この世界に明日なんていらない
-------------------------------------------------------------------------------

 
 
 
 
 二十歳を迎える前の夜、初めてゾロはサンジと繋がった。
 
「好きだ…好きなんだ、ゾロ」
 0時を越える少し前、ゾロの部屋にそっとやってきたサンジが、ぎゅう、と自分のシャツの裾を握り締めながら言った。
 ぶつかる真剣な眼差し。反してゾロの口はアホみたいに半開きだったと思う。
 長年お隣同士の幼馴染で同い年、金髪碧眼で女至上主義、ゾロと同じくらい喧嘩が強くて、その癖情に脆いお人よし。
 そしてなにより、自分がずっと想って来た相手だった。
 
 一気に色んなものが滾ったゾロは、その場でサンジを押し倒した。
 夢かこれは。夢なら覚める、いやその前にきっと蹴り殺されると思ったが、その予想も外れ、顔を赤くしながらも抵抗を見せないサンジは更にぎゅうっとゾロの首に手を回してきたりなんかして。
 とにかくそれはもう見事な据え膳だった。
 
「俺も好きだ…すげぇ、好きだ」
 誰かを抱くという意味では初めての経験じゃなかったが、ゾロは手順も思考も理性もぶっとんで、本能のままにサンジを貪った。
 サンジは初めてだった様だが手加減なんて勿論できず、けれど声を殺して感極まったように泣くその姿に益々ヒートアップする始末。
 仕舞いには、
「いいから、くれ、よ……ッ」
 こちらがなけなしの理性で外に放とうとしたものを、サンジ自らが強請ってくわえ込んだりするものだから。
 桃色に染まる肢体に、ゾロは何度鼻血を吹きかけたことか。
 柔らかくしなるその体を前から後ろから思う存分貪って、リクエスト通りにサンジの中に溢れるくらい自身の精を注ぎ込んだ。
 実際サンジの体はどちらのものともわからない液やら汁やらでぬらぬらとしていたし、赤く充血した穴からは前も後ろも隙間から溢れるものでゆるく涙のような筋が出来ていた。
 
 互いに力尽きて寝たのは明け方。
 すげぇ、誕生日万歳。
 俺このまま死んでもいいかも、なんて、ゾロはらしくなく一面桃色に染まって浮かれた頭で考えた。
 
 
 ……けれど。
 
 
 
 
「ゾロ、愛してる。だから……」
 
 
 額にゴリ、と冷たく重い感触。
 ベッドの隅に追い詰められた状態でホールドアップしながら、ゾロはつぅ、と嫌な汗が背中を流れ落ちるのを感じた。
 
 ガチリと撃鉄を起こす音。
 目の前には昨日の名残でまだうっすらと肌を桃色に染めたサンジが。
 ゾロに銃を突きつけてにこっと笑った。
 
「……俺のものになって」
 ぐ、とサンジの指が力む瞬間、反射的にゾロは体を倒した。
 
 ガウン!!
 至近距離で放たれた銃弾に鼓膜が麻痺したように悲鳴をあげる。
「おおおおお!?」
 てっきり偽者かと思っていたが、とんでもない!
「チッ」
 ベッドから飛び降りて転がるゾロを、サンジの銃口が追いかける。
 ガンガンガン!!
 
 続けざまに外れた弾丸は床を抉り布団を打ち抜き中綿を舞わせ、置いてあった本のページを木っ端微塵にした。
「おいッそれ只の弾じゃねぇだろう!」
 空になったのか、サンジが銃を投げ捨てるとゾロに飛び掛ってきた。
 羽織っているのはシャツ一枚、パンツは履いていたものの(なんで履くんだ勿体ねぇ!)むき出しの素足に目を奪われた隙に、数発繰り出された蹴りの一つが腹に決まってゾロは壁に叩きつけられた。
「がはッ……テメェ」
 ミシっと骨が軋む、サンジの本気の蹴りだ。
 訳がわからないが反射的に血管がブチっと切れたゾロも、床を蹴ってサンジに掴みかかろうとした。
 が。
「卑怯だぞテメェ!」
 両手を背中に回したサンジが、一瞬の隙にパンツの背後に差し込んであったらしい銃を2丁、両手に構えた。
 
