甘い秘密 3
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 汗でしんなりとした金髪が、桃色に上気した首筋に張り付いている。
 サンジは苦しげに眉根を寄せると、小さくうめいて下腹に力を入れた。
「あ……ふぅッ…」
 床に擦り付けられた白い頬にうっすらと新たな朱が散る。
 手首に縄の巻きついた両の指先が、くっと倉庫の木床を引っかいた。
 剥き出しにされている白い尻の奥、きつく閉ざされていた窄まりが呼吸に合わせるようにふるふると震え。
 やがて中から競り上がってきた何かがゆっくりと後孔の襞を持ち上げた。
「んッ……」
 鼻に抜けた声を出して、サンジが唇を噛み締める。羞恥で赤く染まった目元を見て、ゾロは獣のように小さく唇を舐めた。
 アナルの皺がゆっくりと引き伸ばされてやがて中から顔を覗かせたのは、白くて丸い、つるりとしたもの。
「あ、くッ」
 サンジが力を込めたのと同時にぐぅっとすぼまっていた口が盛り上がり、それがちゅるりと粘膜から押し出された。
 コツンと床に跳ねる音がして、ピンポン玉くらいのボールが転がり落ちる。
 白い表面にはねっとりとした液体が絡み付いていて、どろりと流れたそれは木の床にじわりと染みを作った。
「次」
 小さく荒い呼吸を整えていたサンジの背に、床に転がったボールを拾い上げてゾロが淡々と促す。
 その揺ぎ無い声に、睫毛を震わせていたサンジの瞳が諦めたように閉じられた。

「んぅ……ッ」
 再びサンジが息を詰めた。
 無意識なのかもじもじと尻を揺らし、ギリっと更に強く床に爪が立てられる。
「ぅ…ぁ、ぅうッ……」
 不規則に息を弾ませ力を込めたサンジの後孔から、やがて2つ目のボールがゆっくりその姿を現した。
 先ほどの丸い表面とは違い、今度はサイコロの角のように立方体のとがりのある部分だ。
「ッ、……んッ」
 サンジが息を詰めるのに合わせて襞がぐっと盛り上がって動くものの、おそらく角が引っかかっているのかなかなか姿を現さない。
 サンジの白い肌はどこもかしこもすっかり上気して桃色に染まり、しっとりと濡れている。倉庫の中に置かれたカンテラの灯りがその肢体を浮かび上がらせていた。
「どうした。もっとイキめ」
「ッ!」
 それまで傍らで見ているだけだったゾロが動いた。
 はみ出した器具に引き伸ばされ、うっすらと赤く盛り上がっているアナルの淵をなぞるようにぐるりと撫でる。
 サンジの肌がビクンと震え、飛び出していた異物が驚いたようにくっと沈みかけた。
 その勢いで後孔から溢れ出した透明な液体が、静かに性器を伝い濡らしていく。
 ゾロは小刻みに震えるサンジの窄まりから流れる雫に沿うように指先を滑らせると、その先で揺れていた柔らかな袋をおもむろにぎゅっと握り込んだ。
「ふぁッ!?」
 そのまま揉むようにやわやわと動かされ、サンジの背がビクンと震える。
「ぃあッ…!ゾ、やめッ…!」
「出せねぇようだから手伝ってやってんじゃねぇか」
 ごつい手の平が袋を押したり引き伸ばしたりして、中の玉をこりこりと潰すように弄ぶ。
「ひ…ぃッ…」
 サンジのアナルの器具と襞の隙間からはくぷくぷと透明な液体がますます溢れ出して、新たに伝った透明な川がゾロの手を濡らした。
「出すものが違うだろうが」
 ゾロが低く笑うと、サンジの後孔にぴちゃりと暖かいものが這った。
「ひぁ…ッ!?」
 振り返らずともそれが何の感触であるかはすぐにわかった。
 ゾロの舌。
 半端に飛び出した器具の表面を押し込むように、ざらりとぬめったものが孔のふちをぐるりとなぞる。
 熱い吐息が尻の間にかかり、サンジの背筋からつま先までがぞわりと快感に粟立った。
「やめ…ぁ…」
 入り口をなぶっては、半端にはみ出した器具ごとちゅっと吸い上げられる。ぶるぶると白い尻が震え、おもちゃを咥えた後孔が無意識にきゅっと締まった。
 すると途端に股間にはさみこまれていたゾロの熱い手のひらに力がこもった。
「ひッ!?」
 陰嚢がぐっと握り潰されて、サンジは目を見開いて喉をのけぞらせた。
 普段から何十キロもの錘を軽々と振り回すゾロの握力は半端なく、その分厚い指で握りこまれる陰嚢からはギリギリと絞られるような痛みが走って、背に冷や汗が噴き出す。
「ぃ…ッ、ひ、は」
 痛みに息を詰めてぶるぶる震えるサンジの脚の付け根に、宥めるようにゾロの唇が落とされた。
 急所を握っていた力がふっと抜け、今度はやんわりと強弱をつけて揉みしだかれる。
 後孔にも再びねろりと舌を這わされ、強張っていたはずの体に再び小さな火がくすぶった。じわじわと広がった熱はあっという間にビクビクとサンジのペニスを押し上げ、ヌルついた性器に細いロープがきりきりと食い込んでいく。
 またいつ痛みが襲うかわからない、その恐怖と背中合わせになりながらも熱い息の触れる後孔はもっとゾロの舌を招きいれようと、浅ましくもきゅうきゅう締まる。
「や…あ、ぅあぁ…ッ」
 自然と腰が浮き、まるでゾロの舌に自らそこを押し付けているかのような行為に、頬を染め小さく金糸を振ってサンジは背を震わせた。
 
