いつか優しいため息のように 7
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狭い部屋の中、ベッドの上で対面したまま抱き合う二人の間から、グチグチとはしたない水音が響く。
「ひ、ひで…ッ、ひでぇ……」
ぼろぼろ、とサンジのまなじりから涙が零れ落ちる。
それをなだめるように、ゾロが頬に優しく唇を這わす。
服も下着もとっくに剥ぎ取られ、ゾロに跨るように広げた脚の間、剥き出しになった尻の間を出入りするのはゾロの指だ。
生暖かい軟膏を塗りつけたゾロの指が、サンジのきつく閉じていた粘膜をぬるぬると行き来する。
最初は狭く頑なだったそこも、じっくりたっぷりねぶられているうちにいつの間にか柔らかく緩み、ゾロからもたらされる刺激の端々を快感として受け止め始めていた。
全身に火がついたように熱い。サンジの前はすっかり立ち上がり、堪えきれずにとろとろと快感の証を零している。
体は早く開放を願うのに、しかしゾロはそこには決して触れようとはしない。
堪えきれずに自ら慰めようと伸ばした手は、ゾロによってすぐに阻まれてしまう。
焦らすような甘い刺激がもどかしく、サンジはゾロの首にしがみ付きながら逃げられない脚をびくびくと揺らした。
「ここ使うのは初めてなんだろう?」
耳元で問うゾロの声も、欲望に掠れている。
互腹の間で反り返ったサンジのものに、当たるゾロのものも既に十分な硬さと角度だ。
「……ッ、あ…」
はふはふと息を継ぎながらただ快感に耐えていたら、ぐり、とゾロの指が一際痺れるポイントをわざと擦り上げた。
「ッ、あ…――!や、だ、ゾロ、そこ、やだって…」
ぐっと逸らしたサンジの胸に、ゾロは歯を立てた。
決して達すのを許さない癖に、ゾロのもたらす感覚は容赦なくサンジを責め立てる。
今日までサンジ自身も、自分の体の奥底にこんなに全身を痺れさせる場所があるなんて知らなかった。
柔らかい肉の内側を太い指先で擦られれば、どっと毛穴が開くような興奮と、脳からつま先まで痺れさせる快感が押し寄せてきて、自分のものは一層そそり立って涙を零す。
サンジ自身では最早どうすることもできなくて、ただ目の前の体に縋った。
「あ?どうなんだよ」
散々に嬲られた胸の粒も、赤く立ち上がってゾロを待ちわびている。
汗ばんだ両手でゾロの首にしがみ付きながらサンジはガクガクと頷いた。
「ぁッ…そう、そうだから…ッ!」
とにかく早く、決定的な刺激が欲しい。いっそ滅茶苦茶に全てを壊して、解放して欲しかった。
「……ならあの日、一体何をどこまでやったんだ」
ゾロの獣のような目がサンジを見て細められる。
「あの、日……?」
一瞬思い当たる言葉がなくて目をさ迷わせたサンジの下で、ずぶりと勢いよく数本の指がねじ込まれた。
「ひッ…――は、ァ…」
「あの、誕生日の夜だよ…ッ」
「あぁッ……」
怒ったようにゾロがサンジの白い首筋に噛み付いた。
限界近くまで後ろの孔を開かれ嬲られながら、サンジは涙の張った目にゾロを映した。
「なに、を……」
あの日。
もう顔も覚えていないけれど、一年上の先輩だった。試しに遊んで見ないかと、随分前に声をかけて来ていたのは相手の方だった。
誰でも良かった。自分が抱くのか抱かれるのか、それすらも考えてなかった。
何の知識もなく、初めての体験だった。
触りあって、なんとなくそんな雰囲気になって、そんな矢先にゾロに見られたのだ。
とてもじゃないが、最後まで続行できるような状態じゃなかった。
相手はとっとと逃げ出したのだろう、気づけば部屋の中で一人放心していたのだ。
「触った、だけ…だ…ッ」
手に翻弄されながら切れ切れに言えば、確かめるかのように獣が唸る。
「本当かよ」
「ほんと、ほんと、に――」
……だから、早く。
ゾロの耳元ですがるように言った途端、ずるりと後孔から指が引き抜かれた。
代わりにズン、と熱くて太いものが体の中心を貫き、サンジは悲鳴を飲み込んでゾロの肩に爪を立てた。
「――っぁ、ああ……ッ!!」
「…っく」
腹を押す圧迫感、身を裂くような熱さにガクリと膝が折れれば、更に深まった結合に体がぶるぶると震える。
ひたりと重なった裸の胸から、ゾロの苦しそうな息遣いが聞こえる。
緩んでいると思われた後孔も、指とは違う質量を受け止めるにはまだまだきつい。