 パンパンパンパン!!
 先ほどよりも軽い音が部屋に響く。
 身を翻したゾロは狭い部屋を駆け、壁際の勉強机を蹴ると手を顔の前にクロスさせた。
 
 ガシャーン!
 砕け散る窓ガラス、それとともに二階の部屋からダイブしたのは表の通り。
 ゾロとて寝巻き代わりのスウェット1枚しか身につけておらず、上着は勿論パンツも靴もはいていない。
 突然降って来た男に驚く近所の目線を浴びながら、ゾロは2階を振り仰いだ。
 
「一体なんなんだ!昨日のどこに不満があったんだグル眉テメェ!!あんだけヨガってたじゃねぇか!」
「うっせぇこの野郎!朝っぱらから公道でナニ言ってんだ変態がッ!そこじゃねぇよ馬鹿!俺の気持ちも知らねぇで…チキショウ!!」
 窓から覗いた金髪が一瞬引っ込む。
 が、次の瞬間現れたサンジの手に握られていたマシンガンに、ゾロはサーッと青冷めた。
「…一体俺の部屋のどこにそんなん隠してやがった!」
「うっせぇ!大人しく俺にやられちまえ!」
 慌てて飛びのいて逃げるゾロの後を、ダララララッとマシンガンの銃弾がアスファルトを抉って追いかける。
 
「待ちやがれゾローーッ!!」
 遠く響くサンジの声を背に、ゾロは全力疾走でその場を後にした。
 
 
 
「はぁ、はぁ、はぁ…」
 方向音痴もそのままに、どこかの住宅街の裏路地。
 さすがに息が上がってきて、ゾロは両手を膝に付いた。
 見下ろす自分の裸足の指が、なんとも情けない。
 
「なんだってんだ、一体」
 考えてもさっぱり、サンジにキれられる理由が思いつかない。
 昨日もあんなに可愛く自分に縋りついてきたというのに。
「…あれ、そういやアイツ武器も扱えんのか」
 一体どこで練習してたんだろうか。いや長年傍にいたつもりでもまだまだ知らない事はあるものだとゾロが感心した時、バババババ、と上空で激しく旋回するヘリコプターの音が聞こえた。
 
 
『皆の者、9時である』
 突如そこから響いた声が、町内に響き渡る。その聞き覚えのありまくる声にゾロは眉を顰めた。
「オヤジ…?」
 
『本日を持ち、我が息子ゾロは成人とあいなった。これより我が鷹の目グループの伝統行事『虎狩り』を始める』
 
「……はぁ?」
 路地からそっと空を見上げ、ゾロは首を傾げた。
 青空に低空で飛ぶのは、父親であるミホーク専用の真っ黒いヘリコプター。
 ちなみに鷹の目グループとはゾロの一族が経営する、まぁぶっちゃけよく知らないがなんだか大きな会社らしい。
 そもそもこの町自体、ゾロの組織の息が掛かりまくっているとかいないとか。
 
『シード権を持っていたバラティエ一族の者は、狩りに失敗した』
「あ?バラティエって…サンジか」
 確か爺さんの経営するレストランがそんな名前だったはず。
 聞き覚えのあるその名に記憶を辿るゾロの頭上で、ひときわ高らかにミホークが宣言した。
 
『よってこれより、一般の開放を許す』
 
 おおおお、と、地鳴りのように町中で喚起する声が響き、ゾロは思わず辺りを見回した。
 一体自分の周りで何が起こっているのだろうか。
 
 
『……ちなみにゾロよ』
 戸惑うゾロの真上で、無駄に格式ばったミホークの声が響いた。
『これは我が一族の家伝である。期限は本日0時まで、挑戦者を全て打ち倒し、逃げ切れれば貴様を私の跡継ぎと認める。だが』
 
