DOG WAY

 -------------------------------------------------------------------------
 
 
「あ〜やっと家だぜ!これでやっとふかふかのベッドで寝られる〜〜!」
 王都バチカル。紆余曲折を経てようやく帰ってこれた屋敷に目を輝かせたのは勿論ルークだった。
 野宿は勿論、やはり長年の屋敷住いに慣れた体は宿屋の硬いベッドでもろくに安眠できなかったらしい。
 
「じゃあ俺も行くよ」
 また明日、と声をかけて各々散っていく仲間を見送って、ガイは今も床に転がってしまいそうなルークに苦笑して言った。
「お前の捜索を俺みたいな使用人風情に任されたって、白光騎士団の方々がご立腹でな。報告がてらゴマでもすってくるよ」
「おぅ」
「ガイさんもまた明日ですの〜」
 のん気なミュウの声に、軽く肩をすくめてガイは部屋を出た。
 一旦屋敷の外に出て、離れに設けられた騎士団専用の詰め所に入る。
 入り口の敷居を跨いだ途端、スッと温度が引くようにガイの顔から表情が消えた。
 
 
 
「失礼します」
 突き当たりにある大きな木の扉。軽くノックをして入ったガイを迎え入れたのは、正面の革張りの椅子に深く腰をかけた壮年の男だった。
 
「随分と久しぶりだな、ガイ」
 笑いながら放たれる嫌味はいつもの事だ。
 聞こえない振りで受け流しながらながら騎士団の長に一礼すれば、背後でガチャリと鍵のかけられる音がした。
 入り口脇で控えていた団員が扉の前で不動の姿勢をとり、退路を塞ぐ。
 ちらりと視線をやれば、部屋の隅には長年この屋敷に居る、うんざりするほど見てきた面々が数人。皆どこか嫌らしい笑いを口端に乗せている。
 予想通りの陳腐な展開に、呆れる事はあっても今更驚きはしない。
 もっとも感情を閉ざし温度の消えた心からは、わずかな変化も表情に出る事はないのだが。
 ガイは視線を目の前の男に返すと、淡々と口を開いた。
 
「ルーク様探索の件ですが」
 しかし言葉は直ぐに隊長の手振りによって遮られた。
「その件は既に聞き及んでいる。今回は随分と活躍したそうじゃないか」
 舐めつけるような団長の視線を、ガイは抑揚のない目で受け止めた。
 壁際に居た男たちが、ゆっくりとその輪を狭めてガイに歩み寄ってくる。
 低俗な獣の笑いが空気を震わせて肌を舐め、ガイは僅かに眉を寄せた。
「俺たちにも是非その武勇を聞かせてくれよ」
「ルーク様のお守りは今日はもう終わりだろう?」
「じゃあ今からは俺達のお世話、してもらおうじゃないか」
 
「――……」
 なんて在り来たりでくだらない台詞だろうか。
 冷めてもいない、かといって熱くもならない無機質な心で只そう思う。
 嬲る言葉と同時に複数の手が伸びる。
 引き摺られるままに、ガイは紅い絨毯の敷かれた床に倒された。
 
 
 
 
 
 * * *
 
 
 
 
 
「……?」
 微かに聞こえた小さな物音に、ジェイドはふと歩みを止めた。
 ファブレ公爵の屋敷を出て王宮に向かう途中、そのままついいつもの癖でぐるりと敷地内を歩いて回っている途中だった。
 
 マルクトと現在敵対関係にあるキムラスカは、立地や気候条件が違う為に建物の様式も違う。
 王都には公式・非公式含めて何度か立ち寄った事はあるものの、こうしてゆっくりと眺めて回る機会などなかった。
 ましてここは王族の血を引く、過去の名のある戦で数々の武勇を挙げた将軍の屋敷である。
 敵情視察、とまでは行かないまでも、いつまた戦争が起こるともわからない。有事の際にはどんな情報が有利に結びつくかもわからないのだ。
 
