おつまみ屋 後編 |
「ひぅ、アァ…、や、ぁッ…――!」 剥き出しにされた赤い肉に容赦なく舌を這わせれば、サンジは足先まで震わせて泣き叫んだ。 箸先でたわんだ皮をつまみ、かぷりと歯を立てればビクビクと全身が痙攣する。 先端の穴からはぷくぷくと透明な蜜が溢れてきて、ゾロはそれをサンジ自身に塗り込めるように舌先で掬い上げては舐め広げた。 「やめ、ゾロ……イヤだ…ッ」 赤く染まった肌を震わせて、サンジが叫ぶ。 「どれが嫌だ。どこが嫌だ。言ってみろ、好きなとこだけ弄ってやる」 「ふぁ…!ん、ァああぅ……ッ!」 ぷるぷるした先端の肉に黒い箸先を滑らせる。サンジは大きく腰を引くが、どこにも逃げられはしない。 「それともこん中ならイイのか?」 「ひ、ぁ…――!」 くぷ、と蜜を吐き出す孔の中に黒い棒の先端を突き立ててやれば、堪えきれずに吹き上がった白濁が細い塗り箸に綺麗な模様を作った。 「――イイってことだな…?」 ゾロはニィと口端を歪ませた。 サンジの白い腹が、ひっきりなしに上下して荒い呼吸を繰り返している。 汗ばんだ体はぐったりとソファに沈み、噛み締めて赤くなった唇は薄く開いたまま、陶然とした目線が宙を彷徨う。 飛び散った白い体液が、サンジの黒いパンツは勿論、腹のあたりにまで半分ずり下がったTシャツまでもぐちゃぐちゃに濡らしている。 ゾロは体を落ち着ける為にふーっと息を吐くと、サンジから体を離して濡れた体を見下ろした。 箸をテーブルに放り投げ、同じガラスボードの上に座る。張り詰めた股間はとうの昔に限界だ。 「ジャンケンだ」 突然の言葉に、サンジが濡れた目をのろりと上げてゾロを見た。 「ジャンケンで、決めさせてやる」 惚れて、いたのだ。 忘れないとやっていけない程に。なのに未だその想いは手離せていない。 サンジの目が、伺うように小さく瞬きした。 ジャンケン。 その勝負の示す意味を、サンジもよく知っている。 高校時代に自分たちがよく用いた手段だ。 素直になれないお互いの、それは建前や逃げ口上のようなものだった。 「俺はまた、目を瞑ってやる」 サンジの顔が強張った。 ゾロは持ち前の動体視力の良さから、ジャンケンに負けた事はなかった。 サンジだって、それを知っていたのだ、きっと。 だから勝ったらどうする、負けたらどする、の勝敗は、お互い暗黙のうちの出来レースだった。 「俺が勝ったらテメェを…今度こそ、抱く」 「お前が勝ったら、……好きにすればいい」 同じような勝負を数年前、ゾロはサンジに持ちかけた。 そして初めて、勝敗の見えないジャンケンをしたのだ。 結果サンジは離れ、ゾロはその存在を永遠に失った。 ゾロはサンジの頭上に手を伸ばすと、ソファに深く刺さっていた箸を抜いて投げ捨てた。 手首を縛り上げていたネクタイを解き、痺れたのかすぐには動かない手を取って下ろさせる。 赤く跡がついてしまった手は冷たく震えていて、ゾロはその手を包み込んだ。 その時サンジの見開かれた青い目から、ぽろ、と透明な雫が転げ落ちてゾロはぎょっとした。 「そうやってまた…俺に決めさせるのか」 「……おい…?」 放心したようなサンジから次々に涙が溢れ出して、ゾロは慌ててその顔に手を添えた。 その目は絶望に満ち、深くひび割れたように光りを失っている。 ゾロを見ているはずなのに、その目線が酷く遠い。 動揺するゾロをよそに、ぬぐってもぬぐってもサンジの頬は冷たく濡れていく。 「…これでまた、俺が逃げたら…お前はまた、追ってもこないんだろう…?」 どこか笑いながら呟かれたその台詞に、ゾロはガツンと頭を殴られたようなショックを受けた。 あれはサンジの為の逃げ道だった。 手離したくなかった存在。