『もし誰かに討ち取られた場合、我がグループの次期跡継ぎはその者へと移行する』
「……あぁ?」
 
『ゾロよ、見事その座、守ってみよ』
 
 言うだけ言って、ババババ、と爆音を響かせてヘリが去っていく。
「は?なんだちょっと待て、そもそも俺は跡なんてどうでもい……」
「へーそうらのかい」
 思わず路地を飛び出しかけたゾロの頭上に、突然声が降ってきた。
 見上げれば、路地に面した窓から口紅を真っ赤に引いた婆さんがゾロを見下ろしている。
「…ならその座、私におくれよ」
「…もしや婆さん、アンタも俺の首を狙うって言うのか?」
 酒に酔っているのか、金髪の長い巻き髪を揺らして婆さんが笑った。
「やらねぇ、そんなの」
 
 
「当たり前らよッ!」
 酒瓶片手に窓を飛び出してきた婆さんを避けて、ゾロは通りに飛び出した。
 途端、いたぞ!こっちだ!と通りのあちこちから声が上がる。
 見れば皆、手には何かしらの獲物を持っている。
 
「おいおいマジかよ……」
 どうなってんだこの町は。
 考える前に、ゾロは駆け出した。
 ゾロと張り合えるのはサンジくらいで、そこらの一般人に負けるような腕は持っていない。
 だがしかし。 
 
「ロロノア覚悟ぉ!!」
 近所に住むしょっちゅうヘマやらかしてた黒髪眼鏡の女。
 振りかざす日本刀をひらりとかわして叩き落とす。奪えばやはりそれは真剣で。
「ロロノアさん、覚悟ですっ」
 よく公園でたむろしてた、自称海賊団のガキども。
 パチンコから放たれるのは爆薬やら催涙弾やら厄介極まりないものばかり。
 
「一体どうなってんだこの町の連中は!」
 それら全てをかわして、必要とあれば死なない程度に昏倒させ、ひたすら逃げる逃げる逃げる。
 
「待て、ロロノア〜〜〜!」
「……数が多すぎるだろこりゃあ!!」
 町中が自分の敵のような状況に、走りながら流石のゾロも悲鳴をあげた。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「……くそ」
 カァカァと烏が鳴いている。
 辺りはすっかり日が暮れて、空は真っ赤だ。
 
 髪や肌は煤けてボロボロ、足取りも重い。
 奪った刀を3本腰に差し、色んな町民から少しずつ剥ぎ取った服の上からゾロは腹を抑えた。
 一日走り回って怪我は擦り傷と、あと微妙に合わない靴のせいで出来たマメくらいだが、如何せん腹が減ったのだ。
 考えたら昨日サンジとイタしてがっつりエネルギーを使ってから、公園の水を飲んだくらいで何も食べていない。
 うっかり柔らかな金髪を思い出したら食欲と、あとついでにばっちりアッチの欲まで思い出してゾロはぐう、と鳴る腹をさすった。
 
 神経を張りすぎて全身がピリピリする。
 だんだんと暗くなる辺り一体の気配を探り、目は爛々と輝きながら油断なく細い路地や上空を伺う。
 飢えた野生の獣は、きっとこういう世界を見ているのだろうな。
 そんな事を漠然と思いながら、ゾロは気配を殺して一軒の家の裏手にするりと忍び込んだ。
 
 
 ぐっと、力を入れてゾロは裏手のドアノブを引きちぎった。
 もう鍵を開けるのも面倒だ。
 取れたノブを捨て音なく足をそっと滑らせた所で、暗い部屋の奥で突然ぽう、と柔らかい火が灯った。
「……ッ」
「待ってくれ!……ゾロ」
 咄嗟に退路を取ろうとしたゾロを、呼び止める懐かしい気配。
 