 痛みも快感も全てゾロの手一つに握られている。
 それを思い知らされて、荒い呼吸に薄い胸を喘がせる。
 しかしいくら待っても決定的な快感だけはやってこない。
 いっそ散々に突き上げられて意識を失うまでヤられた方がどれだけマシだろうか。
 体内にわだかまるどうしようもない熱に、ただ頭を振って耐える。
 縛られた根元と先端は微かな痛みを生むものの、性器自体にはまだ何の刺激も与えられていないのだ。
 ゾロの手から逃げようにも、身を起こすことも手を動かすこともできないこの状態ではどうしようもない。
 イくにもイけず、嬲られるがまま。まさに拷問ある。
 縛られたペニスの先端から、ポタポタと堪えきれない滴りが溢れて床に染みを作っていく。
「ひ、あ…、ん、んぅッ……!」
 焦れたサンジがかすれた鳴き声をあげるのを見て、背後でゾロがうっそりと笑った。
 
 知らず腰を振り快感に耐えるサンジが下腹に力を入れた途端、後孔から何かが滑り出た。
 立方体の形をした、2つ目のボール。
 コロロ…と乾いた音を立てて床に転がる器具を見て、ゾロはようやくサンジの股間に差し込んでいた手を離した。
 支えが外されたようにガクンと力が抜けて床に沈んだサンジの上に、無情な声が落ちる。
「おら、あと1つ」
 うっすらと開いた青い目にぼんやり倉庫の灯りを映して、サンジはのろのろと顔を上げた。
 緩く口を開いたままどこか焦点の定まらないようなその表情に、ゾロはチっと舌打ちする。
 しかしふと何かに気づいたように、嫌な笑いを口の端に浮かべるとサンジの耳元に口を寄せた。
「ほらナミも見てんぞ。さっきは堪能させて貰ったんだ、今度はこっちが見せてやる番だろ」
「…ッ、ナミ、さ」
 その言葉にすっとサンジの目に生気が戻った。
 改めて自分の痴態を恥じるように目線をさ迷わせたサンジは、倉庫の隅から熱に浮かされたように自分を見つめいているナミの視線に気づくと体を強張らせた。
 その途端にぐっと首の後をゾロの片手にわし掴まれ、強い力で無理やり上体を引きずり起こされる。
「ッひぁ!やッ……!!」
 体が起こされ性器を引っ張られる痛みに、サンジはそれ以上ロープが引っ張られないよう反射的に自らの膝裏を掴んだ。汗で滑る肌をなんとか抱えこむと、腹と脚をぺたりとくっつけて両足を開いた格好のまま、後に控えていたゾロの胸に倒れこむ。
 縄に縛られたまま真っ赤に潤んだ性器がふるんと一回揺れて、仰向けになったサンジの腹を叩いた。
 
