※ご注意!※
これは1月21日・28日発売のWJのネタバレになります!

もうホント、なんて言っていいかわからない。
どんだけ妄想しても全てが幻っていうか
いちからゾロサン修行してこいと
原作だけをポイと手渡されて時の部屋に放りこまれたい、そんな感じです。
その部屋には全てのゾロサンレディが集まってると、素敵。
あ、でも何百時間もじゃむぷお預けになるのは厳しいな、うーん。

とにかく妄想でひたすら暖を取る、そんな日々ですが
(て、それは人生ずっと変わってない…)
そんな妄想に付き合ってもいいよ、という方のみ以下スクロールで読んでください!























 
 自分の服が黒でよかった。
 
 白は厨房に立つ時以外は身につけない。レストランを離れた今でもなんとなくそれはサンジの中での決まりごとだった。
 コックスーツ、あれはサンジにとって神聖な色だから。
 もっともサンジが数ある色の中で好んで黒を着るのは、単純に言えば、かっこいいからだ。
 大人の気品に満ちたその服を着れば、すれ違うレディの自分を見る視線が違う。スマートでクール、そんな色は、見かけだけでも自分の足りない年齢をぐっと上に見せてくれる。
 ゴツイ野郎ばかりのあの船の上で、見下ろされるばかりだった自分がようやく手に入れたスタイル。
 ジジィに追いつきたくてたまらないチビが考えた、今思うととても恥かしい背伸びでしかなかったが、案外黒い服の効能はそれだけじゃなかった。
 
 黒は全てを隠す色だ。
 特に戦闘時は血の色を隠す。ことメリー号に乗ってからはその思わぬ効果を重宝したものだ。
 飯時に海賊が襲ってくるなんてザラな船の上では、浴びた返り血の為に一々着替えている余裕なんてなかった。
 所々血に染まった服を着た人間が笑顔で給仕する料理だなんて、どんな恐怖レストランだ。けれど黒い上下のスーツなら、そういった時にレディに不快な思いをさせることもない。
 それに自分が戦闘で怪我をした時も、さわぐチョッパーの目を隠すのにも便利だった。もっとも鼻は隠せないので苦労はしたが。
 
 ほら、今だって。
 
 
 ゾロの足元から放射状に広がる、おびただしい血痕。
 まだ乾かぬそれを、サンジの黒い靴が踏みしめる。
 
 駆け寄った自分の、両腕の中に落ちてきた重い体。
 怪我で熱っぽい自分の体に比べて、酷く冷たいその体はまるで「肉の塊」で。 
 普段扱い慣れた、命を感じないその感触に背筋が凍った。
 
 
 酷い戦闘で、サンジもこの島で散々血を流した。胸も刺された気がするし、多分アバラだって何本かイってる。久々に足の脛にだって鈍い痛みが残っている。
 白い服を着ていたらきっと、全身赤く染まっていたことだろう。
 抱きとめたゾロの重たい体も、赤く赤く染まっている。
 まだ乾ききっていないゾロの血。
 触れた部分からサンジの黒い服の中に、それは染み渡る。
 
 胸の中から込み上げるものを飲み込んで、サンジは軋む足を踏ん張ってゾロの重みを受け止めた。
 ゾロの肌を掴んだ手が、ぬるりと滑る。
 
 
 
 自分の服が黒でよかった。
 
 黒い服の中で、サンジの血と、ゾロの血がひっそりと混ざり合う。
 溶けて流れる熱い色。
 乾いていたサンジの血すら巻き込んで、それは流れていく。
 
 
 
 
 この色を知るのは、自分だけで、いい。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
指先
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 生きてた。
 
 
 ゾロの姿を見つけた時、五感の全てが吹き飛んだ。
 痛みを訴えていた体も、仲間の喧騒を背後で聞いていた耳も、眩しい朝の日の光も。
 自分の呼吸さえも。
 馬鹿みたいに全身の血がバクバク言って、棒みたいな感覚の足がもつれそうになった。
 
『……なにも!!! な゛かった…!!!!』
 
 立ってるだけで精一杯のヤロウがそれだけを切れ切れに言った時、サンジはもう自分が何を言ったのか覚えていない。
 
 落ちてきた体を受け止めて、それからどうやったのか、必死に仲間の、チョッパーの元を目指していた。
 意識のない人間、しかも同じ身長でサンジよりもウェイトのある相手を背負うのは全身傷だらけのサンジにとって中々骨のある作業だったが、それどころじゃなかった。
 重い足も、上がる息も、自分のものだと思えなかった。
 
 
 生きてる。
 
 
 生きてる。
 
 
 ただ、呪文みたいに何度もそう思った。
 ぬめるゾロの手首を何度も掴み直して、前だけ見て、何度も歯を食いしばった。
 
 食いしばって何を堪えていたのか、イマイチわからない。
 
 森から現れたサンジたちの姿を見つけてチョッパーが大騒ぎし、仲間が取り囲んだ。
 
 
 
 生きてる。
 
 
 背中に流れていた命が、目の前で囲まれる様を呆然とサンジは見ていた。
 消えた背中の重み、吹く風が濡れたその跡を冷やす。
 手に着いた赤い色を、ゴシ、と無意識に自分のスーツに擦りつける。
 
 いつの間にか乾いて混ざり合わなくなってしまったそれを、何度も何度も擦りつけた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 七武海のクマが消えて、長い長い夜が明けた喜びにスリラーバーグ中が湧いていた。
 更なる大きな敵の存在に不安の影は残ったものの、それでも勝利の喜びに、怪我を負ったクルーたちにも明るい笑みが広がった。
 影を囚われていた海賊たちと、肩を組み合って宴会モードになるのはいつものこと。
 僅かな食料を持ち寄って即席の宴が開かれ、みなお互いの無事を喜び合って泣いていた。
 
