11月7日(水)
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 チンコン
 
 
 遠くに聞こえた軽いチャイムの音で、ゾロは目を覚ました。
 
 
 暗い部屋。薄い窓の外を、激しい雨が叩き付けている。
 意識ははっきりしているのに、全身の感覚が妙にぼやけているように重い。
 
 
「おおーいゾロ、いねぇのか?」
 
 
 廊下でサンジが呼んでいる。
 ということは多分夕飯を作りに来たはずで、今は夜の8時くらいだろう。
 
 獣のようにじっと気配を殺して、ゾロは暗闇に目を光らせた。
 
 半壊した扉は鍵なんてかかっていなかったけれど、サンジはどうやら留守だと思ったらしい。
 軽い足音と抱えたビニール袋の揺れる音が、ゾロの部屋の前からそのまま右隣の部屋へと消えていく。
 
 
 
 胸一面が、じくじくと痛む。
 まだ抜糸も済んでいない傷跡。
 痒くなったそこを適当に掻き毟ったまま、放置しておいたのが不味かったらしい。
 
 
 かすかな鉄錆の匂い。
 消えない敗北の証。
 
 自分の未熟さを突きつけられているようで、奥歯を噛み締めてゾロは唸った。
 
 これしきでどうする。
 まるで発火しているように熱い体を本能的に丸めて、ゾロは暗闇を指先で探った。
 
 コタツの上部、筒状になった骨組みの一本の蓋を外して中に納めてあったものを引き出す。
 手の平に馴染む、使い古された感触。
 その重みを抱えてゾロは強張った息を吐いた。
 
 
 
 強くなると決めたのだ。誰よりも。
 
 友との誓いを、あの時の想いを忘れぬように繰り返す。
 ゾロは手の中の柄をきつく握り締めた。
 
 くだらない規則に縛られた小さな世界なんて、もうなんの興味もない。
 いつかもう一度奴を見つけ出し、俺は。
 
 
 手の中の刀はゾロの存在を受け止めるままに静かに、重い口を閉ざしている。
 
 
 暗い部屋に響くのは、雨の音。
 
 熱くやり場のない想いと体を抱えたまま、ゾロは息を潜めて静かに目を閉じた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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 雨。そんな日。
 
 07.11.07