「何もしないから…待ってくれ」
 声は静かに言うと、火が移動した。
 直ぐに小さなランプに移された灯りが、小さな部屋をぼんやりと照らし出す。
 
「……ぐる眉」
 灯りを持っていたのは、サンジだった。
 ゾロが忍び込んだのはバラティエの厨房。今日は定休なのを知っていたが、他に食料がありそうな場所をゾロは思いつかなかったのだ。
 
「……随分とまぁ、男前になっちまって」
 ボロボロのゾロを見て、サンジが笑う。
 一歩踏み出す、その動作に反射的に構えたゾロに、サンジは僅か一瞬だけ、悲しげに眉を寄せた。
 だが次の瞬間はいつもの不遜な笑いに戻る。
「そう警戒すんなって、ランプを置くだけだ。いいな、俺はここを絶対に動かないから、置くぞ」
 まるで犬でも相手にするように、サンジはゾロの目を真っ直ぐに見たまま殊更ゆっくりとした動作で、ランプを二人の前を阻むテーブルの上に置いた。
 ゾロも、酷く感覚が冴え渡った中、暗闇に浮き上がる白いサンジの指がランプを置くのをじっと見ていた。
 
「腹……減ったんだろ」
 サンジは元の姿勢に戻ると、そのまま直立した。
「……」
 果たして本当に動かないのか、まるで見極めるようにゾロは全身でサンジの気配を探る。
「それ……食えよ」
 サンジの目線を追って、ゾロはそこで初めてテーブルの上にラップが掛けられた食器類が置いてあることに気が付いた。
 
「……食えよ」
「……飯」
「ああ」
「……食っていいのか」
「ああ」
「俺のか」
「…ああ」
 火は消えて随分経っているだろうが、そういえばこの部屋はまだどこか暖かく、そして包み込まれるような料理の匂いが漂っている。
 海苔の巻かれた握り飯、お椀、それから煮物に炒め物が一式。
 途端、ぐう、と一際大きくゾロの腹が鳴いた。
 サンジが、まるで愛しいものでも見るかのように目線を柔らかくした。
 それを見て、ゾロは目の前にあった椅子を引くと、腰を掛けた。
 乱暴な手つきでラップを剥ぎ取ると軽く手を合わせ、ほのかに暖かい椀を手に取って一気に飲み干す。
 
「おいおい、そんなに簡単に食っていいのかよ」
「あ?テメェが食えって言ったんじゃねぇか」
 もふもふと口に握り飯を頬張って言えば、サンジがいやそうだけど、と言葉を濁した。
「もしそれが毒入りだったらどうすんだよ…テメェはもうちっと警戒ってもんをだな」
 ぶつぶつ言うサンジを、ゾロは不思議なものを見るように見上げた。
 
「だってしねえだろ、そんなん。お前、飯にだけは絶対」
 途端、ぐ、とサンジが唇を噛んだ。
「……まぁ、例え入ってたとして、それ食っても俺は後悔しねぇけどな」
 ニカ、と笑えばサンジは呆気に取られたように、そして次にじわじわと首を赤くした。
 
 
「あ、そういや気になってたんだが」
 むぐ、と手に零れた飯粒を舐め、おかずに手を伸ばす。
「なんかオヤジが朝言ってた、シード権ってな、なんだ。あれお前のこったろ?」
「ああ、あれね」
 サンジは小さく肩を竦めた。
 
「シード権ってのは、早い話が一番最初にお前に手出せる権利の事だよ」
「手………」
「あ、待てテメェ!今違う方向で考えてるだろ、下の意味じゃねぇよ!お前の命を一番最初に狙える権利ってことだ」
「ほう」
 薬缶に入ってある煮出したお茶を湯のみに移す手間も面倒で、直接口を付けて飲めば、サンジの眉が顰められた。けれど最初の宣言通りその場を動かない。
「一応選抜試合があるんだ。不特定多数でいきなり奪い合いするよりも、最初から集団中のTOPと戦わせる方が効率いいだろ」
 サンジはそこで、小さく息を吐いた。
「まぁ、俺が思うに多分…昔はある意味デキレースだったんじゃないかと思うよ。頼りにならない息子を、現会長に選ばれた時期後取り候補が倒す…そうすれば面目も立つし末は安泰だ」
「……俺は何も知らされてなかったぞ」
「俺だって別に、ただ実力で勝ち取っただけだ」
 