「大丈夫?サンジくん」
 笑顔の中でもそう気遣ってくれるナミさんが大好きだ。
「大丈夫だよ、ナミさん」
 大きな鍋を振るって久しぶりに沢山の料理を振舞いながらサンジは答えた。
 
 無理しないでね、とは言われなかった。料理をするのがサンジの一番の回復方法であると知っているせいもあるのだろう。
 それに今日も黒い服を着ているサンジは、頭に巻かれた包帯以外一見して怪我がないように見える。
 戦いになると現地で仲間は散り散りになってしまうのが常で、誰がどれほどのダメージを負ったのか、把握するのはいつも難しい。
 
 怪我の具合に眉を潜めたのは手当てをしたチョッパーだけで、けれどいつもの小言はやっぱり何も言われなかった。
 皆が無事でよかったよ、と、包帯を巻き終わった後で一言、漏らすように言った。それほどまでに大きな戦いだった。
 
 
 けれど仲間の皆は、ゾロの事をそれほど深刻には考えてないだろう。
 酒の気配に目を覚まさないのはおかしいな、と首は捻るものの、ゾロが大きな戦闘の後血塗れになるなんて日常茶飯事だし、その後何日も目を覚まさないことだって特に珍しくもないからだ。
 
 それもそのはずだ。
 あの命を天秤にかけた遣り取りを知るのは、サンジだけなのだから。
 
 一体あの後何があったんだ。
 ずっと疑問だったその答えを、知っていたのは海賊二人組み。
 捕まえて聞き出した事の顛末。
 
 
 サンジは笑顔を振り撒きながらひたすら大きな鍋を振るった。
 そうでないと、何かが溢れ出しそうだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 皆が疲れと共に眠りに落ち始めた頃合を見計らって、サンジはそっと席を立った。
 カップに酒を入れ、宴会場から少し離れたその場所へ向かう。
 
 
「……」
 
 崩壊した城の一部、急ごしらえの仮設ベッドに寝かされたその男。
 ゾロだ。
 
 サンジは枕もとにカップを置くと、その場に腰を下ろした。
 
 膝の上に手を置いて、じっとゾロを見下ろす。
 月明かりに照らされるゾロの顔は、失血の為かどこか青白い。硬く閉ざされた瞼が、落ち窪んで影を作っている。
 普段あれだけ血の気の多い、船で一、ニを争う体力馬鹿なのに。
 日々鍛え抜いた体も、頭から爪先までいたるところが包帯だらけで滲んだ血に塗れている。
 
 
「……バカやろうが」
 
 小さく呟いたサンジの声は、本人が思っていたよりもずっと小さくて、直ぐに遠くから聞こえる祭りの余韻に掻き消されてしまった。
 
 あの時の判断は、取るべき道は決して間違ってなんかいない。
 あの時自分が飛び出したのだって、ゾロを庇おうとか、張り合おうとか、そんな安いものじゃなかった。
 ただルフィの為に。
 この、一味の為に。
 
 取り繕う者なんて微塵もないあの状況でお互いに飛び出した、剥き出しの本当の気持ちだ。
 
 
 
 
 サンジはぎゅっと背中を丸めて、投げ出されたゾロの左手にそっと手を伸ばした。
 
 
 生きてる。
 
 僅かに暖かいその指先を、形を確かめるようになぞる。
 
 
 懇々と眠る体。
 深いダメージはきっと、目には見えない。
 
 この男が、背負ったもの。
 船長の命。俺達クルーの命。
 
 自分には背負うことも、できなかった。
 
 
 
「……バカやろう」
 
 自分だってやろうと思ったことだ。
 一人で格好つけやがって、とか。
 死ぬな、とか、なんて。
 そんな陳腐なことを言いたいわけじゃない。
 
 でもこの人間離れした男が、死ぬわけがない、とも。
 
 その強さをただ漠然と信じていられるほど、自分は――もう。
 
 
 天を向いて開かれた、包帯だらけのごつい手の平。
 暖かいその指先に、静かに頬を寄せる。
 
 
 あの時、自分は最後まで掴んでいられなかった。
 掴ませていて、もらえなかった。
 
 振り解かれてしまった、その指先。
 
 カサカサに乾いて、埃と血に塗れてボロボロの指。
 沢山のものを握って、そして捨てていく、指先。
 
 
 生きてる。
 
 それでも、生きている。
 熱い指先に、途方もなくそれを感じる。
 
 沢山のものを、こうして守ってきた、指先。
 
 
 震えそうになる吐息を触れさせないように、サンジはその指先を握り締めた。
 
 本当は今すぐに抱きしめてやりたい。のに、今のサンジにはまるで、それが怖い。
 
 あの時混ざり合った血の温もりが、今は遠い。
 
 
 
 風は毎日吹いている。
 海は迷うことなく流れていく。
 自分たちはまた、こうして進んでいかなければならない。
 
 
 サンジは祈るように目を閉じて、その場に体を横たえた。
 ゾロの指先に触れながら、小さく背を丸める。
 
 
 傷だらけの体を前に、まるでサンジの方がそのわずかな温みに縋るように、指先を繋いだままで。
 溢れ出しそうになる、けれど決して言葉にはならないその気持ちをゾロの指で塞いで、その晩はお互いの熱を細い一本の道のように繋いだまま、眠りに落ちた。
 
 
 
 
 
 
 





→→ オマケがあったり。



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