天然とサイボーグ
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 補給に降り立った島で大小様々な螺子を買い込んだフランキーが、ふと隣の店のショーウィンドウに飾ってあったそれを見たのは偶然だった。
 最近仲間になった一味には、女性が二人。
 一人はとてつもなく有能な航海士だが、フランキーから見ればまだ膝小僧に擦り傷等を平気で作っていそうな年齢の、妹のような存在だ。
 それを見た時に思い浮かんだのはもう一人、どこか影のある黒髪の女性の方だ。
「ふむ」
 フランキーは太い腕を組んで少しだけ考えた。
 仲間になった時に聞きかじっただけだが、彼女はなかなかハードな人生を送ってきたようだ。
 航海士が島に付くごとに沢山のふわふわした小道具を買い込んでくる度、微笑ましくただ笑っているその顔が、実はここ最近気になって仕方が無かったのだ。
 ナミちゃん可愛いわね、なんて笑うだけじゃなく、お前だってそういうの着ればもっと似合うだろうと言ってやりたい。
「……」
 フランキーは背を屈めて、可愛いベルが鳴る木製のドアを開けると店の中に入った。


 * * *


「ちょっと相談があるんだけど、いいかしら」
 のんびりと波に乗るサニー号の甲板で、ロビンにそう声を掛けられた瞬間、サンジの金髪がぶわっと逆立った。
「喜んでええええ!!」
 メロっと目をハートにしたサンジを見る度、ロビンはいつも不思議な生き物だなぁと思う。
 可愛いというよりも、一体どこにあのスイッチがあるのか解剖したい気分に駆られる。でもそれは専門外なので、今度チョッパーに相談してみようと思っていたりするのだが、それは置いておいて。
 ロビンはサンジの背後にドリンクを貰って休憩中のゾロが居るのを確認すると、手に抱えていた布を広げてみせた。
 
「本当はナミちゃんに聞ければいいんだけど」
 広げた布を胸に押し当てる。それは白いニットのワンピース。V字に開いた胸元から腰下ぎりぎりまで隠れる丈に、大幅なライムグリーンの横縞模様が入っている。普段のロビンでは選ばないようなデザインだ。
 ナミならばきっと今一番流行の着こなしを教えてくれるだろう。
 けれどロビンが知りたいのは、これを送ってくれた相手が、一体自分にどういう着方を好むか、なのだ。
 女目線の着こなしではなく、今は男目線の意見が聞きたい。
 
「この服を着た場合、下は何を穿くべきなのかしら、それとも穿かないべきなのかしら」
「え…ッ」
 何を想像したのか、サンジの鼻からタラ、と一筋の血が流れた。
 慌ててぐっとそれを押さえ、サンジは身悶えた。
「な、なんて大胆なんだロビンちゃん…」
 いや確かに素肌に一枚は男のロマンだけどその服で甲板を歩かれたら俺は常にその後をストークするよ?いやいやそうじゃなくて男は獣で危ないっていうかこの船には躾のなってない野郎どもが沢山いるから危険だなんだよっていうか。
 あああ、と悶えながら段々と甲板を血で染めて蹲るサンジを置いて、ロビンはその後にいたゾロに目線を投げた。

「どう思う?」
 ゾロは興味なさそうに目線を返し、ぐびりとグラスを空にした。
「普通下は穿かねぇモンだろ」
「ばっ、おま、このエロエロマリモがっ!ロビンちゃんになんてセクハラかましやがる!!」
 バネのように飛び起きたサンジが、ゾロに向かってショットを放った。
 それをひょいとかわし、ゾロが心外だとばかりに眉を上げた。
「だってお前だって穿かねぇだろうが」
「え」
「シャツ1枚で、チラチラ腰が見えそうで見えないのがいいんじゃねぇか」
「ば……」
 途端にサンジの顔が、ぼわっと真っ赤になった。
 あらやっぱり。
 狙い通り、ゾロもサンジにそういった格好をさせている事があるらしい。
 やはりここに尋ねに来て正解だったわと、口には出さないままロビンは安堵した。
 
「その場合は下着も身につけないのかしら」
「ロビンちゃ!?」
 可哀想なくらい真っ赤になったサンジが、ゾロの胸倉を掴みながら振り返る。
「あーそうだなぁ」
「あ゛ーー!黙れこの腐れ腹巻それ以上しゃべんな!!」
「うるせぇな、聞きたがってんのはアイツだろうが」
 
