11月10日(土) -------------------------------------------------------------------------- チンコン 軽いチャイムの音とともに、今日もまたサンジは現れる。 「明日であっという間に1週間だなぁ〜」 「…何が」 「テメェに飯作ってやるようになって」 今日のサンジはいつにも増して沢山の食材を抱えてやってきた。 小さいコタツテーブルにはこれでもかという程沢山の料理が並び、一体何事かと思っていたところだ。 「まさか俺がこんなむっさい野郎に、毎日せっせと餌やるようになるなんてなぁ…」 世の中不思議なことだらけだぜ。 溜息がてらに天を仰いだサンジに、ゾロは小さく口を曲げた。 「…別に頼んだわけじゃねぇだろうが」 サンジは昨日の晩も飯を作りにきたが、ゾロの怪我については何も触れなかった。 ゾロの方も、何も言ってはいない。 明るく勝手にしゃべり立てているその態度はいつもと同じで、それだけ見ていればやはりあれは夢だったんじゃないだろうかと思うほどだ。 ほかほかと湯気を立てた皿が次々と並べられていく。 鳥肉の煮物、鮭とキノコの包み焼き、茶碗蒸、エビと香菜の炒め物…ゾロにかろうじて判別のつくのはそれくらいだったが、とにかく随分なご馳走だ。 小鉢に入った酒のつまみになるような物も多いなと思っていたら、にんまり笑ったサンジがゴソゴソとどこかを漁って、一升瓶とお猪口を取り出してきた。 「まぁ1周間おめでとう・お疲れサンジ様記念だ」 オラ無礼講だ、飲め。 相変わらずアホな事を言いながら笑ってコタツに潜りこんできたサンジの顔を見て、ゾロはふと思い出した。 (…ああ、そういえば) ――明日は誕生日だった、のではないだろうか。 11月11日。 ゾロの生まれた日だ。 目の前に並ぶ豪華な料理。 誕生日には1日早いけれど、こんな日もあるものだな。 今更祝いを喜ぶような年でも、元々そんな感傷なども持ち合わせていないけれども。 どうしてだかこの偶然は喜ばしい気がした。 サンジの注いだ酒を掲げて、ゾロも少しだけ口角を上げるとお猪口の端を相手のものと合わせた。 小さな部屋でカツンと小さな音が響く。サンジが笑った。 「乾杯!」 ほどよく腹が脹れて、酒もいい感じに回って。とは言えゾロはザルなので回っているのはサンジだけだったけれど。 そんな所でサンジがふらふらと台所に立つと、火を入れ暖め直した鍋から何かをよそってきた。 ことん、とテーブルに置かれたのは、椀に入った透明な吸い物だった。三つ葉と紅葉を象った麩が添えられている。 「シメに、って言ったら変だけど」 サンジはどこか神妙な顔つきでそれを差し出した。 自分の分を手元に置いたまま、椀を持ち上げるゾロの様子をじっと見つめる。 顔を近づければほんのりと柚子の香りが漂う。 ゾロはそれをこくりと一口飲んだ。 途端にふわっと口中に広がる出汁の、暖かい風味。 真剣な表情のサンジに見守られながら、ゾロはゆっくりと椀の中身を飲み干した。 これはサンジにとって特別な料理なのだろう。 心なしか指先を震わせているサンジの表情だけでなく、薄っすらと緊張するような気配からゾロはそう感じ取った。 いつかジジィとやらに飲ませて認めさせたいと言っていた、それがこのスープなのかもしれない。 けれど気付かぬふりをして、空になった椀をテーブルに置いた。 「……美味かった」 サンジの目を、ゾロは真っ直ぐに見つめ返した。 例えサンジがどう考えていようと。 例えこれにどんな意味があろうと。 サンジの与えてくれた料理は本当に美味く、ゾロの心の奥にあるものを初めて、こんなにも揺さぶる味だったのだから。 だからゾロも、正直に伝えた。 「……ゾロ」 何かを言いたげに、サンジの目が揺らいだ。 フッ。 その時突然部屋の電気が掻き消えた。 辺りを真っ暗な闇が包み、視界を奪う。 「――!」 人為的な気配に、ゾロは瞬時に膝を立てて構えの体勢を取った。 即座に、慣れぬ暗闇に効かない目は捨て、見えない気配だけを探る。 しかしその足元が、突然くらりと回った。 「……ッ!」 踏ん張ろうと思ったがそれもきかず、ゾロは肩から床に崩れ落ちた。全身からみるみる力が抜けていく。 (――ッ!) コタツに隠した得物に手を伸ばすも、既に叶わない。 「…ゾロ!?おい、ゾロッ…!?――…」 慌てたサンジの声。 それもあっという間に遠くなって。 ゾロの意識はそのまますとん、と混濁した闇の中へと落ちて行った。 ■NEXT DAY ⇒ 11月11日(日)■ ■1−WEEK TOPへ戻る■ -------------------------------------------------------------------------- なんだかんだで明日はもう一週間目!たぎるぁああああ!(最近ちらっとバサラ熱再発) 07.11.10 |