 ゾロはふう、と一息つくとサンジに目線を移した。
「……おまえ、俺の会社、欲しいのか」
「……馬鹿野郎、んなもん居るか阿呆」
 バカの上にアホ呼ばわりだ。
 ゾロは空になった皿たちを前に手を合わせてご馳走様のポーズを取る。
 
「じゃあ何だってシード権取ったんだ?」
「そんなん、てめぇ……」
 
「……」
「……」
 落ちる沈黙。
 なぜか益々顔を赤くしたサンジが、不意にぐらりと重心を崩した。
「………ッ」
 口を押さえ、そのまま床に蹲る。
「おいッ…!?」
「だ、大丈夫だから……来んなッ」
 慌てて椅子を倒して駆け寄れば、サンジは手を突っぱねてゾロを拒んだ。
 その体がぷるっと小刻みに震え、声にならない息を詰めて、サンジが居心地悪そうに腰を浮かして腹を抑える。
「……テメェ」
 不意に思い当たって、ゾロは絶句した。
 
 確かに今朝はお互い力尽きるままに寝てしまって、何の処理もしていない。
 あんな状況にならなければ、力の抜けたサンジを抱えて一緒に風呂の一つでも入ろうと思ってはいたが。
「てめ、出して…ねえのか」
 腹壊すぞ、と言ったゾロを、サンジがギっと睨んだ。
「誰のせいだと…!」
 何か言いたげに口を開き、けれど続く言葉をぎゅ、と飲み込んで下を向く。
 俯いた首筋を真っ赤に染めたまま、サンジがもにゃっと呟いた。
 
「だってよぅ…も、勿体…ねぇじゃん」
「……は?」
「折角てめぇと初めて……たのに」
 
 途中の言葉は小さすぎて聞き取れなかったが、それはガツン!とゾロの頭を殴るのに充分な衝撃だった。
 ガーッと、上った血でゾロの顔が赤黒く染まる。
 
 服の下、昨夜見た白い肢体がよみがえる。
 ふっくら赤く充血した蕾からゾロの白いものを零し、それでもそれが勿体ないから出したくないという。
「ど…っんだけエロけりゃ気が済むんだ…!」
 血管がブチ切れたゾロは、その場でサンジを押し倒した。
 
 
 
 
 
 
「ふ、ふぁ…っ、あぁ――っ」
 ゾロの下でひんひんサンジが鳴いている。
 鳴くっていうよりもう本気で泣いている。 
「テメェ、本気で俺の事殺そうとしやがったな…?」
「だ、だって…誰かに、取られる…くらいな、ら、俺が自分の手で…っ、て」
「…俺は、そんなに…弱くねぇ、ぞ!」
 怒りの口調のままに荒々しく腰を叩きつければ、サンジが悲鳴をあげてのけぞった。
 ぽた、とゾロの額から落ちた汗がサンジの肌を滑る。
 どろどろのぐちゃぐちゃになりながら、それでもサンジは震える手をゾロに伸ばした。
 濡れた青い輝きに、ゾロの思考が奪われる。
「けど……けど」
 
 ずる、とサンジの中からゾロのものが引き抜かれた瞬間。
 グワッ!とサンジの殺気が一瞬にして膨れ上がり、首根っこを掴まれたゾロの体が反転した。
 
「俺だって不安になる時くらいあるんだよこの野郎ッ!初めての夜に永遠の初恋を捧げる気分で挑んだんだぞチキショウがッッ!!」
「ぐあッ!!」
 首を絞められ、床に叩き付けられた弾みで思い切り後頭部を強打したゾロの上に、サンジは馬乗りに圧し掛かった。
 首を思いきり揺すれば、口を半開きにしたままのゾロの頭がぐらぐらと揺れる。
「俺の本気受け取れってんだ!!この馬鹿みど……――」
 