 ゾロはサンジの体を自分のあぐらを組んだ足の上に乗せると、膝裏をロープが張るぎりぎりまでナミの方に向かってよく見えるように割開いた。
 いやらしく透明な蜜を零しながらぐんと天を向いてそそり立つ、真っ赤に染まった性器。その下でふっくらと色づいている後孔。
 その全てがナミやルフィに向かって晒される。
「…ヤ、ぁ……ッ」
 力なく首を振った金髪から覗くうっすらと赤く染まった耳を、キリっとゾロの犬歯が噛みしめた。
「最後の1つ、ナミの前で上手く出せたらイかせてやるよ」
「……な、ゾロ、やめッ……!」
 耳に吹き込まれた言葉に途端暴れようとするサンジだが、ゾロは有無を言わせずあらわになったアナルに2本の指を突き立てた。
「あぐッ……う、あぁッ」
 既にぬるりとした液体にまみれていた後孔は、ゾロの太い指を難なく咥え込んだ。
 やわらかく暖かいその感触を楽しむかのように、ゾロは腸壁をゆっくりとなぞり上げていく。
 ねちゃねちゃと滑る液体を指の腹で掻き出し、粘膜自体を嬲るようになで上げるごつごつした指に、サンジは背を震わせながら離してしまいそうになる手で必死に膝裏を掴んだ。
 まるで自ら進んで広げているようにも見える両脚。
 悪戯にゾロの指がいいところを引っかく度、くぅっと喉がしならせながら、それでもサンジはナミの目を見ないように必死で顔を背けた。
 握りすぎて白くなった爪の先が、自分の汗で滑る。
 やがて一通り掻き混ぜたゾロの指が、ぐぐっとV字に開いてサンジのアナルを開いて見せた。
「ぅあ…、は、ひぃ…!」
 ぽかりと口を開けた中から、ゾロが散々注ぎ込んだ潤滑剤がトロリと溢れ出てくる。
 その感触にぞくぞくと肌を震わせ羞恥に顔をそむけるが、サンジの股間はなお一層天を向いて震え立っていた。
 真っ赤に熟れた性器はしとどに濡れそぼり、ピンと左右に張られた二箇所のロープがぶるぶると震えている。
 はしたない部分を全て見られている。
 その視線にも嬲られているようで、サンジの首筋までが真っ赤に染まった。
「ヤ、ぁあ……ッ!」
 ゾロはサンジの薄い顎を片手で掴むと、獣のような鋭い目でその目を覗き込んだ。サンジの真っ青な瞳の奥が、きゅっと小さく収縮する。
「出せ」
「……ッ」
 ゾロを見つめながら、サンジが何か言いたげに赤く濡れた唇を開いて熱い吐息をもらした。
 下腹に力が込められ熱い直腸がうねる。肛門がきゅっと指を食むのを、ゾロは直接サンジの中で感じた。

