砂楼の王国 <2>
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 蜀台の灯りが揺らめく屋敷の地下の奥く深く。
 冷たい石壁に囲まれた小さな部屋には昼と夜の境もなく、ただ濃密な空気が満ちている。
 
 チャリ、と時折かすかに響くのは金属音。そして密かに濡れた音。
 部屋の中央には白い肌をした人間が後手に拘束されたまま膝を付き、額を床に擦りつけている。
 鎖の先は天井付近に固定された釣り鉤に掛けられている為、体を床に伏す事は叶わない。
 時折ビクリと白い体が震え、その度に艶やかな金の髪が砂にまみれた床の上に散る。
 
「ぅ……ァ」
 一糸纏わぬ男の背がしなり、噛み殺した呻きが漏れた。
 開かれた脚の間にポタリとまた新しい雫が垂れて、床の染みを広げていく。
 白く力の込められた足の爪が床石を掻き、その度にゆらり、ゆらり、薄い腰が宙を泳ぐ。
 何かの衝動を押し殺そうとしているようでもあり、逆に淫らに誘っているようでもある。
「ひ……」
 小さく喉を鳴らした男の、ふくりと紅く充血した蕾から透明な粘液のようなものが溢れ、白い肌を伝い零れた。
 食い縛った歯の奥が小さく震える。
 狭い孔が内側から盛り上がり、徐々に抉じ開けられていく。
 秘肉をめくり上げるように中から現れたのは、百足のように細長い甲虫だった。ずるり、それが頭を覗かせ這い出してくる。
 恐怖からか、はたまた嫌悪からか、男は全身を震わせながらその感触に耐えているようだった。
 けれど苦悶の表情とは裏腹に、粘液が伝い落ちていく先、股の間にある男のものはそそり立って濡れている。
「あ…ぁ…」
 白い頬を床に擦りつけて、まるで懇願でもしているかのような男の孔から、長々とした甲虫の尾がいやらしい水音を立てて抜け落ちた。
 抜け出ても尚、そこに何かの感触を認めているかのように、男の後孔はゆるやかに開閉を繰り返す。
 赤い肉を除かせながら呼吸する襞から、ぬらぬらと光る粘液が流れていく。
 
 
 
 
 
「すげぇな」
 
 不意に響いたのは、低い男の声だった。
 第三者の声に、サンジは小さく体を震わせて自分の背後を振り返ろうとした。
 けれど今の体勢ではそれは適わず、小さく体を捩っただけに終わる。
 格子で塞がれた部屋の中。いつの間に扉を開けて入っていたのか、いつからそこで自分の痴態を見ていたのか。全く気配がしなかった。
 
 振り返れないサンジに、ジャリ、と砂っぽい床を踏みしめて背後から男が近づいてくる。
 能力を封じられていても、一旦姿を現した男からは異様なまでの殺気と闘気が溢れていた。逆にこれを一切殺してしまえるとは、相当な手練であることがわかる。
 キッ、と小さな叫びを上げて、蟲が逃げ出した。壁の隅へ行く途中で、黒い霧となって消える。
 
 ぐ、と強く髪が引かれ、無理矢理顔を上げさせられた。
 乱れた金髪の間から強く睨み上げると、男はしげしげとサンジの顔を見下ろした後で、無表情のまま小さく息を吐いた。
「なんだ、泣いてねぇのか」 
 めんどくせぇな。小さく呟くと男は掴んでいた手を離した。
「っ……」
 小さく床に頬を打ちつけて呻くサンジには目もくれず、男は再び背後へと回った。
 
 砂漠の傭兵だろうか。肌は黒く、砂避けの外套や装備も随分使い込まれてボロボロだった。
 緑の髪に金のピアスをした、外見だけなら自分と変わらない、まだ若い男だ。
 砂で磨り減った靴が移動していくのを睨みつけ、サンジは小さく歯を噛み締めた。
 新しい人間。この幽閉された部屋に呼ばれた意味など、考えなくてもわかる。
 
 
 不意に、ぐ、と後孔が開かれた。
「……ッ!?」
 突き込まれたのは恐らく、ごつごつした男の指。
「っ……」
 声を飲み込むサンジの中を、節くれだった太い指が確かめるようにゆっくりとかき回す。
 熟れてたっぷりと濡れていた後孔は難なく男の指を飲み込み、無意識に新しくもたらされた感触を、内部の肉が確かめるように締め付ける。
「随分緩いじゃねぇか」
 笑うような男の台詞に、屈辱で頬が染まる。
 
