まるえー は れべる が あがった! |
「サーンちゃん、俺の事好き?」 大学の校舎に隣接する高等部の家庭科室。放課後のその時間に決まって居るだろうと当たりをつけていた金髪の姿を見つけ出し、ひょいと窓から顔を覗かせれば、律儀に頭に三角巾まで巻いた男は嫌そうに顔をしかめた。 「エース…てめぇ…」 「お」 本来なら直ぐに「野郎なんて好きなわけあるか馬鹿」と返ってくるのに、イベント事には誰よりも細かいこの男は、やはり今日という日にもこだわっているらしい。 「あれー?俺の事嫌いだって言ってくれないの」 ニヤニヤ笑いながら言えば、目の前の男は頬を染めてきっとこっちを睨みつけた。 うーんこういう可愛い所が本気で好きなんだけどなぁ。 「うっせぇ!これでも食ってどっか行け!」 「食わせてくれんの?ラッキー♪」 「どうせこれが目当てだったんだろうが」 「いやーだってこんなにいい匂いしてたらさぁ」 今しがたフライパンで器用に巻いていた出汁巻き卵を1つ、皿に取り分けてそのままくれる。 「今日はそれだけだからな」 ふーふーしながらぺろりと食べて、エースはんん、と思考を巡らせた。ご馳走様と皿を返す。 「そうか、今日はゾロの部活遅くなるのか」 「ばっ、別に俺はゾロの夜食なんて作ってねーんだよ!!」 真っ赤になったサンジをやっぱり可愛いなぁと思っていると、不意に首の辺りがぞわっとした。 明らかに見られている視線を辿って振り返れば、案の定大学の校舎の研究棟。見知った男の翻った白衣の裾が、窓に入る所だった。 「嫌いだって、言われてぇのかよい」 薄暗い研究室。白衣の助教授の襟を引き寄せたエースの耳に、低い声が落ちる。 その甘い響きを味わいながら、地獄耳だなアンタと笑えば、素で唇を読んだと返されて呆れてしまう。こういう男だった。 「そーだよ〜なんせ今日は嘘吐きの日だからね☆」 「阿呆かい……まぁ、でも」 そんなに聞きたいなら言ってやるよい。 にやり、まるでそんな表現がぴったりといった男の声に、はっとして逃げ出そうとするがもう遅い。しっかりと掴まれた首の後ろ。柔らかな声が耳を這う。 「エース」 腰に来る、夜を感じさせる囁き。 「お前の事がたまらなく…嫌いだよい」 「っ、くそ、オッサン、嫌がらせか…っ!」 「なんとでも」 上辺の文字の羅列など気にならないほど、それは愛に満ちていて。 悔し紛れに舌打ちしたエースを引き寄せて、マルコは笑った。 END |