 やがてゾロの指先に何かが当たった。直腸を押し出されて落ちてきたのだろう、最後のボール。
 ゾロが開いた指を形はそのままに引き抜いていくと、ボールがその後を追うように滑り落ちてくる。
 ゾロの太い指が抜かれ、ぱくん、と閉じかけたアナルがボールを挟んだ。
「ぃ…ッ」
 苦悶ともとれる声をサンジが上げる。
 最後のボールはいが栗のように、表面にゴム製の大小様々な突起がびっしりと張り付いた形状をしていた。おそらくそれが内壁を強くえぐったのだろう。
 しかしそれでも萎えることなく、サンジの性器は絶えずとろとろと蜜を溢れさせている。ゾロはその先端に手を伸ばした。
「あ……!」
 長時間塞き止められていた性器は熱くて、少し触れられるだけでもジンジン痛い。
 けれど待ちわびていた手のひらの感触に、サンジは背に当たるゾロの肩口に金髪をこすりつけて頭を振った。
「どうした、出せよ」
 ぬるぬると滑る鈴口を指の腹で擦りながら、ゾロの熱い息がサンジの首筋にかかる。
「ふ…ぅぁ…」
 性器を弄るのとは反対の手で、とげとげした器具を食んでいるアナルの襞をなぞられた。ぷつぷつとしたゴムの棘が、柔らかい肉壁を刺して苛む。
 同時に覚えのありすぎるゾクゾクした快感が背筋を上って、サンジはぶるっと大きく身震いした。
 
 もっとその熱い手で、強く擦り上げて欲しい。
 熱で潤んだ瞳で、首筋に埋められたゾロの顔にサンジは無意識に鼻先を寄せた。
 強請るように小さく開けた唇から零れる舌先に、ゾロの目が向けられる。
 そのまま顔が近づけられ……しかし重ねられる寸前で、チっと舌打ちをしたゾロが顔を逸らした。
 サンジが青い目を見開く。
 驚きと、そして哀しみの波が小さくその光の奥に揺れ。
 
「……ざけんなっ!」
 次の瞬間、サンジは身を捩ってゾロの首筋に噛み付いていた。
「ッ!?」
 思いも寄らぬ反撃を受けたゾロが驚きに目を瞠り、痛みの走った個所を押さえる。
「……んで、わかんねぇ…!」
 半開きになった口から濡れた舌を覗かせて、サンジが喘ぎにも似た叫びを吐いた。
 真っ直ぐにゾロを見つめるその青い目は、怒りとは逆に壊れそうな深い色に沈んでいる。
「俺は、いつだって、テメェが」
 上手く継げない言葉を振り払うように切なげに首を振るとサンジの、しかしその言葉をゾロは遮った。
「どの口でそれを言いやがる……!」
 サンジをひたりと見据える、その目は獰猛な怒りに満ちていた。
 細められた双眸の奥に、暗く冷たい炎が揺らいでいる。
「ナミを口説いてやがるその口で、それを言うのか」
「…ゾロッ…!」
 言い訳をする間もなく、サンジの体は再び床に引き倒された。
「てめぇはそれこそ、こうして弄ってくれるなら誰でもいいんじゃねぇのか?」
「ぃッ…ああぁあッ!」
 仰向けに広げられた脚の間、ゾロの指が表面を覗かせていた玩具を指で孔内に押し込んだ。
 ぼこぼこした棘が襞をまくるように引っ掻いて、ぎちぎちと腸内をえぐられる痛みにサンジが悲鳴を上げる。
「ひぅ、ちがッ…っぁあ!」
 ゾロの手が荒々しく腸内でボールを掻き回す。びっしりと生えていた突起が肉壁をぐりぐりと押し上げて、ゾロの指を咥えたままサンジは揺さぶられる視界で必死に目を上げた。
 
 分かっていない。
 サンジの真上にあるのは、自分を見下ろす熱い眼差し。
 逃げる獲物を力ずくで押さえつけるときの……いや、子供が好きなものを取り上げられないように必死に押さえ込んでいるときのように、それは寂しく歪んでいる。
 
