砂楼の王国 <1>
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 これはまだ人と人で在らざるものが混在していた時代。
 砂漠の入り口、オアシスのもとに築かれた豊かな町。その中でも一際豪奢な屋敷の奥深く。
 隠された扉をくぐり、乾いた石段を降りたその先にある閉ざされた部屋の祭壇の上に、一人の男が横たわっていた。
 
 煌々と明るい室内に照らされるのはこの町特有の金刺繍の施された衣装。しかしそれを纏う男の肌は砂漠の民ではないと一目でわかるほど抜けるように白く、黄金を集めたような髪とオアシスよりも深い瞳が印象的だった。
 一見華奢にも見える、細長い手足。背に組まれた男の手首には、透明な水晶でできた枷が嵌まっている。
 
「そろそろ教えてはくれないかね」
 男の顔を背伸びするように覗き込んだのはこの城の主だ。身長と同じ小さく丸い指で肥えた腹と髭を忙しなく撫でながら、うろうろと壇の前を行き来している。
 男はこの砂漠の町一番の金持ちだった。全ての贅を尽くし、見聞きする美しいもの、珍しい宝は全て手に入れてきた。
 その男が今夢中になって求めているのは―――人で在らざる者、魔人だけが持つという美しい宝石。
 
 壇の上に横たわった男は片方の目を薄く開いて城主を見下ろすと、小さく冷笑してまた瞳を閉じた。
「〜〜〜ッ」
 城主の顔が屈辱に赤く染まる。苛立ったようにぐるぐると壇の周りを回るが、しかしそれ以上は近づこうとはしない。
 魔人の力を吸取る水晶の腕輪。いくらそれを嵌めているとはいえ、人智を超える力を持つ相手にうかつに手を出そうとする程馬鹿ではない。男は元より自分の武器とするものが、腕力や知力ではないことを知っていた。
 長い時間と金をかけて、ようやく捕えるまでに至ったのだ。ここで下手に逃げられでもしたら大変だ。
 しかし困ったことに、人とは違い不死身の体を持つ魔人はどんな拷問にも屈しなかった。深い傷とて、つけた端から治ってしまう。
 雇い入れたその筋の人間にも、結局はただ黙秘の金を払うだけで返す始末。
 なんとかして伝説の宝石を手に入れたいものの、どうやってその在処を吐かせようかと男はここ数日の間ずっと思案していた。
 
 
 ふっと、狭い地下室に暗い気配が漂った。
 煌々と灯っていた燭台が、ゆらゆらとざわめく。
 壇上の魔人が、その気配に青い目を開くと男の背後を睨みつけた。
 
 
「随分苦労しているらしいな」
 ゆらり、闇を纏うように地上からの階段の奥から現れた男。足元まである黒いローブを羽織り、顔を横切る傷の下で男が笑った。
「おお!」
 小太りな城主は飛び上がるようにして、その男の元へと駆けよった。
「術士どの、待ちかねておったぞ!」
 城主の背は男の胸くらいまでしかない。男はちらりと城主を見やり、長い着衣の裾を翻した。黒い革靴が、音もなく石畳を滑る。
「お前に、頼みたいのは、他でもない…っ」
 文字道り飛び跳ねながら纏わりつく城主を男は手で退けて黙らせると、背の高い男はまっすぐ壇上の魔人に歩み寄った。
 
「しばらく見ないうちに随分いい格好になったようだな?……サンジ」
「……クソワニ野郎」
 
 身を起こした金色の魔人が、低く吐き捨てた。睨みつける青い光りを受け止めて、ワニと呼ばれた男は薄く笑った。 
「そんな目をしたところで、誘っているようにしか見えんな」
「変態野郎がッ……」
 罵りの言葉に、男は面白そうに笑い声を上げた。
「今更そんなナリで何を言っても意味はないな」
 
 男はごつごつと派手な宝石の嵌まった指で魔人の喉もとを掴むと、壇上に引き倒した。
「……ッ!」
 胸を反らすようにして仰向けに押さえつけられた魔人の顔が、小さく歪む。
 男がもう片方の手を黒いローブの下から出し、頭上に掲げた。現れた金色の大きな鉤状の義手が、鈍い光を放つ。
 その鉤先がくるりと空中で小さく何かを描いたと同時に、しゅるるっと男の足元から蔓のようなものが現れた。
 見る間に壇上に這い上がったその蔓は魔人の白い足首に巻きつき、その脚を左右に割り開く。
「……くっ…」
 抵抗も虚しく両の足首は縫い止められ、魔人は壇上で膝を立てたまま男に向けて脚を開いた姿になった。
 
