
 くあ、と欠伸をするゾロに、ふつふつと怒りが湧いてくる。
 
「おい、面倒だからさっさと泣けよ」
(この、クソヤロウ……!!)
 ギッと強く睨めば、面白そうにゾロが笑った。
 挑発したというよりも、単純にこちらが無反応だとつまらなかったという顔だ。

「なぁ、そういえば魔人にはこういうのは効くのか?」
 ゾロがふと思い出したように、空いている手で懐から小さな油紙の包みを取り出した。
 中を開いて見せれば、そこには乾燥した細い葉が数枚。
「……?」
 いぶかしむサンジの前で、ゾロはサンジの前から手を抜くと自分の服をあれこれと探った。
 けれど目的のものが見つからなかったらしく、小さく舌打すると左腕に巻きつけていた黒い布をするりと解いた。
 そしてサンジの濡れそぼって項垂れたものを掴むと、根元から幹にかけてその黒い布を巻きつけていく。
「なにしてやがる……」
「あ?この方がきっと辛いんじゃねぇかと思って」
 絶句するサンジの前で表情も変えずゾロは言う。
 ぐるぐると縛り上げられた性器が、その締め付けの下でドクドクと脈打つのがわかる。

 ゾロはサンジの先端を濡らしていた液を手の先で拭うと、先ほどの葉をすり潰しながら捏ねていく。
「……」
 ここまで来ると、その用途は見えてくる。サンジはぎゅっと縛められた手の平に爪を立ててゾロの指先を睨んだ。 
「これはあれだ。なんかの草だ」
「…見ればわかる」
「まぁそうだな、でも中々出回らない貴重なモンらしいぞ」
 ゾロはすり潰された葉を指先に取ると、確かめさせるようにサンジの前に突きつけ、笑った。

「そんですげぇ飛ぶんだと」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「なぁ、どうだよ、おい」
 後から覆いかぶさったゾロが、耳元で囁く。
「……ッ、―――!」
 けれどそれに答える余裕なんてあるわけがない。サンジは荒い呼吸を繰り返しながら、熱い体を床に擦りつけた。
 後孔に激しく突き入れられているのはゾロの指。先ほどの葉をたっぷりと擦りこまれた腸壁はジンジンと熱く、そして疼痛が湧き起こっている。
「あ、やめ…、ヤ…―――!」
 バラバラと内部で動かされれば、まるで電気が走るような刺激に意識が白く霞んでいく。
 性器ははちきれんばかりに膨らみ、巻かれた布を押し上げる。けれどきつく縛られたそれは固く、快感より勝る痛みに引き戻されながらサンジは悲鳴をあげた。
 
「…あんま効き目ねぇなァ」
 そんなサンジの顔を見下ろしながら、ゾロが盛大なため息をついた。
「……ふ、ざけ…ッ」
 これだけの仕打ちをしている癖になんて言い草だろうと、熱い体を散々弄ばれながらもサンジは気力を振り絞って睨みつける。
 しかしぐ、と折り曲げられた指が内部を抉って、サンジは再び床に額をつけた。
 汗が頬を伝って石の床に吸い込まれて消える。

「あぁ、それとも気持ち良くねぇのか。俺も試すの初めてだしな、これ。」
「……」
 不意に体がひっくり返された。
 天井、そしてニヤリと笑うゾロが視界に入る。
「お前の場合まだこっちの方がいいんだろうしな」
「え、……あ…!」
 開かれた脚の間、後孔から引き抜かれた指が、油紙に残っていた葉を全て掬い取った。
 そしてもう片方の指が、たらたらと透明な涙を零して喘ぐサンジのものを握った。
 嫌な予感に青褪める。

「やめ……」
 痺れた太腿に力を込め、床の上で逃げをうつ。けれど腰が僅かに動いただけで、抵抗はあっさりと終わった。
 笑うゾロの濡れた指が、容赦なく真っ赤に泣き濡れたサンジの先端に押し付けられた。


 
 

 頭が、体が、指先が、すべてが熱い。
 ジンジンと痺れて、けれどすぐそこまで迫る快感の波に、中々手が届かない。
 出口を失った快感が体中を暴れ、サンジは身をくねらせた。
「…といて、前、ほどい…」
 一体何を懇願しているのか、それすら熱の中にぼんやりと霞んで消える。
 ぐちゃり、敏感な先端の肉を、指が擦り上げた。
 柔らかな皮を剥き下ろし、熱い肉が分厚い手の平に包まれたまま何度も何度も擦られる。
 目からぼろぼろと何かが溢れていくが、最早そんな事関係なかった。
「い、きた……いきタ、い…!」
 泣いてしまった悔しさよりも、泣けば楽になれるはずだったという期待よりも、今はただ熱い快感が脳を焼ききるその瞬間を待ち望んでいる。
 けれどきつく拘束された前は非情にもその波を阻む。
「ふ……ッ」
 震える呼吸を飲み込んで、サンジは床の上でのたうった。
 熱い
 熱い。 
 痛い。
 熱い。

「でも、それが気持ちいいんだろ…?」
 不意に囁かれた甘い響き。
 ぷくぷくと汁を零し続ける穴の中に、ゾロの指が薬液と共に爪先をめり込ませた。

「あぁああ――……ッ!!」
 電撃のような真っ白い快感が背筋を駆けて目の前で弾け、サンジはビクビクとその身を跳ねさせた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 はぁはぁと息が荒い。
 ぐったりと汗まみれの体は、時折まだ痙攣を繰り返す。
 サンジは力なくゾロを見上げたまま、うんざりと息を吐いた。
 凄い快感だった。
 なのにまだ後孔や前はジンジンと熱く熟れたままだ。
 薬の効果はまだ続いているらしい。

「もう目的は果たしただろ…いい加減、」
「あー…悪い」
 言い終わる前に、ゾロが参ったというように頭を掻いた。

「俺もこれ使うのが初めてでな、実はどうやったら効果が切れるのかよく知らねえんだ」
「な……!」
 絶句するサンジの股間に手を伸ばすと、ゾロは前を縛っていた布を解いた。
 まだ熱く硬いそれを、今度は両手で挟み込む。
「なに……」
「侘びと言っちゃなんだが。とりあえず沢山イかせてやるからよ」
 ニカリ、ゾロがさわやかに笑う。

「い、いい…」
「まぁ、こっからは泣かなくてもいいから。好きなだけイっていいぞ」
 顔を引き攣らせ、サンジは首を振った。
「そういう問題じゃね、いやほんともうムリだか……っ」
 けれど力のない体で抵抗できるはずもない。
 ゾロの指が、再びサンジの奥へと潜りこんだ。
 
「ひ、……ぁ…――!」
 
 そして城の地下の奥深くからは、その日一晩中声が響くこととなった。


 
 




 
 
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あれ、なんか終わり方のせいか、さわやかな雰囲気になってきたかも?(笑
ぼちぼち続けていきますのであと数回お付き合いください。

 10.10.17