 言葉を必要としないこの獣は、どうして逃がしたくないのかを伝える術を知らない。
 伝えればもしかしたら、獲物は進んでその胸元に頬を摺り寄せるかもしれないのに。
 
 手を伸ばせない。
 まるで子供のように必死なその顔を、頭を抱きしめたいのに届かない。
 もどかしさにサンジの目尻からぼろっと涙が溢れた。
「ぞ、ろ…ゾロッ…!」
 必死で名前を呼ぶ。
 きつく引き結ばれた唇。顰められた眉の下で、ゾロの澄んだ鳶色の目がサンジを捉えた。
 答えは、すぐそこなのに。
 
「…だ、から、てめぇは…分かってねぇんだ…!」
 ぐちょぐちょと濡れた音を倉庫に響かせながら、ゾロの指が前立腺をえぐる。爪先から性器までが痛いほど跳ねる中、それでもサンジは切れ切れに叫んだ。
 一度溢れだした涙は止まることを知らない。それが痛みなのか快感なのか、最早わからない。
 それでもサンジの青い光は力を失わず、真っ直ぐにゾロだけを見つめた。
「それなら、他、が…いらねぇ、くらい、てめぇで…埋めて、みやがれッ…!!」
 体を震わせて、かすれる息を飲み込んで。
 挑発というより、それは懇願に近かったかもしれない。
「俺がッ、余所見しない、よう、に……ちゃんとテメェの方を、向かせとけよッ!」
 サンジの叫びに、ゾロの瞳が見開かれた。
 次の瞬間、ゾロの腕がぐわっと力強くサンジを抱え込んだ。
 指が引き抜かれ、代わりに剥き出しの股間にたぎったものがひたりと押し当てられる。
 熱い塊が内臓を突き破るかと思うほど押し込まれて、ひっとサンジの喉が鳴いた。
 突然の挿入に入り口は引きつれるように痛む。
 腸内に入れられていた淫具が押し上げられて、今まで届かなかった奥まで入り込む。その恐怖に体がすくんだ。
 それでも今まで弄られて広げられていた腸内はとろりと柔らかく濡れていて、ゾロを難なく迎え入れた。
「や……ぁあッ!」
 息をつく間もなく、ガツガツとゾロの熱い性器が突き動かされてサンジの金髪が床に散った。
 震える体が背中から思い切り押し付けられ、ギリギリと脚が割り開かれる。
 
 待ち望んでいた熱。ゾロの体。
 力強く掴まれた両腕にすら、痺れるように欲情する。
「んあ…あ…ッ、ん、ゾロッ、て、手ぇ…ッ!」
 ボロボロ涙で溢れる視界が、突き上げられる動きとともにがくがく揺れる。
 戒められた手がもどかしくて、むずがるように必死にねだる。その喘ぎを押し込めるように、ゾロの唇がサンジを塞いだ。
「ぁあッ……」
 ようやく。
 ようやく与えられた暖かな感触に、サンジは甘い息を漏らした。 
 薄い唇からぬるりと舌が滑り込み、濡れた口腔をまさぐられる。サンジも夢中で舌を伸ばしてゾロを引き入れた。
「んぁ…、ふッ」
 熱い舌を擦り合わせて、互いに食んで味わう。
 頭の芯がとろけるように熱くなって、体内から溶け落ちて行きそうだ。
 互いに交わす唾液の端が、ジンと舌先に甘い。
「ん……んふ、ゾロ…ッ」
 もっと熱が欲しくて、離れたくなくて。
 いつの間にか縄を解かれていた両手でゾロの首を引き寄せる。ちゅ、ちゅと夢中になって口を寄せながら鼻に抜けた甘い声で呼ぶと、その白い首筋に噛み付きながらゾロがうめいた。
 
