地下部屋倶楽部 第1夜
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「地下部屋倶楽部にようこそ、紳士・淑女の皆さま」
 
 真っ暗な部屋に不意にスポットライトがあたり、一人のタキシード姿の男が現れた。顔には額から鼻まで隠れる黒いマスクをしており、顔は見えない。背が丸く少々小太りなその男は恭しく客席に向かってお辞儀をすると、白い手袋に包まれた右手を掲げた。
「いつも我が社の製品実践販売の場にお来しいただきまして、誠にありがとうございます。本日はお客様にまずお知らせがございます。実は先日見受けされたアシスタントに代わる素晴らしい人材が見つかりました。今日からはこちらの青年に商品の試用をしていただきます」
 ご覧下さい、と男が指した方向にスポットライトが移る。
 そこには2人の筋骨逞しい男に膝裏と肩を抱えられた1人の青年がいた。両脇の男は頭にマスク、上半身裸に黒皮のビキニパンツを履いているのに対して、青年の方は全身何も身に付けておらず、白い滑らかな肌がスポットライトに惜しげも無く晒されている。
 両脇から抱えている男がより見えるように青年の膝裏を割開いた。金色の柔らかな恥毛に包まれた色素の薄いペニスも、その奥の慎ましく口を閉ざしたピンク色の窄まりも明るみに出て、いくつもの好色な視線が舐めるようにその上を這った。
 意識がはっきりしていないのか、青年は突然浴びせられたライトにくるりと巻いた愛嬌のある眉をしかめたものの、際立った抵抗はない。左眼を覆い隠すさらさらとした金髪が光を弾いた。
「実はこの青年、あの有名な麦わら海賊団の一味でございます」
 その言葉に、会場がかすかにざわめき立った。その海賊団の名前を知らぬ人間などこのGLに居りはしない。しかし司会者の男はまだ早いと言わんばかりに手でそれらの声を抑えると、更に言い募った。
「それだけではございません。この青年はかの海賊狩り――皆様も一度は耳にしたことがある名前かと思いますロロノアゾロ…そう、現在の賞金額はいかほどにまで跳ね上がっておりましたでしょうか…あの男の」
 ――イロなのでございますよ。
 男は最後の部分だけ低く声を落として囁いた。今度こそざわつき始める客席に、男は鷹揚に両手を上げた。
「まぁ信じるか信じないかはご自由でございます。その肩書きを抜いても、素晴らしいこの肢体。さぞ皆様のお目を楽しませてくれることでしょう」
 男の目が仮面の奥でにたりと笑った。
「では本日の商品でございます」
 