「ええ聞きたいわ、聞かせてくれるかしら」
 サンジの口元に指を咲かせ、しーっとジェスチャーをする。
 サンジはメロッとなって、けれどどこか泣きそうな顔で代わりに握ったゾロのシャツをギリギリと捻った。
 ゾロは空いた手でサンジの腰をさり気無く撫でながら、ふむ、と考えたようだ。
「パンツも穿かない方が好みだが…脱がす楽しみが減るからそこは穿いとけ」
 がぼん、と何故か口を開けたのはサンジだ。
「おまっ…そんな事考えて…」
 けれどロビンの目線がある事に気づいたのか、顔を赤くしたままもぐもぐと押し黙った。
 
 
 
 * * *
 
 
 
「フランキー」
「おう?」
 船倉付近で作業をしていたフランキーの背中に、ロビンの声がかかった。
「この前貴方に貰った服、着てみたのだけどどうかしら」
 かけていたサングラスを外して立ち上がり、振り向けばそこには想像通りあの服をよく着こなした彼女がいた。
「おー!スーパー似合ってるぜ!」
 やっぱりお前はたまには明るい色を着た方がいいな!
 言った後に少しだけ照れくさくなって、少しそっぽを向いたフランキーにロビンは笑った。
 
「ありがとう。ところで下はこれでよかった?」
「おう!スーパー…」
 再び振り返った瞬間、フランキーはぶはっと見事に鼻血を吹いた。
 ロビンが服の裾を持ち上げ、ワンピースの中身をこちらに見せていたからだ。
「ばっ、おま、おま…」
 海パン1枚が基本スタイルな自分だが、一応世の中の常識は兼ね備えているつもりだ。
「あらごめんなさい」
 ぱくぱくと言葉を次げないでいるフランキーに、ロビンは悪びれた様子もなくつまんでいた指先を離した。
 さすがニコ・ロビン。血がかからないように少しだけ立ち位置場所をずらしたその反射神経を誉めるべきか。いやいや。
「お前ってヤツぁ…」
 鼻を摘んで頭を軽く振ったフランキーに、ロビンは小さく眉をしかめた。
「お気に召さなかったかしら……やっぱり黒ではダメだった?」
「いや黒でレースは俺も大好きだがよ!こういう場合はもっと健康的な白でもいい…っていやそうじゃねぇんだニコロビン!」
 
「?」
 きょとん、とその黒い目が瞬く。
 ダメだこれは。この女は、相当だ。
 フランキーは己を諌める為に小さく息を吐くと、ガシリとロビンの肩を掴んだ。
「その格好、サイコーにスーパーだぜ。でもいいか、俺以外の男の前では、今みたいにその中身を見せるんじゃねぇぞ。絶対にだ」
「……なぜ?」
 解っていない表情でロビンが首を傾げる。
 きっとこの女には、自分の体をもっと大事にしろとかそんな言葉で言っても理解できないだろう。
 いやそれはここのクルー全員に言えるかもしれないが。
 フランキーは少し考えてから、少しだけ頬を染めた。
 
「……この俺が、嫌だからだ」
 じわ、と手の平が汗ばむ。
 何だこの空気。俺は十代のガキじゃねぇんだが、チクショウ。
「オメェがどっかでそういう事してると思うと、俺は自分の海パンをジャージに替えたくなるくらいにテンションがスーパー落ち込んで嫌な気分になる。だから絶対やめてくれ」
「……わかったわ、フランキー」
 ロビンは数回大きな目を瞬かせた後、こくりと頷いた。
 
 
 
 
 
 * * *
 
「冒険だ〜〜〜!」
 空に浮かんだ巨大な島々。
 金獅子と名乗る男の招待を受け、サニー号の新しい冒険が始まる。
 各々お出かけ用のファッショに身を包み、浮かれたクルー達。
 甲板に揃い出した仲間の中に水色の髪を見つけて、ロビンはそっとその耳元に口を咲かせた。
 気づいたフランキーが足を止めて振り返り、後方にロビンを見つけるとのしのしと近寄ってくる。
 
「おう、お前その服にしたのか」
「ええ」
 にこり、ロビンは笑う。
 そして自分が大きな男の影にすっぽり隠れているのを確認すると、細い指先でワンピースの裾をめくり上げた。
「今日は白よ、いかが?」
 
 ぶばっと盛大に噴出された血を軽く避けて、ロビンは甲板に集まる仲間の元へと駆け出した。









*END*



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10.06.20
天然系小悪魔ロビンちゃん。
映画見終わった後に、ロビンちゃんのあの衣装について友人と色々妄想したのですよ!
ロビンちゃんは羞恥心が抜けてて天然だといいよねってお話。フラロビも好きだーー