「てめッ、…もう2度と俺以外のヤツとは……させねぇからなッ!」
 
「ぅん……んッ…!」
 激しい下からの突き上げにサンジの視界が揺れる。霞む目で必死にゾロを見据えて、サンジは何度もガクガクと頷いた。
 そして不敵に…笑えたかどうかはわからない。
「は、離すんじゃ……ねぇ、よ…ッ!」
 けれど震える手で、ぎゅうっと汗ばんだゾロの頭を抱え込んだ。
 
 
 部屋の隅から自分の台詞と同じようなナミの叫びが聞こえたような気がした。
 それを耳の隅に捉えたのを最後に、激しい突き上げに目の前が真っ白になって。
 そのままサンジは意識を手放した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 水色の空と白い雲の間をかもめが舞っている。
 のんびりと甲板のパラソルの下で読書をするナミの元に、すっと長身の影が落ちた。気づいてナミが顔を上げると、トレイの上に3時のティーセットを乗せたサンジが少し困ったように眉を下げて立っていた。
 朝食から昼までの時間帯は毎回クルーの食材争奪戦やら片付けやらでドタバタしていてろくに会話もできないので、朝早く出航してからナミとサンジがまともに顔を突き合せるのは今日になって初めてである。
 目が合うとちょっと照れたようにお互い視線をさ迷わせ、そしてどちらともなく笑い合った。
 ナミが本を閉じると、サンジはサイドテーブルにトレイを置き柔らかい手つきで白いカップに紅茶を注ぎいれる。
 ソーサーを恭しくナミの前に差し出すと、ありがとうと言いながらナミの黒い瞳が悪戯をするように瞬いてサンジを見あげた。
 
「……あの後は燃えた?」
「…ナミさん、そんなあからさまに聞かないでくれよ……」
 金勘定をするときのようなどこか子悪魔的な笑いを向けるナミに、サンジはちょっと眉を下げると困ったようにぼそっと呟いた。
「………腰がね、…立ってるのが精一杯」
 その答えにナミがぷっと噴き出した。言ったサンジの耳と首筋がほんのりとピンクに染まっている。
「…ナミさんの方は?」
「うん……サンジくんのことも、クルーは皆大好きだけど、でもね」
 トレイを抱えたまま真剣な目で見守るサンジに苦笑して、ナミは紅茶を一口飲むと流れるオレンジの髪を押さえた。
 
「こういうことしていいのは俺だけだぞって、ね。……ようやく言ったわよ、あいつ」
 言うのが遅いってのよ。とナミは拗ねたように、けれどさっぱりした笑顔で笑った。
 ナミは今日珍しく、キャミソールの上に淡い水色のカーディガンを重ねている。
 はためく袖口をどこか愛しげにそっと押さえるのは、決して風が冷たいからだけではない。
「よかったね」
 その笑顔に、サンジの頬も穏やかに緩む。
 
 いくら好きだと交わした仲でも、たまにはもっと自分のことを欲しがって見せて欲しくなるものだ。
 嫉妬に狂った目で、お前は自分のモンだろうと、もっと強く抱きしめてもらわないと不安になることだってあるのだ。
 
 この船に乗る誰しもの、目の前にはおっきな夢がどんとある。それに真っ直ぐ向かっている姿を含めて愛しいと思う。
 でもその隣にはちゃんと一緒に走ってる自分もいることを、たまにでいいから見て欲しいのだ。
 
 
 それに。
「まぁ…たまには刺激も必要だしね」
 にまっといつもの笑みで笑うナミにサンジは苦笑して。
「……お手柔らかに」
 ナミのソーサーにふわりと今朝畑で拾ったばかりのみかんの花を添えて、共犯者の顔で笑い返した。




*END*


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 うーー。これぞというえりょさが最後の最後に出なくてすいません。裏の話のくせに、えりょが味気ないカンジに…
 手の上でいいように可愛がってるつもりでも、実はそうさせてるのは手の上の子悪魔でした、みたいな。
 そんな話を書きたかったんで、す…
 全然書ききれてない…!こ、今後精進します……。

 05.11.03