それでもじわじわと肉を押し広げて内部を突き進むゾロの侵入が、やがてピタリと止まった。
サンジの尻が、ゾロの内腿にひたりとくっついた。
「……ッ」
どちらともなく深い息を吐き、しばし動きを止める。
熱くて太いものが、サンジの中にある。胃を突き破って口から出そうな程苦しい。
けれど、どうしようもなく幸せだ。
そう思ったらきゅ、と意識せずに後孔を締め付けてしまって、ゾロが小さく呻いた。
「てめぇ……」
「ばか、今のはちが、ァ……ッ」
まるで売られた喧嘩を買ったと言わんばかりに舌なめずりをしたゾロに、慌てて首を振るがもう遅い。
ぐっと大きくゾロが腰を浮かせた。その時
RRRRRR
「……ッ!!」
突然無機質な電話のベルが鳴り響き、サンジはビクリと肩を竦めた。
竦めた途端またゾロを締め付けてしまって、その分自らもきつくゾロの存在を感じて息を飲む。
顔を顰めながらベッドヘッドに置いてあった携帯を見たゾロが、小さく舌打ちをした。
サンジのすぐ傍で通話ボタンを押すと、耳にあてる。
「……どうした」
サンジは呼吸を落ち着けながら、ゾロの上でじっと息を殺した。
「ああ、クロの方はオヤジに任せとけ、ああ、あの一人か…」
低いゾロの声が、貫かれた芯の奥から響いてくる。
サンジの好きな声、久しぶりに聞く、ゾロの声。
緩やかに、じわ、と熱いものが体の中に広がり、鼓動が早くなる。
(あ、やば……)
挿入の痛みで萎えかけていた自分のものが、ふくりと持ち上がるのがわかる。
声の振動だけで、まるで中からゾロに撫でられているようだ。
サンジは所在無く視線をさ迷わせた。ゾロの上に跨りながら一人で勝手に感じているだなんて、それこそ恥かしすぎる。
会話をしながらもう一度小さく舌打ちしたゾロが、ふとサンジを見た。
「お前…は目隠しされてたもんな、でも何か見なかったか」
「……?」
「お前を弄りやがってた野郎どもだ。何でもいい、何か気づいた事はなかったか」
「……あ」
そういえば。目隠しをされる瞬間、見たものがある。男の胸元に付いていた鈍い銀色のあれは。
「…社員証…」
「なにッ」
ぐっと腹筋に力が入ったゾロが突然身を立て直し、サンジは思わず上げそうになった悲鳴を噛み殺した。
ゾロの角度が微妙に変わり、内部を擦り上げたのだ。
涙の浮く目で睨めば、なだめるように電話を持っていない方のゾロの手のひらがサンジの腰をさする。
暖かいその温もりに、ほっと息を吐く。
「二振りの剣が交差するマークだった」
「……ッ親父の方の人間も絡んでるのかよ…」
苦々しくゾロが吐いた。
「俺の管理下の会社の人間の社員証は、三振りの剣のマークなんだ。二振りは親会社、親父の社の人間だ」
サンジに向かって言ったゾロが、そのまま電話口で指示を出す。
太い首。大きな手。学生時代から多分トレーニングを欠かしていないのだろう、自分とは違い厚く筋肉の付いた胸元。
少し汗ばんだ表情のまま、すっかり大人になってしまった男の顔を、サンジは熱に浮かされたように眺めた。
その視線に気づいたのか、ゾロがサンジの方を見て薄く笑った。
「他に気づいた事はねえか?」
「そ…そういえば、社員証に二桁の数字が彫ってあったけど、それは情報になるかな」
見蕩れていた所を見られた気恥かしさに慌てて熱くなった頬を隠すように俯けば、目線の先、二人の腹の間にゾロの手が伸びた。
「すげぇなお前、レストランの接客業は伊達じゃねぇな」
「……ッ!!」
ぬる、とゾロの手が突然サンジのものを包んで、サンジは慌てて両手で口を押さえた。
「その数字、思い出せるか?」
あれは社員固定の番号なんだ、思い出せたら今回取り逃がしたもう一人が割り出せる。
優しい口調でささやきながら、ゾロの指がまるでいい子いい子をするように、ゆっくり優しくサンジのものを愛撫する。
「……ッ」
口を開けばあらぬ声が漏れそうで、サンジは必死に首を振った。
電話口のすぐ向こうには、他人が聞いている。絶対にそんな声など聞かせられないのに。
ゾロは笑いながら、それでも欲情に燃えた目でサンジを見ていた。
その目線が、益々サンジを煽る。
熱い指先で先端をぐりぐりとなぞられれば、串刺しになったまま動けない尻をサンジは小さく揺らめかした。
「……ぁ…ッ」
呼吸が上がる。飛びそうになる記憶を繋ぎながら、サンジは震える手の間から言葉を漏らした。