 
 司会者を照らしていたライトが消え、新たな光が壇上の別の場所に現れた。そこにあるのは奇妙な形をした木馬。
 子馬ほどの背丈のそれは、背に座る部分が長く、その上に等間隔で2本の突起が飛び出ていた。
 突起は良く見ればごつごつと太くて赤黒く、男性器の形をしている。
 司会者が脇からその光の中に入ってきて、木馬の背を撫でた。
「バイブです。シリコン製でリモコン式。性能は実際にお見せしながら説明いたしましょう」
 司会者の言葉に立っていた男たちが青年を抱えたまま木馬にやってきた。司会者の男が木馬の後ろの方に突き立っているバイブに、どこからか取り出したチューブからどろどろしたローションを塗りたくった。
 その上に男達が、青年の両足を思い切り広げて跨らせる。青年のアナルに、くぷんとバイブの先端が沈み込んだ。
「あ、ああああァアアッ!!」
 青年のアナルにも何かしらの手が施してあったのか、やわらかく開いた口がぐぷぐぷと太いそれを飲み込んでいく。
「や、やめッ、ひああッ……!」
 しかし流石に体を割り開かれる行為に衝撃を受けたのか、さっきまでの大人しさが嘘のように青年が暴れ出した。その手足を押さえつけながら、男達はゆっくりと青年の体をバイブの上に落としていく。
 ぐぷん、と根元までバイブが青年の腹に埋まって木馬に跨った形になると、ガシャンと青年の両手首には後手に手枷がはめられた。更に逃げようと木馬の背に乗り上げる脚を捕まえて、その足首にもジャラリと鉄球の付いた枷がはめられる。
「ひぃんッ」
 重みでぴいんと両脚が伸び、バイブがぎりぎりまで引き下ろされた体にハマりこむ。その衝撃に金髪の青年の青い目が見開かれた。
「ではバイブの説明です」
 司会の男が滑らかに話し出す。
「まず2本あるバイブですが、これらは全く違う動きをさせることもできますし、同じ動きをさせておくこともできます。奴隷を2人飼っている方は、もう1本にも跨らせて、同時に2人を責めることができます」
 男は手にした細長いリモコンを掲げた。
「バイブの振動は小から大までこのつまみで上下させます。ちなみに同じ動きにした場合このような楽しみ方もできます」
 男の手が電源を入れ、つまみをぐいっと押し上げた。
「ひッ」
 青年の体が強張った。背を反らして何かを耐えるように唇を噛む。青年の目の前に天を向いて突き立ったままのバイブが、ぐねぐねと動き出していた。
「このように同じ動きに設定しておけば、この青年の腸の中で淫具がどのように蠢いているか、責め立てているのかがよく解りますでしょう」
 つまみを上げるたびにぶるぶると青年の目の前にある男根の首が激しく振りたてられて、青年の体も同じようにがくがくと震えた。
「動きのバリエーションとしては縦揺れ、横揺れ、回転と、向きを選んでそこをノックすることも可能です」
 ほらこのように、と男が操作すると、ぐるりとバイブが回って木馬の頭の方に太く張ったカリ首部分が斜めに押し出された。
「…ッ!?や、なに…、あひィッ!」
 青年の口から意味を成さない言葉が漏れる。
 そしてバイブはそのままひこっひこっとまるで腰を打ち付けているような動きで上下運動をし始めた。
「あぅ、あ、あッ、はぁッ、ひっ…」
 ずん、ずん、と前面をノックする度にぶるぶると震えた青年の口から吐息が押し出される。
「男性の場合この辺りには前立腺なるものがございまして……なかなかヒットしない場合は更にこんな機能もございます」
 と、突き上げる動きをしているバイブのシリコン部分がぐんぐんと嵩を増してきた。じわり、じわりと内側から骨が張るようにバイブ自身が大きく脹れ上がって行く。
 突然太さを増した内部の張り型に、青年の目が驚愕に満ちた。
「これが今回のバイブの特徴でして、自在に太さを変えることが可能なのです。フィストまでの太さにはなりませんが、アナルの拡張に使用することも可能です」
「うあ、あああああぁッ!!」
 ごつごつと大きな淫具に前立腺を直に叩かれて青年がのけぞった。
 白い肌はすっかり桃色に染まり、股間の性器は天を向いてとろとろと先走りを溢れさせている。
 男がつまみを最上段にまでゆっくりと押し上げていく。ブブ、ブブブ、と振動が激しくなり、青年が赤く染まった顔を振る。金髪が乱れ、のけぞった首に汗が流れた。
「ひぃゃ、やめ!ヤ、アァ……ああああああああああああああッ!!」
 絶叫とともに、青年の性器から白濁が吹き上がった。びくびくと背を震わして絶頂を迎える。白い液体が木馬を、青年自身の胸や腹を汚していく様を、会場の人間は皆熱い息を押し殺して見守っていた。
「あ……ひぁ…」
 青年が最後の一滴まで出し切るのを見届けて、バイブがカチリと止められた。
 半開きになった口から荒い呼吸を吐きながらがくりと俯く青年を、脇で見ていた黒皮パンツの男がそのまま木馬の上にうつ伏せに押し倒した。
 アナルを貫かれたままの不自然な体勢に苦しげなうめきを漏らしながら、青年はそれでも抗う気力がないのか男の手に押されるがままになっている。
 うつ伏せになると丁度顔辺りにもう1本のバイブがある。男の手が、荒い呼吸に開きっぱなしの青年の口をそれに押し込んだ。
「んぐぅッ!」
 身を捩るが、自由を奪われた体勢が変わるはずもない。
「補足ですが、このようにもう1本のバイブは口責め用にも使える距離に設置してございます」
 そして司会者の男は熱をもった会場をぐるり、満足そうに見渡した。
「以上で本日の製品説明を終了いたします。ご購入いただける方は、いつものように隣の部屋の受け付けまで……それでは皆様、また次の夜にお会いいたしましょう」
 上と下の口に大きな張り方を含まされたまま、青年の目元から生理的な涙が零れた。
 
 
 
