おふろ
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なんとなく回数を重ねてしまえば癖になってしまうことというものがある。
いかな面倒くさがりやであろうとも体がそれをおぼえてしまうとでも言うのか。
ゾロの場合それがチョッパーといっしょに風呂に入ったときチョッパーを洗ってやること、だったりする。
きっかけはささやか過ぎて忘れたが、たしかいつだったか危なっかしく風呂に入る様をみて心配になったかいらついたかで洗ってやって以来の癖。
 
いっしょに風呂にはいるとまず自分の体を洗って一段落ついたらチョッパーを呼び頭を洗ってやる。
小さな子供のように泡が目に入るのを恐れてかぎゅうっと目をつぶりチョッパーはゾロにくしゃくしゃと洗われている。
その目のつぶりようが余りに必死過ぎて、ゾロは一度洗い終わったときに
「そんなに力をこめてないつもりだが痛かったか?」
と、聞けば、首を振って、
「ゾロに洗われんのはきもちいいけど、泡が怖いから目をつぶってるんだ。」
などといわれた。
実際の年は良くわからないが医療関係以外のことのみに焦点を絞れば、チョッパーはまだまだ子供の反応を返す。
だからつい、手を出してしまうのだ。
それに柔らかくふわふわの毛を洗う感触は気持ちがいいし、洗い終わった後言われるありがとう、も耳に心地よかった。
だからつい、習慣づいてしまったのだろう。
ひょっとすると、余りいい習慣ではないような気もするがその点についてはまだ目を瞑っている。
 
そうして、航海中食料補充をかねて寄港した土地で船を下り、久々の陸地の感触、そうしてゆれない寝床を確保した今日もやはり宿についていた大浴場でゾロはチョッパーを洗ってやっていた。
もう、互いが互いに慣れているのか、慣習化されたそれは一連の手順をもってしてつつがなく進んでいた…はずだった。が。
いつもならば見えるはずのない女湯をがんばって覗こうとしたり一人羽を伸ばして悠々と湯船につかっているサンジがなぜか興味を示し二人に近づいてきた。
「なぁ」
シャンプーボトルを手に取り、手のひらに出そうとしていたその瞬間に声をかけられゾロの動きが止まる。
声をかけられたため、ぎゅっと目をつぶって準備をしていたチョッパーもそろっと薄めを開けて声をかけてきたサンジの姿を確認した。
「・・・なんだ?」
手の動きを止め顔だけそちらにやるとなんだかサンジの顔が妙にきらきらしている。
例えていうのならば、そう。
小さい子供が何か面白そうなものを見つけたときの顔だ。
少し眉をひそめながらゾロはサンジの口が開くのを待っていると、
「なぁ、俺にも洗わせて?」
と。
サンジが言う。
「あぁ?」
今の今まで、それこそもう何回こいつと風呂に入ったのに何でいきなりそんなことを言い出すのか、といぶかしげに声をあげると、
「おまえらばっか楽しそうでずるいじゃねぇかよ。」
と、”主張”された。
楽しそう。
・・・・・・確かにゾロはそういわれれば言い返すことは少々できない感じだが。
チョッパーにしてみればその「楽しそう」と言われている意味もわからないらしく、
「え、え???べ、べつに気持ちいいけど楽しくはないぞ??」
と、目を白黒させながらいう。
ゾロはそんなチョッパーの頭をぽんぽん、と2,3回やさしくたたいてやり、いつものようにくるりと自分に対し背を向けさせ、頭を洗う体勢をとらせた。
無視されるような形をとられたサンジは少々いきり立ち、抗議しようとしたがそれより先にゾロがシャンプーボトルをぬっとその目の前に突き出す。
「ほれ。やりたきゃやりゃいいだろ。でも、乱暴にしたりすんなよ。目の中にシャンプーはいるといてぇみてぇだし、ずっと緊張させんのもかわいそうだから手早くやってやれ。」
そう、ゾロの”お許し”をもらったサンジは嬉々としてボトルを手にとりシャンプーを手のひらに広げあわ立てる。
「日ごろ料理で鍛えてる俺の手際が悪いわけねーだろ!」
鼻歌でも歌いだしそうなほど楽しそうなサンジだが、
「料理と一緒にするな…なんだかまたちょっと泣きそうになってるぞ。」
トナカイ鍋にでも自分はされてしまいそうな物言いにぷるぷるとおびえるように、それでもその場から動かないで耐えるチョッパーを見てゾロが横から助け舟を出した。
「あぁ、悪い、チョッパー!今のはもののたとえだって!ちゃんと手早くいきれいに洗ってやるし、あとでドライヤーもかけてやるからなー♪」
慌てて機嫌をとるようにサンジは言う。
「いいから口じゃなくて手を動かせよ。」
「うるせぇなぁ!今からやるよ!」
そういいながら改めて泡を作るとくしゃりとその今はお湯でぺったりとなってしまった毛の中に手を差し入れた。
 
 
「なぁなぁ、ウソップ。あいつら、何してるんだと思う?」
広い風呂にはしゃいでいたルフィがその光景を見つけたのはしばらくしてからのこと。
存外まっとうな神経を持ち人知れず苦労性なウソップは日ごろの疲れを癒すべく目を閉じ、外界から精神を閉ざしその湯の感覚にしみじみと浸かっていたが、ルフィのその一言により薄目をあけ、ついそちらを見てしまい・・・なんだか湯冷めしそうなくらいどっと疲れてしまった。
『なにやってんだ、あいつら。』
あまりにも男湯にそぐわしくない麗しき家族愛を見て、もう少しで湯の中に意識なく沈んでいくところだった。それをするには悲しいかな。
日常茶飯事になりつつあるのですんでのところで抜けかけた魂は戻ってきてしまったが。
「あー・・・気にすんな。つーかしてくれるな。あれはいわゆるひとつの家族団欒てやつなんだからよ。」
その光景にたどり着くまでのルートを考えるのも面倒くさくウソップは簡単にそういうと
「へっぇー」
と、納得したんだかしてないんだか今ひとつわからないルフィにもうひとつ釘をさす。
「んでもって家族団欒てのは邪魔しちゃいけねぇもんだから、おまえも邪魔すんなよ!てか、あいつらに近づくな!」
せっかくの静かなひと時を駄目にされるのは忍びなく、内心『なんであいつらの幸せな時間を作る手伝いをしなければならないのか』などと思いつつもウソップはそういってルフィを追い立て、もう一度…今度は仲良くチョッパーにお湯をかけて泡を洗い流してやっている3人を見てどっぷりと深いため息をついた。





*END*


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 家族でお風呂vv
 しかしHP立ち上げたら頂くゼ!と宣言してから軽く3年は経っているネ・・・あっはっは。