「……ふむ」
 謁見の時間にはまだ間がある。ジェイドは綺麗に刈り込まれた芝生の上で、磨かれたブーツの行き先を変えた。
 
 
 
 
 
 * * *
 
 
 
 
 
 はぁ、はぁ、煩いくらいに自分の喉が鳴っている。
 熱い。薄い空気を忙しなく吸い込んで、ガイはぼやけた視界を虚ろに漂わせた。
 壁際の椅子では、同じ姿勢でガイを見下ろす騎士団長がいる。
 
「マルクトの軍人さんに、向こうで流行のテクでも教えてもらったかよ?」
「……ッ!」
 後ろからの声と共に下から一際大きく突き上げられて、勢いのまま首がのけぞる。
 脱がされた下衣、背後から大きく開かされた足の間で熱い男の剛直が腹を抉っている。
「…っ、く……」
 背後で一括りにされた手にギリリと力を込めて、ガイは悲鳴を押し殺した。
 前から伸びた別の男の手が、汗に濡れる肌をぬとりとさすりあげてから、痛みに萎えていたガイのものを握りこんだ。
 悪戯にそれを捏ねながら、ガイの背後で鼻息を荒くさせている男に声をかける。
「どうだよ、具合は」
「案外キツイな、どうやら旅の間はあまり構って貰えなかったらしい」
「軍人さんにも、ルーク様にもかい?」
「そりゃあ可哀想に」
 こんなにいい具合なのになぁ?
 笑いながら近づいてきた三人目の男が、細長い銀色の棒をガイに近づけた。
「じゃあ俺たちでもっとサービスしてやらないとなぁ」
 男の手中にある掌くらいの長さのそれを見て、ガイが初めて顔色を変えた。
「い、嫌です…それ、は…」
「嫌です、じゃねぇだろう?好きだろ、あんなに広げてやったんだからよ」
「あ、ぅぐ……ッ」
 尚も言い募ろうとしたガイの顎を捉えた男が、手にした棒をその口の中に突き込んだ。
 舌を上から押えるように、重たい銀の棒が咥内を転がる。
「生憎と慣らしてやるようなモンはないからな、怪我したくなけりゃようく舐めな」
「ッ、――」
 震えるような息を一瞬零して、ガイは諦めたようにのろりとその棒に舌を這わせた。
「ん、く、…ぅ」
 細い棒を下から辿るように、拙い動きで唾液を絡めていく。
 その間も小刻みに揺すられる腰の動きは止まらず、時折口から外れた棒から、ちゅぷ、と濡れた糸が引く。
 
「そんなモンでいいだろ、ほら貸せ」
 ガイの中心を弄っていた男が、口から棒を奪った。
 そして片方の指でガイの先端の肉を広げると、慎ましく口を開けたその穴に丸みのある棒の先端を押し当てた。
「ひ、ぃッ――…」
 にゅぐり、音がしそうな程紅い肉を押し広げて、銀色の棒が埋まった。
 小さかった穴をじわじわと金属の自重と共にこじ開けながら、男の手がガイの中を犯していく。
 
「……ッ、すげぇ締まる」
 背後の男が呻き、ぶるりと胴を震わせた。
「――ッ、」
 どくどくと体内に熱い飛沫を流し込まれる感触に、ガイは唇を噛んで耐えた。
 快感がすれすれの所で痛みに摩り替わっていく、それだけが救いだ。
「…っ!」
 背後の感覚をやり過ごしていたら、不意に前が引き絞られる痛みに、ガイは顔を上げた。
 見れば自分の前部分に深々と根元まで入ってしまった銀の棒。
 そしてそれが抜けないように、性器の根元が縄できつく戒められている。
 無理矢理上を向かされ、起立した状態になったガイのもの。根元を縛った縄の端を、男は真上にあるガイの首元のチョーカーに括り付けた。
 