「……いかがですかな?ロロノア殿」
 薄暗い部屋に煌々と光を放っているのは、先ほどの舞台の様子を余すところ無く中継しているモニター画面だ。
 その前の広い革張りのデスクにふかぶかと腰掛けた壮年の男は、にたりと好色な笑みを浮かべながら目の前に立って画面を険しい表情で凝視していた男を見た。
 緑髪の剣士――ゾロはぐっと拳を固めて男を振り返る。その目は煮えたぎるような怒りを含んでいた。男の傍に控えていたボディガードが、その気配に反応して武器を構えかけるが、男の手がやんわりとそれを制した。
「最初に条件を呑んだのはそちらだという事をお忘れなく。それに他の男性との交合はさせていないでしょう?」
 訳知り顔で囁かれる言葉に、反吐が出そうになる。苦々しい舌打ちをしてゾロは足元の麻袋を蹴った。袋から赤黒い染みが広がる。毛足のながい真紅の絨毯がそれを静かに吸い取っていく。
「……次はどいつだ」
 獣がうなるような低い声で、敵意も露に男を睨みつける。
 この男が絶大な権力を誇る島に着いてすぐ、チョッパーが撃たれた。すぐに仲間によって倒された海賊だったその男も、おそらくはこの男の配下だったに違いない。
 チョッパーは撃たれた傷口から回った毒に倒れ、高熱に苦しんでいる。この島特有の植物から作られたという新種の毒に必要な解毒剤の精製方法や材料も、全てこの男が握っていた。
 目の前にのさばる奴らを斬り捨てることは簡単だが、解毒剤はこまめに精製して7日間の投与を続けないといけない。メリー号はこの島に停泊を余儀なくされた。
 毒の成分も、精製方法もはっきりしないうちは下手に手を出せないのだ。しかも倒れたのが唯一医療知識を持っているチョッパーなのである。
 そこでその解毒剤と引き換えに相手が要求してきたのが、サンジだった。
 解毒剤を打ち終わるまでの7日間、組織の売る商品の販売を手伝えという労働的なその役割。例えどんな内容であってもクルーの為にサンジが条件を呑まない訳がない。
 期限を明示されていることもあり、クルーは歯噛みしつつもサンジを送り出したのだった。
 胡散臭い内容に納得いかなかったのはゾロだ。相手の屋敷にまで単身乗り込み、そこで薬によって意識を奪われて男どもの手によって体を開かれているサンジを見つけた。
 その瞬間目の前が真っ赤になって、気づけばサンジを押さえ込んでいた男達はゾロの周りでこと切れていた。
 しかし、解毒剤のことも何もかも忘れて一気に全てを切ってしまう勢いだったゾロを止めたのが、この目の前の男だった。
「このあたり一体を全て切り捨てたところで、仲間を1人失うだけだよ」
 ゾロの殺気を前にしても臆せず、男は悠々と笑った。むしろそれでもかまわない、といった風情で。
 商売人らしく弁の立つこの男は解毒剤を待つクルーの存在をゾロに思い出させ、なおかつ一つの交換条件を持ちかけてきたのである。
『この男には生身の人間と交合はさせない』
 この組織は薬とこういうアングラ商品を他の島の道楽連中に売りさばいていることで肥えているらしく、最初に条件とした「労働」内容を変えることはできないが、それに条件をつけることならできるという。
 ゾロは自分にかかってくる交換条件が重くなるのを承知で、それに更に『薬や暴力による身心損傷をさせない』という約束を付け加えさせた。ゾロにしては珍しく、冷静に冷静に考えた。
 組織同士、海賊同士でこういう表面上の約束事が守られることは少ないが、相手は既にクルー一人の生殺与奪の権利を握っているのだ。
 チョッパーへの薬の投与が終了するまで、解毒薬自体の信用すら確実ではないが、何らかの活路が見つかるまでは…逆に言えば全ての活路が途絶えたと判断できかねるうちはゾロ一人の独断で全てを潰すことはできなかった。
 男はどこか楽しそうにゾロの打ち出した条件も呑んだ。零れた笑いはゾロの逡巡を見て取った故か、それともサンジとの関係を嗅ぎ取ったせいであるかはわからなかったが。 
 
 
「今度はコイツだ」
 男はいくつも指輪の嵌まった指で、ゾロの目の前にひらりと1枚の紙を差し出した。次のターゲットだ。
 ゾロがサンジの為に引き受けた条件は、この男の指定する人間を狩ってくること。派閥争いをしている組織の連中だというその懸賞金の掛かった写真を握り潰して、ゾロはもう一度画面を見た。
 器具から下ろされたサンジが別の部屋に運ばれていく。
 ゾロは黙ってきびすを返した。
 毎晩ショーの始まる時間までに指名された相手を狩ってくれば、サンジの様子を見ることができるようになっている。
 薬は順調にメリー号に届けられていて、チョッパーの呼吸がだいぶ楽になったようだとナミが言っていた。
 サンジの身になにかあれば、いつでもこの男を斬り殺し、薬でもなんでも奪う覚悟はできている。
 扉を開け、ゾロは黙って夜の闇にその身を溶かしていった。
 
 
 
 全てが終わるまで、あと五夜―――。





*第2夜へ*



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えーとしばらくこんな感じです。最後にはちゃんとゾロサンにおさまります。