けれどあえてあの時、その戒めを解いた。 サンジを試したと、卑怯な手段を使ったと責められてもおかしくはない。 ゾロとしては出来レースではなく、本気で何かを勝ち取りたかったのだ。 そしてなにより、サンジ自身の気持ちを知りたかった。自分一人の想いに引きずられるように、なし崩しに手に入れたくはなかったのだ。 けれどそうして逃げたのはゾロの方、だったのかもしれない。 肝心なところでサンジの手を離した。 その選択がどれだけサンジを傷つけていたのかを、今の今まで気付けないまま。 「そうじゃねぇ!」 荒げた声のまま、ゾロはサンジを抱き寄せた。 「今度はテメェが逃げても、俺は諦めねぇ…!お前がほだされるまで、ずっと追いかける!」 丸い頭を掴んで肩口に押し付ける。 合わせた頬から、サンジの涙がゆっくりとゾロに伝わってくる。 「俺はテメェが欲しい。あの時も…――今でも、ずっと」 テメェだけだ。 「そん、なら……」 しゃくりあげるように大きく喘いで、サンジがのろのろと腕を上げた。 拙い動きで探るようにそっと、ゾロの背中を指が這う。 「それならどっちが勝っても…同じなんだよ」 チクショウ、もっと早く…気付けよ。 弱々しく洩らされたその声に、ゾロは堪らなくなってサンジをソファに押し倒した。 初めての挿入は、一筋縄では行かなかった。 初めてという意味はゾロが、ではない。 サンジの体は他の誰にも明け渡したことがないことが容易く知れるほど緊張しており、強張るサンジとは逆にゾロの頬は緩みっぱなしだった。 それでもじっくりたっぷり時間をかけて、サンジの小さく狭い穴をゾロの指と舌と、あと隠し味に店にあったやたら値段の張るらしいオイルでとろかした。 最後になんとか根元まで納めた時は、お互いこれでもかって程汗だくだった。 「おい、ところで…シャンクスにやってる『いつものコース』ってのは、どんなだ」 膝の上にサンジを乗せて向き合った形でゆるゆる突き上げながら、気になっていた事をふと聞けば、かろうじてゾロの肩にしがみついていた状態のサンジは、とろ、と呆けたように口を開けたままゾロを見上げた。 その目線に、圧し掛かって更に滅茶苦茶にしてしまいたい衝動をぐっとこらえ、ゾロはかわりに覚束ないサンジの腰を支えて一度大きく揺らした。 「ひィ、んッ……しゃん、くす?」 「そうだ。俺の上司のあのエロ親父だよ。最初に来たとき、今日もそのコースにすっかとか、聞いてただろ」 「ふぁッ…、や、そこ、や…!」 既に充血しすぎて真っ赤になった乳首をわざと噛んで虐めてやれば、サンジは首をふって喉をのけぞらせた。 きゅうっと股間が締め付けられる感触に耐えながら、その白い首筋に噛み付く。 サンジは敏感になりすぎてどんな些細な刺激にも全身を震わせ、甘い声でゾロを呼ぶ。 理性がもう崩れかけているのだろう、嫌々をしながらしがみ付く様は壮絶に色っぽく可愛かった。 お陰で手加減なしにやりつづけて、サンジの中に居座り続けて何回目かも覚えていない。前から出るものもなくなったサンジは、ただ甘い悲鳴をあげるばかりだ。 「し、しゃんく、すは…さかなが、すき、だから」 「……おう」 魚ってなんだ、一体どんなプレイだ。 青筋を浮かべて問い質したいのをぐっと堪えるゾロの前で、まだ息が整わないのか舌をもつれさせながらサンジが言う。 たどたどしいその言葉遣いに、うっかり新たな境地が開けてしまいそうだ。 「だからにく…よりも、しんせんなさかな、で、おかずをつくる」 ゾロはハ?と肩透かしをくった。 「……おかずってのは…エロイ意味じゃなくて、勿論飯のことだよな」 「……うん」 こくりとサンジが頷く。 「……それだけか」 「……うん?」 きょと、と子供みたいなあどけない顔でサンジが首を傾げる。