相場不明の。 2
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「で、説明してもらおうか?」
 
 
 ビジネスホテルの一室。一つしかないベッドの上。
 カーテンから差し込む日差しはもう高い。 
 下半身にシーツを巻いた状態で、サンジはゆっくりと自分のシャツから取ってこさせた煙草を一本口に咥えた。
 冷たく見下ろす先、絨毯に正座しているのは一匹のごついマリモ頭。
 
「火」
 短く言えば、煙草と一緒に発掘してこさせたライターをゾロが掲げ持つ。
 正座からすっと方膝を立てて火を付ける様子はさすが元運動部、現筋肉馬鹿、行動が早い。
 しかしそれはホストのように格好良いというよりも、あれだ。よく時代劇で殿様が庭とかに下りる際、脇からささっと刀を差し出す役がいる、ああいう感じだ。
 
「…で?」
 ふーっと、普段は上に吹き上げる煙を目の前にいるゾロの方向に長々と吐き出しながら、サンジはもう一度聞いた。
 ゾロはなんだか真面目な顔をして、むぅ、と眉間に皺を寄せる。
 ちなみに両手を膝の上に乗せてきちんと座っているゾロも、パンツ一丁だ。未だにトレーニングを怠っていないのか、引き締まった上半身。その筋肉が想像以上に重くてぶ厚いだなんて、知りたくもなかった。
 サンジから目線を逸らすように心もち俯くゾロの、口を引き結んだその表情はどこかぶすくれている。
 オイタをやらかしたのに自分が悪いとは思っておらず、なのに無理矢理反省させられている時のガキの顔だ。納得いかない、拗ねたオーラがむんむんに出ている。
 
 サンジは溜息をついた。
 昨晩されたことを考えれば、本来激昂してしかるべきは自分だ。
 怒って蹴って、ゾロなんかこの一室から締め出して。金輪際顔なんか見せるな、絶交だと。
 なのに。
 そうできない自分がいる。
 それに加えて怒る元気も搾り取られた。今ちゃんと伸ばしている背筋も、半分は気力と虚勢で保っているにすぎない。
 普段調理場で慣らした手も脚も腰も、なんていうか筋肉だけじゃなくて一生そんな使い方はしないと思っていた内臓あたりも、もう痛いのと疲れたのとでぐだぐだなのだ。
 でもそんな顔だけは絶対に見せてやるものか。
 黙りこくるゾロを、サンジは表情を引き締めて更にキツイ目線で見据えた。
 
 
 
 
 昨晩、ベッドにぽいと放られてからのゾロは素早かった。
 自慢の筋肉でサンジをプレスし、まだ本気か冗談か判別ついていなかったサンジの服をぱぱっと剥いだ。
 剥いだ服を利用して手首あたりが布団子状態に縛りあげられ、自慢の脚は蹴りを繰り出す暇もなくゾロの体重で行動を塞がれた。
 それからイキナリ、サンジの大事な息子さんはパクリと食べられてしまったのである。
 
「んひ…なッ…!?」
 文字通り、ぱくっとゾロの咥内に消えた自分のモノに目を剥いたサンジに、ゾロは鼻息も荒くなんだか獣っぽいギラギラした目線をチラリと寄越した。
 そしてそのまま手と口を使って一気にサンジは追い上げられた。
 ゾロのテクなのか必死さゆえか、とにかく冷静に考えればそんな状況もムードもなんにも無かったのに、気付けば立て続けに2回イかされた。
 衝撃と屈辱と混乱と。息も絶え絶えにぐったりしているうちに、今度はうつ伏せにひっくり返された。
 どうやらホテルの備品にはありえない小道具のアレコレを、ちゃっかり用意していたらしいゾロの濡れた指が突然ありえない所にぬるりと潜り込んで来て、サンジは本気で暴れた。
 本気の抵抗にゾロも本気でねじ伏せにかかった。マットはレスリング場のように揺れ、ベッドが折れるかと思ったほどだ。
 しかし痛みもなんのその、未知のボタンを内側から容赦なくノックされれば次第にサンジの体が言う事をきかなくなり。
 やがて無理矢理極めさせられた3度目の頂点。
 そのタイミングでぐぬり、今度は凶悪にデカくて熱いモノが自分の中に押し入ってきて、サンジは声もなく叫んだ。
 涙がどっと出てきて、息もつけない。陸に上がった魚のように、忙しなく酸素を求めて動かない手でシーツを掻き毟った。
 
 痛い。熱い。意志も関係なくいい様に弄ばれて、抵抗できない自分が情けないやら悔しいやら。渦を巻く感情に理性がついていかない。
 そんな中で一番深く心に切り込まれたのは、ゾロに裏切られたような気持ちだった。
 大きく胸を抉ったその絶望に、目の前が真っ暗になった。
 ガクガクと突き上げられる衝撃のまま、サンジは漏れる呼吸に涙も隠せずしゃくりあげた。
 
 
 ゾロが何やら言い出したのはその時だった。
 ちなみにゾロはまだ一度もイっておらず、ガチガチの剛直を根元までサンジの内部に納めたまま。
 
「好きだ」
 
 何の冗談だ、と思った。
 散々擦られて揺すられた後ろの穴が痛い。今もってぎりぎりまで引き伸ばされた穴は違和感でいっぱいだし、圧迫感でお腹も苦しい。
 好意があるなら今すぐ助けてくれ、と思った。
 震えるサンジの背中に、暖かいゾロの胸がひたりと重なった。
 汗をかいていたのか、自分の体がひどく冷えていたと気付いたのはその時だ。
 ゾロもそれに気づいたのか、慌てたようにサンジの体を抱きしめると、ベッドに押さえつけていた体を引き起こした。
「―――ッ!」
 膝立ちにさせられて、半ばゾロの膝に座るような体勢になる。
 根元まで深く沈んだゾロのモノに悲鳴を噛み殺したサンジを、ゾロはもう一度きつく抱きしめた。
 
