背比べ
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どうでもいいといえばどうでもよくどうでもよくないと言えばどうでもよくないことがある。 はた目にはあまりわからないけれど確かに存在するその差は……1センチ 「ほんと−にほんと−ですか?!ナミさんっ?!」 珍しくサンジが声を荒げてナミに詰めよる。 この場合珍しいのはナミに声を荒げることでありその声量自体は珍しくないのだがそれくらいフェミニストを自負するサンジにしては珍しい光景が繰り広げられていた。 ナミは少しあきれたように手にした定規を軽く数回開いた手のひらにうちつけながら 「本当よ」 と言う。 「こんなので嘘ついてもしかたないじゃない」 とひどくまっとうな言葉とともに。 それでも納得し切れないサンジは今度は対象を少しずらす。 「ほんと−に!俺よりあのクソマリモの方が高いんですか?!」 指さされた先に転がるのはトレ−ニングを軽く終わらせ一休み、もとい一寝入りしようとしているゾロだった。 ナミが気まぐれのように自分の仕事道具を用いて始めた身体測定ならぬ身長測定。 背伸びして水増ししようとするウソップの頭をはたき、悪のりしてゴムの体を伸ばすルフィを殴り、角まで身長に入れてくれるようにいうチョッパ−をなだめて最後に計ったのはゾロとサンジだった。 本当にやることもなく戯れに計っていたとは言えそれはそれ。 一応自分の商売道具を使うわけだから限りなく正確な値を出しているとナミは主張する。 もちろんサンジがナミの言葉を否定するわけはなく喜々として計られていたが最後にめんどくさげに背筋を伸ばしたゾロの身長を計測してつぶやいた一言がいけなかった。 「ゾロのほうがサンジくんより1センチ高いのね−」 1センチ たかがされど1センチ これが他の人物ならばこれほどまでにかたくなに否定することもなかったかもしれない。 が、よりにもよってサンジのほうがゾロより1センチ低いのだ 理由もわかりにくい何かもやついたものが胸の中にまきあがる。 そして口から否定の言葉が飛び出していた。 「絶対嘘だ!てか俺の方が足も長いし背も高いに決まってる!」 根拠なぞさらさらなくともぶつぶつと口からは否定材料になりそうなものがなにかないかと言葉がつらつら出てくる。 あれから数時間。夕食の支度をしてなおぼやいているのだ。 ナミはもちろんあきれ果ててとうの昔に去っている。 それを悪いと思いつつぼやきは続くのだ。 「ぜって−おかし−よな−。まさかと思うけど靴の底からはかってたんじゃないかな−?」 ナミがきけば即座に反論が来そうなことをつぶやきつつ仕込みを続ける。 「でなかったら背伸びでもしてたとか」 ぶつぶつと手も口も動かしながらなべをかき混ぜる。 ほわりとあがる湯気もいつものようにサンジの心を和ます効果は薄かった。 「じゃなかったら俺の方が高いに決まってる」 そうつぶやいてお玉をおいたのと同時に。 自分よりほんの少し低くていつ聞いても少し不機嫌そうな声が 「まだ言ってやがんのか?」 とかけられた。 振り向けば戸口にいるのは今みたら一番やつあたりしたくなる顔。 むかりと先ほど以上のむかつきが胸を焼く。 「なんだよ。ズル認めて謝りにでも来たのかよ?」 少し口をとがらせて憎まれ口をたたけばやはり返ってくるのはそれなりのしらけた言葉。 「ば−か。なんであやまんだよ」 「身長ごまかしただろ」 「ナミが許すわけね−だろ」 「靴の厚さとか」 「お前の方があついだろうがどう見ても」 「背伸びとか」 「ルフィやウソップじゃねぇしめんどくせ−だけだ」 「じゃぁ……」 確かに靴は足が武器の自分にもあったように硬い靴底をした革靴で、ナミがずるや計測ミスを許す訳もなく、面倒くさがりやのこいつがわざわざ背伸びをするはずも無い。 けれど絶対何かあるはずだと、思いつく限りの疑惑をなおもぶつけようとすればその前にまった、がかけられる。 「なんでお前そこまでこだわるんだ?別にいいじゃね−かよ、たかが1センチに」 あきれ果てたようなゾロの言葉。 確かに数字的にはたかだかそれくらいのものだが 「よくねぇ。」 ―――――そう、全然よくない。 料理の具合を確かめてゾロのそばによる。 ほとんど変わらない目線の位置。そちらに少し動かすだけでまっすぐサンジはゾロの顔を見据えることになる。 この位置がいいのだ。 対等、と思えるこの目線の位置。自分と相手の間に距離はないと思える位置が好きなのだ。 それなのに実際物理的な大きさとしてそれはほんの少しずれている。ほんの少しサンジはゾロに見下ろされている形になる。 それが無性に我慢できない。 