11月6日(火)
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 チンコン
 
 
 軽いチャイムを鳴らしてすぐに、ぐらぐらする扉の隙間を滑り込むようにして金髪頭が部屋に上がりこんできた。
 両手にはスーパーで買ってきたのであろう沢山の食材。ビニール袋の揺れる音に薄っすらと目を開けて、ゾロは再びコタツの中で寝返りをうった。
 
「まだ寝てやがんのか」
 呆れたような溜息が上から落ちる。サンジは勝手に台所に据え付けの冷蔵庫を開けて、何やら詰め込んでいるらしい。
「…朝か…?」
「寝ぼけるのも大概にしろ。もう夜だ」
 
 やはりサンジの作った朝飯を食べたのが今日の朝。そこから先の記憶がないので、どうやら昼もすっ飛ばしてずっと眠っていたらしい。
 ぐう、とたった1日で覚えてしまった味を思い出して、ゾロの腹が鳴った。
 
「……」
 そういえばあんまり詰め込みすぎるな、でないと酒を入れる隙間が。
 そう思って口を開きかけた矢先、しゃがみこんだサンジがビールの缶を手に振り返った。
 
「お前の好きな銘柄これでよかったか?勝手に同じの買ってきちまったが」
「……おう」
 ゾロはこくりと頷いて、そのままもう一度目を閉じた。
 ほどなくして台所に火の入る気配。小気味よい包丁の音と鼻歌、そして何かを炒めるいい匂いが鼻をくすぐる。
 
 
 
 昨日食べたソバは文句なしに美味かった。
 久々にまともに食べた暖かい食事。
「うまかった」
 そうキチンと手を合わせて礼を言ったゾロの言葉に、サンジは照れたように笑って「おう」と言った。
 
 
 しかし台所使わせてくれ、と真剣な表情で再びその金髪が転がりこんできたのはその数時間後すぐのことだった。
 
「……が、出たんだよ」
「……ア?」
「あれだよ、黒い生物兵器だよ!そんぐらいわかれってんだコンチクショウ!」
 聞き返したゾロの前で、サンジはぶるぶると震えながら逆ギレした。
 
「とりあえずあそこは危険特区に指定した。今特別な指令を帯びた道具が任務遂行中だから俺は近寄れねぇ」
 真剣な表情で話すサンジに一体何の話かと思ったが、ようは今台所でバル○ンとかを炊いているからそれが済むまでは近寄れないのだと言う事らしい。
 眠いところを起こされて言われた内容がそれか。
 ゴキブリなんてそんなもんゾロの部屋にだっている。むしろ人の気配があるのに掃除も滅多にしない分だけ、空き部屋だったサンジの部屋よりもわんさと居るんじゃないか。
 そうは思ったが、ゾロはその台詞を飲み込んだ。
 サンジがアホみたいに真剣な表情でゾロの両腕を掴み、頼む!と声を上げたからだ。
 
「まだ俺の部屋ダンボールだらけだし、だから今日からしばらく飯はお前の部屋で作る。朝と晩。テメェの分も作ってやるから、いいよな?な?」
 
 ちょっと小首を傾げて見上げるようにした青い目に、心動かされたわけではない。
 その時ふっと、数時間前に食べたソバの味が思い出されて。
 気付けばゾロは首を縦に振っていたのだ。
 
 
 
「…ジジィがよ、レストランやっててよ」
 コタツに入りながらサンジの作った夕飯をあらかた平らげて、二人してビールの2本目を空けたあたりで、ほのかに赤くなった顔でサンジが言った。
 やたら美味い飯を作るこの男がタメだと知った時は驚いたが、なるほど本職だったというわけか。
 
「んじゃテメェもそこで働いてんのか」
 するとサンジは曖昧な顔をして小さく下唇を突き出した。
「飲めるようなスープ一つ出来ねぇひよっこが厨房に入るんじゃねぇって、蹴り出されてばっかだ」
 コックの世界はよくわからないが、中々に厳しいじいさんのようだ。
 何も言わずに缶をあおったゾロの方を向いて、サンジがへらっと笑った。
 
「テメェは何やってんの?一日中寝てばっかでよう、ぷー?フリーター?」
「まぁそんなもんだ」
「どっちだよ。つかその筋肉ならぜったいガテン系だろ」
 呆れたような目線を送ったサンジはすぐに別の話題を勝手に話し始める。
 本当によくしゃべる奴だ。
 
 けれどこんなに美味い料理を食ったのは初めてだった。
 ゾロは食に拘るほうではない。
 過去に仕事上、馬鹿馬鹿しいくらい高額な金を払わないと食べられない料理を口にしたこともあるが、それもただの食い物でしかなかった。
 
 白いご飯、味噌汁、炒めた野菜に和え物。どこにでもある料理のはずなのに、今日食べた飯の方がそこらに構えている料亭よりよっぽど美味い。
 昨日のソバも、今朝出されたオムレツもだ。
 
 
「……いつかは俺だって、うめぇスープを飲ませてやるんだ」
 
 誰にだろう。そのジジィとやらにだろうか。
 ほんのり潤んだ目は、遠く宙を彷徨っている。
 
 コタツの上でふんにゃりと沈む、悔しいというより寂しげな横顔に、ゾロの何かがぐらりときた。






 
 
 
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 ほのぼの出会い編、な感じで。
 
 07.11.08