おつかれさん
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自分で決めたこととはいえ、へたれることもたまにはあるってことだ。 「疲れた」 口にしてよりいっそう疲労度が増した気がするがそれでも口にせずにはいられなかった。 本当にこのところの忙しさは一体全体何事だろうと思う。 この不景気に忙しいのはいいことなのかもしれないが物事には限度があるだろう、とわめきたい。 が、しかし社会人剣道の部を持つこの会社には剣の腕一本ではいったわけだからして。文句は何もいいようが無い。 じゃなかったらこんな大会社はいれるわけが無い、とは自分も含め(悔しい事ながら)周囲見解一致の意見だ。 だからこそ仕事も剣道もきっちりやりたいところだが…人間には限界ってもんがある。 仕事を終えて基礎練習だけは欠かさずやって。 それでももう日付変更の時間は超えてしまっている。 今日はまだ平日。明日も定時どおり会社は始まりまだまだ書類の山は崩れない。 しかもこれで家に帰れば疲れ癒される何かが待っていると言うならばともかくこちらは一人身、アパートはペット禁止。第一自分の世話さえ見きれてないような人間が動物の世話なんぞ出来るわけも無く。 それをかんがえると余計に疲れが増した。 腹は減ってはいる、が作る気なんてもはや無い。 それでなくとも家事はあまり進んでやりたい仕事ではない。 コンビニに寄るにしてもそれすらもかったるく買い置きのカップラーメンでも啜るか、と考えると今度は疲労よりもわびしさがどん、と肩の上に圧し掛かったような気になった。 前は世話をしてくれたり寂しさを紛らわせてくれたりする恋人とかいう存在もそれなりにあったような気もするけれどこのところは忙しさにかまけててそんな存在作る暇すらない。 元々マメではないし、くるもの拒まず去るもの追わずの精神なのは認めるがこんな気分の日にそれを認めるのは…気がめいる。 なんだかこの疲労の原因がもはやどこにあるのか考えるのすら面倒になりつつアパートの階段を出来るだけ音を立てないように上る。 近所づきあい皆無とはいえやはりそれは無駄な人間軋轢を避けるための最低限の努力だ。 あがりながらポケットの鍵を探る。 冷たい金属の固まりは軽いはずなのにやけに重くて、それに又溜息をひとつ。 奥から2つ目の自分の部屋の前に行きかけ…ちょっと眉を顰めた。 灯りがともされているのだ。 自分の部屋に。 以下に方向音痴気味であろうと2階建てのアパートの階数を間違えるなんて器用な真似はできないしどうみてもそこは自分の部屋で。 泥棒にしては酔狂なところにはいる、と思いながらすこし胆をすえてドアをあけると 「おかえり、ダーリン」 ふざけた台詞がふざけた声とともに飛んできて、ふざけたヤローの姿がそこにあった。 「…サンジ。何でいやがる。」 高校の時の悪友とも呼びたくないそいつは部屋の中に寝そべってまるで自分の部屋のようにくつろいでいた。 灰皿の無い俺の部屋にMY灰皿と思しきものまで持ち込んで。 「いやぁ、店が休みなんだよ、明日。で、この近所で飲むついでについでだからしけたツラでも拝みつつ平日休みのこの身の上を羨ましがらせてやろうと思ってきてみた。」 しゃぁしゃぁと答えるそいつに今日最大限の疲労を感じながら 「鍵は?」 と尋ねると 「前にくすねて合鍵作成済み。俺様のセカンドハウスにでもしてやろうと思って」 と悪びれなんて欠片もない言葉が帰ってきた。 こいつにそういうものを求めるのはとうの昔に諦めているとはいえ…今日という日にこう言う答えは聞きたくなかった。 あぁ、もういっそ何もくわねぇでこのまま不貞寝よろしく寝てやろうかと思ったら絶妙のタイミングで 「んでもってそこに腐乱死体とか餓死死体とかあるのもいやなんで差し入れを持ってきてやってある。ありがたく食せ」 と、ローテーブルの上が示された。 重箱サイズにでかい包みがドン、と乗っているそれをあければボリュームも見た目も完璧じゃねぇのかと思われる弁当が。 「さめても俺様の腕だ。美味いに決まってる」 手元の雑誌からかお一つ上げないで茶を入れるのなら自分の分も寄越せと催促された。 何を、と一瞬思わなくも無かったがこの弁当を目の当たりにすれば文句は引っ込む。 こいつはついでだのなんだの言うのだろうがこの量と種類を用意すんのは結構な手間だろうというのはさすがに俺でも判るし。 なんだかんだといいつつそういう理由をつけてはこう言う事をしてくれるこいつには口にはけして出していったことはないけれど感謝もしてたりする。 「ただきます。」 茶を入れて、パン!と手を合わせて重箱の中身を片端から平らげていく。 俺の飯を食う音とあいつの雑誌をめくる音、そうして時折茶を啜る音のみが部屋の中に存在する。 あらかた食べ終わろうとした時 「なぁ」 と、顔もあげられず声がかけられた。 「お前の選んだ道だし端から見たらばかみたいでもなんでもそれがお前なんだから、少しは誰かを頼りにするとか利用するとかしても罰はあたらねぇと俺は思うぜ?」 一瞬口の中のも野を飲み込むのも忘れて動きと頭の働きが止まった。 そうしてそのあと咀嚼をする。 食い物と、言葉の。 そうして、飯粒一つ残さず最後まで食べ終えて 「ちそーさん」 と言ってから。 サンジの方を見ないで茶を啜りつつ。 「ありがとな」 とだけ言ってみる。 あいつは特になんてことなく「おう」とだけ返事を寄越した。 なんてことはない。 いつものことといえばいつものことなんだが。 いつのまにかだるい疲れは心地いいものに変わっていて、肩に圧し掛かっていた何かが少し軽くなっていて腹の中も気持ちも満ち足りていて。 こう言うのもいいもんだな、とか思いながらさて、今夜はどうやって寝ようかと完璧に泊まる気満々のこいつと自分のサイズと家にある寝具の都合を考えてみた。 |
*END*
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料理人サンジと社会人ゾロだそうです。こういう関係大好物なんだぁ〜!