口にすればその差と同様なんてことないことに聞こえるかもしれないがそれは、サンジにとっては大きな問題なのだ。 「なんだよ?」 自分の前に立ちはしたものの先ほどまで勢いよく動いていたその口が止まりただじっと自分を見るサンジにゾロがとまどう。 「…なんでもね。」 自分のこんな気持ちをこいつに理解しろというほうがたぶん無理。 それはゾロだからとかそういう理由でもたぶんなくただただ自分がこだわり固執しているためだからだとわかっている。 「お前が何にこだわるのか俺にはよくわかんね−んだけどよ」 沈黙が二人の間にしばし落ちた後ゾロは言う。 「それってただのこだわりで実際はたいしたものでもないのかもしれね−ぜ?お前の視野が狭まってるだけでよ」 なんとなく気遣わしげに言われる言葉 それは言われなくともわかっていること 「うるせ−」 わからないと言いつつも自分の心を見透かされたようでサンジは軽くその足を蹴った。 「いってぇなぁ。」 勿論それは口に出して言うほどのものでもないが冗談まじりでほんの少し踏み入れてしまったサンジの心の領域からそろりとゾロは足を抜き掛け…思いついたようにつぶやく。 「おい、クソコック」 「なんだよ馬鹿剣士」 普段のやり取りが少し戻った、と思ったら距離が少しだけ縮まった。 心の、ではなく本当に物理的な距離が0になる。 柔らかく触れて離れる。 ゾロのイメ−ジにはあわないくらい静かに、優しく。いや、案外ゾロの本質のように、かもしれない。 ただそれはあまりにも一瞬過ぎてそのどちらなのかサンジには判断がつかなかったけれど。 「なっ?!」 小さな声がようやく漏れたのは完全にゾロが離れてからのこと。 顔は、なんだかすごく熱い。 それなのにゾロはひょうひょうとしたふうていで片手をあげて台所から出て行こうとする。 「なっにしやがんだ、てめぇっ?!」 別に何かを聞きたかったわけではなく反射的に口をついて出ただけの言葉だ。 それに引き留められたかのようにゾロは足をとめにやりと口の端をあげて笑う。 余裕しゃくしゃくなその笑顔はサンジが一番むかついて一番安心する笑顔。 「別にいいだろってことだ」 「何がだよ?!全然よくね−ぞ?!」 いいかげんこいつは言葉が足りなさすぎてそのくせ行動が唐突すぎる。 不言実行も度が過ぎるとどうしようもない。 あきれていいものか怒っていいものかその判断も曖昧だ。 どうにもこうにも態度を決めかねて、ふーっと息を荒げる。 一方ゾロは飄々としたものだ。 「たかだかそれくらいってやつだ」 どのツラさげて、といった感じで惨事に向ってそう言い放つ。 「そういうことしておいてそれくらいはないだろう?!」 あまりな言い方に噛み付くが「ちげ−よ」と緩く首を振られる。 「身長差なんて感じなかっただろ?」 「…え?」 もう一度目の前にゾロが立つ。そうして手のひらで自分の頭とサンジの頭のてっぺんを比べられた。 「今お前靴はいてっからお前のほうが若干高くなんのか?でも、ちょうどおんなじような位置に顔も肩もあるだろ?」 ついでに口も、とは言われなかったが低い声を出し動くそこに目が行きがらにもないくらいに顔が熱くなる。 「言われなきゃわかんね−よ−なモンはないのと同じようなもんだろ?」 それでもない、とないのと同じでは大きな差がある、と言いたかったけれどそんな風に言いたいことを言って笑顔を見せるゾロをみたら、口が動かなくなった。 もう言葉も出さないで顔を赤くして立ちすくむサンジにこれ以上言葉も態度も費やすのもどうか、と思いでもしたのか、そうやって彼なりの持論を示すと、今度こそゾロの姿は扉の外に消えた。 息が止まっていたのか、息をとめていたのか。 しばらくしてぷは−っ、と盛大に息を吐くとおぼれた人間みたいに空気を求めて口を動かす。 「なんてこといいやがるぅ−…」 呼吸の合間に漏れるのは先ほどとはちがった愚痴 まさかそんなこと言われるとは思いもしなかったしされるなんて考えたことなかった。 ただ慌てたけれどそんなにヤなものでもなく。 そう思った瞬間頭に全然酸素が送られてないんじゃないかとより一層盛大に深呼吸。 それがかえって疲れを呼んだ気もしなくもなくへたりとサンジはその場に座り込んだ。 「ちっくしょう」 くやしいけど、言い包められてしまった気がする。 腹立たしいけど、さっきとは違った方向に怒りの矛先が向いている。 ……どうやら自分とゾロとの間にはある意味1センチよりも大きい差が存在している、とサンジは盛大にため息にも似た深呼吸を今一度、くりかえした。 |
*END*
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公式では1センチ違うんだよ!と話したら書いてくれたのです。ありがちょう!