 ぬちゃ、と音がして、背後の男がガイの中から己を抜き出した。
 ずるりと抜け出ていく感触にゾワゾワと鳥肌が立つような気持ち悪さが広がる。
 思わず喉を晒して仰向けば、途端に自らのものを強く引っ張る羽目になって、ガイは痛みに小さく呻いた。
 全身の筋肉をこわばらせたまま、ガイは男が出て行く感触に耐えた。
 余程沢山注ぎ込まれたのか、後孔はゆるゆると滑りがいい。
 抜き出されたものと一緒に、腸壁をドロリと熱い膿みが落ちていく。
 それを零すまいと反射的に後ろを締めた所で、背後に別の男が立った気配がした。
「ぅ、ぁアッ…――!」
 身構えるのも間に合わず、ズン、と、先ほどの男よりも太い剛直が勢いよく突き立てられて、ガイは苦しさに目を見開いた。
「あ、ひ……痛、たッ…」
 身動きの取れない体を震わせるガイに、男は容赦なく根元まで己の起立を埋め込んだ。
 尻に男の股がぴたりと合わさる。馴染ませるように数度結合部を揺らしてから、少しでも痛みを逃がそうと前かがみになったガイの髪を、グイと背後の男が掴んで顔を上げさせた。
「剣士たるもの、常に胸を張りなさい」
 まるで芝居がかったような台詞。背後の声は、団長のものだった。
 目配せを受け、先ほどまでガイの中に居た男が下穿きの乱れを直しながら団長の机の上から何かを取ってきた。
 手に握られていたのは、肘程の長さの定規だった。
「だ、そうだ。ホラ顔上げな」
 嫌らしい笑いと共に、その腕がひゅっと風を切った。
 
「―――ッ!!」
 ピシャッっと音がして、焼けるような痛みに一瞬呼吸が止まった。
 男が定規でガイのものを打ち据えたのだ。
「ヒ、や、ア――…!」
 背を丸めるガイの中心に、二度三度容赦なくそれは振るわれる。
「胸を張りなさい」
「ひッ……」
 痛みに目の裏が明滅する。
 それでもガイは震えながら背筋を伸ばして胸を張った。
 ピン、と再び引き伸ばされた性器がギリギリと痛みをもたらす。
 寸での所で保っていた頭を、背後の団長がグイと更に後ろに引き倒した。
「ああぁあぁッ」
 脳天までビリッと突き抜ける痛みに思わず悲鳴を上げたガイの中で、団長のものが更に大きさを増した。
 痛みを感じる度に、ガイもそれを益々締め付けてしまう。
 じわじわ、次第に痛みではないものが内部に燻り始めて、ガイはそれから必死に逃れようと首を振った。
 
「ガイは痛い方が好きなんだよなぁ?」
 まるで葛藤を見透かしたように、定規を持った男が、その直角になった角をガイの胸の粒に押し当てた。
 反り返った胸の上、開かれたシャツのつんと突き出した格好になった紅い粒の中心に、ぐっとその角をめり込ませる。
「ひ、い、…や、ヤメ…!」
 ビリっと甘い刺激が中心を走って、ガイは唇を噛み締めた。
  
「好きです、だろう?言ってみなさい、ガイ」
 背後からガイを突き上げ始めた団長が、残酷な声で促す。
 躊躇うように口を噤んだガイの性器が、再び打ち据えられた。
「ひっ……!」 
 ガイは空気を求めて喘ぐ口の端から、震える声を漏らした。
 
「っあ…、す、…好き……です」
 堪えきれなくなった涙が一粒、ガイの眦からすうっと零れ落ちる。
 それが悔しさの為なのか快感によるものなのか、最早わからない。
 
 
 こんな事は、なんでもなかった。
 復讐の為ならなんだってする。逆らうのは簡単だが、騒動を起こして屋敷にいられなくなる事の方が重要だったからだ。
 けれど今は怖い。
 ルークに知られるのが、怖い。
 あの真っ直ぐな目線に、自分のこの姿が晒されるのが、怖い。
 
