11月?日 (AFTER DAY)
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 とあるビルの一室に、明るい鼻歌が聞こえている。
 
 
 
「よくやったわサンジくん♪」
 書類や本が所狭しと並べられた小さなオフィス。
 胸の開いたシャツにタイトなスカートから伸びる綺麗な足を組んで、ナミは座っていた革張りの椅子をくるりと回した。
 
「これでアイツも組織を抜けるなんてこと、言わなくなるでしょ」
「ナミさぁ〜〜ん…」
「まさかサンジくんが組織幹部の一人である赫脚の孫だとは、アイツ夢にも思ってないでしょうねぇ」
 
 知ったら見物だわ〜と、悪戯が成功した子供のように笑うナミさんは素敵だ。
 素敵だ…けれど。
 
 
「何よ情けない声出して!鷹の目との戦い見て、ゾロに一目会ってみたいって言ったのはサンジくんでしょ」
 だからお膳立てしてあげたっていうのに!
「……あい…」
 可愛く怒られれば、サンジはしょんぼりと頷くしかない。
 
 
 お膳立て。
 なんかホント、自ら膳の上に座ってさぁお食べ、な事をしてしまったに近いサンジとしてはその単語は複雑な気分だ。
 
 
 
 薬とはいえ「食材」から作り出される「料理」としてターゲットに仕込む闇のレシピ。
 自白から睡眠、痺れ、時には人の命を絶つものまで。
 様々な活動において、その絶大な効果は組織に必要不可欠なもの。またその秘伝の技を持つゼフは、組織の中核だった。
 もっとも役柄上その存在は極秘とされ、知るのは組織の中核に近い僅かな人間だけだったけれど。
 
 サンジはゼフから料理とその闇の技、また武術に至るまでをも引き継いだ唯一の人間だ。
 普段はゼフ共々他の組織の手の出せない、奥深い場所でひっそりと暮らしている。
 
 
 組織の指先。命令一つで何でもこなす剣士や闘士と呼ばれる者の中で、一番腕の立つと噂される鉄壁の男。
 それがゾロだった。
 ゼフに、もし一週間でアイツに薬を仕込めたらテメェの腕もちっとは認めてやる、だなんて言われた時は、本当にただの売り言葉に買い言葉でしかなかった。
 いつも厨房で繰り返される、盛大な親子喧嘩の一端だ。
 
 でも本当は。
 
 こっそり覗きに行った組織の闇トーナメント。
 真っ向からぶった切りにされていた馬鹿な男に、ざっくり自分の心臓にまで消えない印を刻まれてしまったのはサンジの方だった。
 
 一度でいいからあの男に触れたい。
 そして自分の、まだ拙いけれど自分のこの手で作った料理を食べてもらいたい。
 そんな衝動は日に日に膨らんで止まらなかった。
 
 
 
「まぁこれで想いも通じたし、よかったじゃないサンジくん!あとはサンジくんのカラダと料理でゾロを骨抜きにして頂戴」
「か、からッ…」
 レディの口から飛び出すあからさまな言葉に顔を赤くさせるも、ナミにはもっと凄いものを見られているのだから、今更だろう。
 そうは思っていても、本当に本当に居たたまれない。
 
「これでゾロの弱みも握ったしね」
 うふふふ、と笑うナミの綺麗な指先に挟まれたのは、小さなプラスチックケースに納められた黒くて平たいもの。
 
 
 ああナミさん、貴女はいつでも美しい。
 けれど。
 
 あの夜の部屋の様子を録画・録音したそのとんでもないチップを一体どうなさるおつもりですか。
 多分それはゾロだけじゃなくて、サンジの弱味にもなりうるもので。
 
 遠い目になりかけたサンジの前で、ナミは輝く唇で綺麗に笑った。
 
 
 自分の作った薬の効果を、嫌と言うほど自分の身で知ることになったあの夜。
 その結果は成功とはいえ、当のゼフには絶対言えないものになってしまった。
 
 ゾロはサンジを連れて組織を抜けると何度も言っていた。
 一緒に来い、来るよな?なんて、最後は縋るように言うものだから、朦朧とした意識の中で、サンジもつい頷いてしまった。
 するとゾロは嬉しそうに笑って、ぽつりと寝物語に話したサンジの夢を掬い上げて言ったのだ。
 
『お前の見たいっていう海の向こうにも、一緒に行こう』
 
 
 思い出したらワッと顔が熱くなって、サンジはナミから隠すように俯いた。
 緩む口元を必死に押さえる。
 
 
 きっとこれから、ゾロは組織を抜けるどころじゃなくなるだろう。
 それでももしかしたら。
 
『約束だ』
 固く誓ったあの言葉。
 それがたまらなくサンジの胸をくすぐる。
 
 
 
 一人くるくる表情を変えてはとってもわかりやすく浮き足立ったサンジの様子を、ナミが笑って眺めていたことをサンジは知らない。
 
 そしてゾロも、これから起こる波乱の毎日を知ることもなく。
 
 
 
 それはまだまだ、始まったばかりの新しい日のこと。
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
■ HAPPY END! ■
 
 
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 HAPPY BIRTHDAY ゾロ!
 これにて7日間は終了です!お付き合いありがとうございました!
 毎日じわじわと明らかになる二人の関係性…みたいなものを目指したんですけどね、
 なんてこたない、書き終わってみればいつも通りのギャグでした。うん、いいんだ!ラブが一番だ!
 ちなみにゾロの部屋の明かりを一瞬だけ落としたのもナミです。ついでに2人は顔見知りだったりもします。
 鷹の目は色んな組織を渡り歩いて暇つぶししている感じで。…余談でございました。
 
 さて、今年のゾロ誕はおそらくこれだけになるかと思います。
 次はどんな話を書こうかなぁ…
 
 07.11.11