 
『リーンゴーン………』
 その時突然、どこぞの教会で打ち鳴らしているかのような鐘の音が町中に響き渡った。
 
『0時をもって、虎狩りを終了する』 
 そして家の外に響き渡るアナウンスは、ミホークの声。
 
 
『こ度の勝者が決定した……勝者、次期グループの総帥は……バラティエ一族のサンジ!!』
 
 
「……は!?」
 厨房に掛けてある時計が0時を指しているのを確認したサンジは、その言葉にぱかっと口を開けた。
「は、え、なんで……俺?」
 
「見事である。よくぞ仕留めた」
 突然ぱっと、厨房に明かりがついた。
「へ、え……うわああああああ!!」
 一体いつからいたのか、裸で重なる自分達を見下ろすように、机の上に正座をするのはかのミホーク。
「ちょ、一体いつからそこに……ッ!ゾロ、テメェもなんとか…あああああ!?」
 見下ろせばゾロは白目を剥いて、意識はとっくに彼岸の彼方に旅立ってしまっている。
 
「天晴れである」
「え、いや、冗談でしょ…これ、別に、俺」
 ミホークのぐるぐる目にじっと見下ろされて嫌な汗をかき始めたサンジが、そうだ、まずは服を…と厨房を見回したところで、今度は入り口に佇む人影を見てひっと声を上げた。
 
「チビナス……てめぇって奴ァ……」
 黒い噴煙渦巻くオーラを纏ったのは、サンジの祖父であるゼフだった。
 
「そこを神聖なる厨房とわかってんだろうな……?」
 ゴゴゴゴゴ、と地鳴りがしそうな気迫がびりびりと肌に突き刺さる。
 
「いや、ジジィ、これはだな…?」
 恐怖にすくみ上がるサンジの前で、ゼフはくっと袖口で目頭を押さえた。
 キラリと微かに光ったのは…まさか?
 呆気に取られるサンジの前で、ゼフは再び表情を戒めると眼光鋭くサンジを見据えた。
「テメェがそこまでしてロロノアんちの跡取りになりてぇんならもう止めはしねぇ…バラティエは元々ロロノア家専属の料理人だ…数百年仕えたその代償を、こういう形で頂くってんなら…」
「いや待てジジィ!なんか違う!それ激しく違う!!」
「さすが貴殿の息子、見事な志である」
「ミホのおっさんも混ぜっ返すな!」
 志じゃなくてそれは単なる下克上だろ!
 
 サンジは涙の浮いた目で、ぎっと自分の下に伸びるゾロを睨んだ。
「ゾロ、テメェ責任とれよ…ッいい加減起きろ〜〜〜!!!」
「……たんじょうび……さいこー…」
 サンジの白い体に跨られながら、揺さぶられるゾロはとっくに夢の世界で。
「〜〜〜〜…ッ」
 
 うへ、と笑いを零すその顔に、サンジはついにバラティエ家秘伝の黄金の右手を振り下ろしたのだった。








 
 
 * END! *

 
 
 
 ---------------------------------------------------------------------
 
 09.11.11

 HAPPY BIRTHDAYゾロ!
 この前のオフ本でも戦う二人を書きましたが、サンジに銃って好きです。オフではそのシーンまで書けなかったんですが
 いかんせん銃に詳しくないので憧れはあっても表現で詰まるんですよね。今回もまず撃鉄って引くんだか起こすんだか違いが…間違ってたらすいません。
 最近首を掻っ切るジェスチャーしながらゾロを蹴倒して乗っかるくらいのサンジが好きでたまらないのです。
 あまりにも原作で彼らがでないので、本気で2人の性格設定が妄想にまみれます。12月の映画に期待するしかない。