 
 シャツを掻き分け、背後の団長がガイ左の背中を撫でた。
「何度見ても綺麗な印だ。何年経っても色褪せず型崩れしないのは、俺の均等な力加減のお陰だぞ」
「あ、ああ……!」
 内部の熱はどんどん高められていく。
 けれど放出すべき場所はきつく塞き止められ、解放されない熱が渦を巻いてのたうち回る。
 苦しさに身を捩るガイの耳元で、男達が笑った。
 
「お前は一生、この家の…俺たちのものだ」
 
 
 
 
  
 
 
 
  
 * * *
 
 
 
 
 
 
 
 
「……悪習、ですね」
 離れにある建物の裏手、窓の傍らで気配を殺しながらジェイドは不快も露に紅い目を細めた。
 締め切ったカーテンの僅かな隙間から伺った部屋の内部。
 どの国でも、権力のある家ではこういった事例は珍しくはない。
 下の人間を扱う権利を、上の人間が履き違えるのだ。
 けれどそれを誰が取り締まれよう。
 
 このまま窓を壊して助ける事は容易い。
 けれどそれが何の解決になるだろう。
 ガイとの関係は、わずかな旅の道連れに過ぎない。
 それが終われば、皆には各々の事情と帰るべきポジションがあるのだから。
 
 部下が目にしたなら恐ろしさに震えあがるだろう、底冷えする紅い瞳。
 それを眼鏡の上から押えて、ジェイドはそっとその場を離れた。
 
 
 
 
 
 * * *
 
 
 
 
 
 コンコン、小さく部屋の扉が叩かれた。
 朦朧とした熱を抱えたまま、ガイはどこか遠くでその音を聞いていた。
 見張りの兵士が扉脇で何かの伝令を受ける。
 そしてそのまま少し慌てた様子でガイの背後の男に何やら耳打ちをした。
 団長がチッと舌を鳴らした。
「敵国の犬が、一体何の用だというんだ」
 忌々しく呟くと、団長はガイの腰を掴んで二三度己を打ち付け、おざなりに中に精を注ぎ込んだ。
「……ふ、ア…」
 男はずるりとガイの中から己を抜き出し、そのまま力なく弛緩した体を放り出した。
 ガクリと膝を付き、支えを失ったガイが床に落ちる。
「残念ながら今日はここまでだ」
 控えの兵達が慌しく身支度を整えて部屋を出て行く。
 見張り役だった兵が、背後で縛られていたガイの縄を切った。
 
「また次の活躍を期待しているぞ?」
 やがて団長の声を最後にして、パタリと扉が閉められた。
 廊下を歩いて遠く消えて行く複数の足音。
 それが完全に聞こえなくなってから、ガイはゆるゆると息を吐いた。
 
「なにが、活躍だよ……」
 人の気配がなくなった部屋で、のろのろと起き上がる。
 が、力の入らない下半身はすぐには言う事を聞かず、すぐにがくりとくず折れてしまう。
 
「あー…チクショウ」
 色々と気持ち悪いことこの上ないが、このまますぐには動く気にもなれなくて、ガイはごろりと天井を仰ぎ見た。
 
 こんな扱いも、この家に来てから随分と慣れた。
 体の痛みなど、直ぐに過ぎ去る。
 それでも。
 
「痛てぇ、なぁ……」
 呟いて。
 ぎゅ、と縛られていた手首の跡を噛み締めて、ガイは目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 Fin.
 
 --------------------------------------------------------------------------

 ・・・なんだか色々ごめんなさい v 
 いや〜ZSでは絶対に書かないだろうネタなんですが、Sでこういう過去設定は苦手なものの、
 Gは断然こういう過去のが萌えるんですよ・・・!
 時間的にはアクゼリュスに旅立つ前の、帰宅時。
 ちなみに最後の「敵国の犬」はJさんです。
 左肩云々の捏造設定は次回のお話に引っ張ります。