 男の鉤爪がゆっくりと魔人の服の上を滑った。ビリリッ、と布を裂く音と共に、男のなぞった後を追うように布が裂けていく。
 燭台の灯りに浮かぶ白磁の肌。胸元から、普段は隠された金の茂みまでもが男の下卑た笑いの前に晒される。
 しかし青い瞳は揺るぎもせずに、じっと男を睨みつけていた。
「その顔がいつまで持つか、見ものだな」
 男の手が魔人の脚の間に伸びた。
「……ッ、」
 男の指が一本、硬く閉ざされた後孔の窄まりに突き立てられた。
 節くれ立った指の形に襞が押し広げられる。魔人が小さくうめいて眉をしかめた。
 ぐり、と男の手が狭い肉穴の中でひねられ、更に沈む。大きな石の嵌めこまれた指輪の付け根で、侵入は止まった。
 何も潤いを与えられていないそこは傷むだろうに、魔人は唇を噛み締めたまま決して男から視線を逸らさない。
 
「相変わらず気の強いことだ」
 そうでなくてはな。
 男がニタリと笑った。再び金の義手が空中で何かを描く。
「……っ!」
 その動きを見ていた魔人が小さく息を呑んだ。
 義手の手から、ぽたりぽたりと魔人の体に滑り落ちたもの。
 それは黒光りする甲殻を持った、細長いムカデような蟲だった。
 細かく生えた脚が、魔人の露になった肌の上をカサカサと這う。
「―――ッ」
 目に見えて魔人の表情が変わった。目を開き、青ざめた顔で自分の上に居るそれらを見つめる。口は何かを堪えるように強く引き結ばれたままだ。
 
「俺の作ったペットみたいなもんだ。大丈夫、噛んだりはしねぇさ」
 楽しげに男が笑う。
「ただちょっと、滑りやすいがな」
 男が摘み上げた手の平の中でちょいと撫でるように指先を動かせば、蟲の体がどろりとした粘液を纏った。キィキィと小刻みに揺する硬い殻の繋ぎ目から、ぬるぬるした液体が溢れ出している。
 手の中で蠢くそれらを見せ付けながら、男は魔人の脚に手をかけた。
 そしてその中心、金の茂みにくたりと横たわる魔人のモノに手を添える。
「さてどっちに入れて欲しい?後ろの穴に沢山詰めてやろうか?それとも…」
 男の指先が先端の肉を割り開き、魔人の赤く熟れた内部を晒した。
「――――ッ!!」
「この狭い穴に入れようか?」
 ちゅる、と男の手の平から零れた蟲が、薄桃色をした魔人の先端にむしゃぶりついた。
 
 
 
「……ッ、――――ッ!!」
 狭い地下の部屋に振動が木霊する。
 声もなく絶叫しながら、魔人は目を開いたまま身を震わせた。
 途中で細く空気に消えた悲鳴と共に、魔人の目尻からホロリと小さく零れ落ちたもの。
 頬を伝う雫は空気に触れた途端、白銀の光り輝く石となり、リン、と震えるような音を立てて壇上に転がった。
 
「……おお!!」
 それまで部屋の隅で成り行きを見守っていた城主が、感極まった声を上げた。
 小走りに壇に近寄り、短い手を伸ばす。
 しかしそれより早く、魔人を嬲っていた男の鉤爪でない方の指がその宝石を拾い上げた。
 
「何をする!」
「これは俺の手間賃だ」
 見本は見せてやった、あとは自分でやるんだな。
 慌てる城主の目の前で男は笑うと、燭台の灯りに震えながら輝く宝石をベロリと赤い舌の上に乗せた。
 転がし、まるで味わい尽くすように舐めしゃぶると、男は最後に奥歯でシャリンッとそれを噛み砕いた。
 
「…随分いい味がするじゃねぇか、プリンス?」
 壇上の魔人は、気を失ったのかぐったりとその身を横たえ、答えもない。
 クハハハ、と男の笑い声だけが、いつまでも地下室に木霊していた。
 
 
 
 
 
 
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書いてるうちになんだか描写がリアルにキモくなったので、
あそのこ穴に蟲さんがINしたのかしなかったのかはご想像におまかせします(笑)
ゾロ、微塵も出てきてないけど次回へ続きます!

 08.04.15