他に何があるのかと言いたげだ。 何かがおかしい、と思いながら、ゾロはそれ以上考えるのは放棄した。 ほんわりとろけたサンジを前に、これ以上の我慢はできない。 そして多分、この件を問い詰めるべきはサンジではない。あのヒゲ親父だと、直感が告げている。 「……今度それ、俺にも食わせろ」 諸々を飲み込んで、ゾロはむっつりと声を出した。 ていうか俺の知らないこの数年間の料理、全部食わせろ。味あわせろ。 シャンクスとの云々は保留にしとくにせよそれでも悔しさを拭えずにそう言えば、サンジはほにゃ、と全開の顔で笑った。 「しょうが、ねぇなぁ…」 そう言いながら、白い指がゾロの首に回される。 吐かれる息は、夢みるようにゆったりと甘い。 「オレの料理…なんてなぁ、一生掛かったって、ぜんぶ食べきれないんだぞ……」 「……望むところだ」 幸せに緩むその唇を、ゾロはもう一度優しく塞いだ。 オマケ 〜 ところであの頃のあの人は 〜 時が戻ること少し前、小さな店の入口では。 バタバタを足音も荒く店を出てから、パタンと閉じた扉の裏で、シャンクスはそっと気配を殺した。 音を立てないように、目線の位置に掛けられた細いプレートを『CLOSE』の方に裏返す。 そして思わずステップを踏みそうになる衝動を堪えて、足音を殺したまま地上への階段を上ると、脇にある『おつまみ屋』と書かれた店の看板を手に取った。 イーゼルから看板を外してひっくり返す。 黒い両面仕様のボードの裏、そこに書いてあった文字。 『洋風居酒屋ALL BLUE』 以下営業時間22:00〜6:00、創作おつまみ小鉢¥500〜、本日のお勧め料理と続く一面を、シャンクスはコートのポケットから取り出したボード消しでごしごし擦った。 そしてその後に、再びポケットから取り出した今度は白い太マーカーをさらりと走らせる。 『本日臨時休業』 渋くサビの効いた自分の文字を眺めて、シャンクスはうんうんと満面の笑みを浮かべた。 それを地下への入り口を塞ぐように再び設置すると、携帯のリダイヤルボタンをぽちっと押す。 背を向けて夜の町に再び歩き出した2歩目で出た相手に、シャンクスはベンちゃ〜ん、と甘えた声を出した。 酔っ払い親父の甘え声に、電話向こうの相手は慣れた様子で答える。 「ベンちゃ〜ん、俺ってケナゲ、俺って素晴らしい。だからご褒美ちょうだい〜〜」 突拍子もない会話の切り口にも慣れたもので、ベンは静かにどうしたんだと問いかけた。 『今日はあの店寄るんじゃなかったのか。さっきの電話掛けろって用件は、あれでよかったのか』 「うんうんタイミングばっちり☆店はねぇ、今寄ってきたよ〜サンちゃんに誕生日プレゼント届けてきた」 腕時計を見れば、明日まであと2時間と少し。 いつだったか飲みながらふと洩らした部下の名前に、今までにない反応を返したサンジ。 こりゃあ何かあると色々カマをかけていったら、案の定。 本人は隠しているつもりかもしれないが、夜の町を渡り歩いたシャンクス様にかかればもうバレバレってなもんである。 動揺なんて産まれた時に腹の中に忘れてきたようなあの男でさえ、サンジを見た時の反応は面白いことになっていた。 これはもしかすると、予想以上になかなかいい贈り物になったのではないだろうか。 「だから褒めて褒めて。あ、ついでにご褒美プレイやろっか。ご主人様と犬、あ、勿論ベンちゃん犬ね」 『……アンタの頭がオカシイのはわかってる。…いいから早く帰ってこい』 溜息混じりに吐かれた電話向こうの相手の苦労なんてなんのその。 「ああ俺ってなんて健気…!」 シャンクスは元気一杯夜の町に叫ぶと、スキップしながら雑踏に消えていったのだった。 *END!* |