「ん?」
「……っ!」
 男の指が何かに気づいたように侵入を止め、サンジが小さく脚を震わせた。
「ぁ……や、」
 中に潜り込んでいた指が一旦引き抜かれ、再びもう一本をともなって中に埋められる。
「やめ……」
 懇願など意味もない。ぐ、と中で二本の指が折り曲げられ、何かを掴んだ。
 
「もう一匹咥えてやがったのか」
「ひぃ……っ」
 ずるり、太い指の節が粘膜を押し広げながら引き抜かれていく。
 やわらかな肉が内側から容赦なく擦られて震えるサンジの後孔に、男は引きずり出した甲虫の頭を出すとそのまま指を引き抜いた。
「なッ…ぁ…?」
 首を後孔の襞に絞められたような形になった甲虫が、小さく身じろぐ。  
 
「抜、け…抜けよ…っ」
 先ほどまで必死に押し殺していた恐怖が再び競りあがり、サンジの口から悲鳴が零れた。
 小さな足が出口付近でもがく、その感触にぞわぞわと肌が粟立つ。
 おぞましい。気持ち悪さと根底から湧き上がる恐怖に、体が再び震え出す。
 
「ひ……ッ」
 少しでも体に力を込めれば、甲虫の体を締める事になる。
 もし万が一、そこで潰れでもしたら。
 考えてしまった恐ろしさに、ぞわっと身の毛がよだった。益々震えが止まらなくなる。
 
 けれど、少しでも力を抜いて体を弛緩させると、今度は別の感覚がサンジを突き落とすのだ。
 無数の硬い蟲の足先で、柔らかく敏感な粘膜を抉られる。
 言い逃れようのない、その快感――。
 
「あ……ぁあ…」
 恐怖とは相反する体の反応に、思考がぶれていく。
 
 
 
「イイのかよ」 
 震えるサンジの後ろで、男が笑った。
 
「家畜と交わる趣味なら見た事があるが、テメェはそれ以下だな」
「…――っ」
 言葉も返せずひたすら体の感覚だけを逃がしていると、男が身につけていた何かを解く布ずれの音がした。
 思った瞬間、ヒュ、と風を切る音がした。
 
「…ひ……ッ!?」
 次の瞬間尻に振り下ろされた衝撃に、サンジは目を見開いた。
 
「やめ、…ヤ……!」
 制止も空しく、硬い棒状のものが再度打ち据えられる。
 思考の端で先ほど男が得物を腰に差していたのを思い出したが、すぐに霧散した。
 
 力の入った後孔の中で、締められた蟲がバタバタとその身をくねらせて暴れる。
「ひィ……ぐ」
 溢れる悲鳴を噛み殺し、サンジは腰をくねらせた。
 蟲の硬い足が容赦なく内側の肉を掻き毟り、目が眩むような痺れが全身を駆け抜ける。
 力を抜こうと思うのに、内部からもたらされる快感に体は容赦なく蟲を締め付ける。
 
「ぅ…ア…――!」
 止めようもなく体は頂点に導かれ、ガクガクと震える体から放たれたものが腹と床を濡らしていく。
 恐怖と快感に見開かれた目から、堪えきれず熱いものが零れ落ちた。
 
 キン。
 硝子のような澄んだ音に、三度振り下ろされた男の手が寸前で止まった。
 
 
「へぇ、案外簡単に出るんじゃねぇか」
 男は手に持っていた刀を腰へ差し直すと、床に転がった宝石を拾い上げた。
 そして荒い息を吐きながら放心しているサンジの顔を、グイと持ち上げる。
 
「俺の名はゾロだ。今日からテメェのコレを取る係りとやらになった」
「……っ」
 返事の代わりに、未だ後孔で蠢くものの余韻で、小さく体が跳ねた。
「仕事に手間かけるのは好きじゃねぇんだ。また次も簡単に出してくれよ」
 
 熱い息を零しながら、サンジは虚ろにゾロを見上げた。
 軽い口調で言う男の目には、何の感情も映っていなかった。
 
 
 




 
 
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蟲ぷれー続行してしまいました。苦手な方すいません。
そしてオフ本とは違うポジションのゾロ登場です。こっちのゾロのが断然酷いか、も?
ひさしぶりすぎる更新がこれかい、て感じですが、
言葉責めな話を考えていたら、そういやそんなモードで書きかけの話があったのを思い出しまして。
こんな感じの読みきりっぽいモードで、あと少しだけ続きますー。

 10.07.1