「は…87…っ…ッ」
それ以上は言葉も継げなくて、ぎゅう、とゾロの腕にしがみ付いたサンジの上で、ゾロが慌しく電話を切った。
ぐっと大きく下から突き上げられて、今度こそサンジは悲鳴を上げた。
そして痛みと苦しさと快感の間で、とにかくゾロの存在が欲しくてぎゅうぎゅうしがみ付くサンジを、ゾロは抱きしめて食らい尽くした。
「あ…、ァあ…――ッ」
ベッドの上で飛び散るのは汗か涙か、理性も何もかも吹っ飛び、最早何を口走ったのかも解らないほどただ本能の中でゾロと混ざり合った。
触れ合う肌は、どちらのものか境界すら見失う程溶け合い混ざり合う。
大きな腕、包み込む体温が、サンジを繋ぎとめる。
ひたすら胸を突き上げる幸せの中で、サンジは笑った。
ゾロを受け止め、そして強く抱き返しながら、笑った。
*
そして、それから。
サンジを襲った実行犯は、程なくして捕まったらしい。
ゾロの会社の評判を落とす嫌がらせが頻発し、その程度も深刻なレベルに達していた為、密かに内部で摘発調査を行っていた最中の出来事だったという。
主犯のクロという社員は、ゾロのライバル会社に買収されていたとかいないとか。
まぁ、そんな事はどうでもいい。
「おい、まだか」
ゾロの一人暮らしするマンションのキッチン。
休みの日、サンジは腰にぶっとい腕を巻きつけたまま、綺麗に焼きあがって寝かせておいたスポンジ生地にホイップしたての生クリーム塗っていた。
鼻をくすぐる甘いバニラビーンズの匂い。
「もうちょっとだ。お前もやってみるか?」
「いや、いい。俺が食べたいのはお前の作ったもんだ。俺が手ぇ出したらつまらん」
背後にぴたりとくっついたゾロが、サンジの首元に鼻を突っ込みながら呟いた。
デカイ男に引っ付かれても可愛くねぇからヤメロと最初は引き剥がしていたが、今までずっと離れていた反動だから我慢しろと言って、ゾロは懲りずにくっついてくる。
学生時代はゾロがこんなに甘えたがりだとは知らなかった。
けれど実はサンジも満更でもないので、嫌がる振りをしつつもそのままにしてあるのだが。
でも、テメェのがいい匂いだ、ヤりてぇとか何とか物騒な呟きには、もれなく脛に蹴りを入れておく。
昼間のキッチンで襲われたらたまらない。
「これでよし…っと」
シンプルなショートケーキ。
苺やカットフルーツを盛り付けて、最後にサンジは中央に小さなチョコレートプレートを乗せた。
世界に二人だけになったっていいと、ゾロは言った。
例え誰が敵になろうと、必ずサンジの手を離さないと。
だからサンジも、おそるおそるゾロの手を握り返す決意をした。
『邪魔者が居ない方がいつだってヤれるし』
そう付け加えたゾロを膝で沈めたのはまぁ、照れ隠しの方が強かったのだけど、調子に乗るのでゾロには言ってはやらない。
「誕生日おめでとう」
出来上がったケーキを見つめて言えば、ぎゅ、と背後のゾロが強くサンジの体を抱いた。
あの日から、渡す事の出来なかった誕生日ケーキ。
これからはきっと、毎年こうしてゾロと一緒に祝って行くのだ。
喧嘩したっていい。まだまだ先には辛い事もあるだろう。
それでも。
あんな時があったなぁ、なんて。
いつか優しいため息と一緒に、ゾロと誕生日ケーキの火を消して。
ささやき合えればいいのだ。
そしてまたそっと、手を繋ごう。
だからもう、サンジはあの日の夢は見ない。
代わりに暑苦しくも大きな腕の中で、笑って眠るのだ。
* END *
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ゾロ誕生日おめでとう!!
図らずも連載になってしまいましたが、お付き合いありがとうございました。
ちなみに今回の敵キャラモデルはクロさん(@クロネコ海賊団)でした。
しかし真面目なえちぃシーンは書くのが苦手です。シリアスな話だと、仲直りまでの工程を書くので満足してしまって
仲直り後のにゃんにゃんはどーにも・・・でして。恥かしくてぎゃーってなります。書いてて。
最初から裏なノリとか、誤解すれ違い真っ只中な感じだと燃えるんですが(え
それではまた次のお話で!
09.01.13
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