「好きなんだ。一生お前の飯が食いたい」
「……ぁ…ッ、ぐ…」 
 何を言っているのか、本気でわからなかった。一体なんの拷問なのかと思った。
 答えないサンジに業を煮やしたゾロがゆさゆさと繋がったままの体を揺する。
「ぃ…ッ、や、やめ……っ」
 散々イってくたくたになったサンジの性器の根元を戒めたまま、ゾロは先端をもう片方の手で乱暴に擦り上げた。
 暴れるサンジの体の中心を楔で繋いだまま、耳元に囁きつづける。
 
「好きなんだ。離れたくない。このまま別れたくない」
「ずっとテメェを見てた」
「笑った顔も、怒った顔も、全部好きだ」
「好きだ」
「好きなんだ…」
 
 困ったようにずっと囁きつづけるゾロの声。
 いつまでもイけない快楽と合間って、サンジは頭が焼き切れそうになる。
 
「あ……アぅ…」
 身を捩ってもサンジの性器を握る手は緩まない。
 涙を滲ませて喘ぎながら、サンジはきつくゾロを締め付ける。
「お前は俺のこと…」
 
 ぐだぐだになってきた頭に辛うじて拾えた言葉。
 そんなの決まってる。こんなことしやがって、勝手に突き進みやがって。
 嫌いだ。
 嫌いだ。
「嫌いになったか……」
 諦めたような弱気な声。
 
 嫌い……、だ…。
 なぜか涙が出てきて、サンジはぐっと唇を噛み締めた。
 
 
 
 
「……で?」
 いいから話せ、と組んだ足の指先でちょいちょいと肩をつつけば、まるでしゃぶりつかれそうな目で足首を凝視された。
 ぞくっとよからぬ気配がして、サンジは慌てて剥き出しになっていた足をシーツに来るんで体育座りをした。
 
「……家に帰ったら、追い出されたんだ」
 正座をしたゾロが、たどたどしく話し出す。
 
「100万、渡されて。これから一人で生きて行けだと」
 昇りつめてみよ!そんな一言で玄関先で扉を閉められ、途方に暮れた。
 突拍子もない話だが、ゾロの父親は大層変わり者らしい。剣術に長けている傍ら、一人で巨大企業を作り上げてしまった手腕を持つ。
 ゾロはその一人息子でありながら、ただ剣で父親を凌ぐことだけを考えていた。
 
「で、これからの自分に一番必要なもんを考えた」
 
「親父みたいに会社を作ろうとは思わない。暮らしていく金なら稼げばいい。家だって寝場所だって、どこでも見つかる。でも」
 
「一番に浮かんだのは、手に入れとかなくちゃならねぇと、どうしようもなく不安になったのは」
 
 じっとサンジを見つめるその熱い視線を受けて、サンジは大きく煙を吐いた。 
 
「で、俺を金で買おうとしたのか」
 お前にとっての俺の存在は、そんなもんか。
 思っていたよりもずっと低い、頼りない声がでて、サンジは隠すように煙草の煙を吹き上げた。
 
「お前を買おうとしたわけじゃねぇ」
「ふざけんな、じゃああの金はなんだよ」
「お前のことを口説く時間を買っただけだ」
「同じ事だよチクショウ!」
「違う」
 
「………で」
 サンジは煙草を指に挟んだまま、抱えた膝に顔を乗せて笑ってみせた。
「口説けたのか」
「……まだだ」
「100万使ってダメだったな。……どうすんだ、これから」
 ゾロは口を歪めて押し黙る。
「この部屋だって長くは借りられないだろう?無駄な時間だったな」
「無駄じゃねぇ」
 言うが早いか、ベッドに乗り上げてきたゾロがサンジの唇を塞いだ。
「…ん……っ」
 荒々しく、そして最後だけは確かめるようにそっと、離される。
 
「無駄じゃねぇ。お前をこうして、知ることができた。そんでまだ俺ァ、あきらめねぇぞ」
 やけに自信満々に言うゾロに、サンジは顔を臥せた。
「好きだ、サンジ」
「……俺は嫌いだ」
「好きだ」
「……嫌いだっつってんだろ」
「それでも好きだ」
「………」
 
 髪を好きながら、ゆったりとゾロが抱きしめてくる。
 後ろからすっぽりと抱きしめられれば、不意に視界が滲んだ。
 
 
「俺の、部屋……半分…貸してやろうか」
 震える声で、サンジは空に向かって呟く。
 今自分が何を言っているのかも、深く考えられなかった。
 
「家賃、1日700円、で…いいよ」
 ゾロの腕がぎゅう、と強く回った。
 耳元に深く甘い声が落ちる。
 
「……好きだ」
「……嫌いだ」
 
「……ありがとう」
「………ばかやろう…」
 
 サンジの甘く掠れた言葉を、ゾロは合わせた唇から飲み込んだ。
 
   




*END*



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08.04.02
前回のSSの、なんとなく補足的なお話。
サン誕企画様への投稿作のプレッシャーが高まるほど、なぜかこっちの筆が進みました。
そのせいか微妙に襲い方が被りました。