KOAKUMAラヴァー 21 ------------------------------------------------------------------------------- |
(21) * * * * * 郊外の、木に囲まれた白い家。 木造りの扉の前に一望できるオープンテラスには、天気がかいいせいかランチを食べる客が溢れていた。 綺麗な洋風の外見に反して扉を開けるなり野太い男の声で「イラッシャイマセェ!」と迎えられたのには驚いたが、女性客ばかりの店内は平日の昼間、ゾロのような制服姿の学生が一人で来るにはかなり浮いた雰囲気だった。 険しい顔で立つゾロを見て何を思ったのか、ウェイターを押しのけてのそりと厨房の奥から現れたのは眼光鋭い白髭の老人。 「引きこもりのアホならワイン蔵の奥だ。とっとと連れてけ」 まだ何も言っていないのに、ぐいっと店の奥を親指で差し、フンと鼻を鳴らす。 立ってるだけで滲み出る威圧感に、ゾロは黙ってぺこりと頭を下げた。 石造りの地下室。ひやりとする空気の奥深く、暗い個室に毛布に包まって眠るその男を見た時、驚きより先に沸き起こったのは怒りだった。 勝手に自分を揺さ振って、挙句、言いたいことだけ言って逃げた。 最初からそうだ。 初めての夢から、自分の言葉なんて聞くことすらしなかった。 怖いなら怖いと、嫌なら嫌になったんだと、一言でいいからそう、言ってくれさえすれば。 毛布を引き剥がし、その手首をぐっと掴んだ。 冷たくまるで生きている人間としての気配がないその体にぞっとして、両手で抱え上げ、そして息を吹き込むように唇を重ねた。 「ッ!!?」 びくりとサンジの体が震え、手がこちらを押しのけようとゾロの胸を掻いて暴れる。 それを押さえ込んで、ゾロは更に開いた口の中に滑り込んだ。 サンジの冷たい口の中が同じ温度になるまで、何度も何度も舌を絡ませる。 逃げるばかりの舌先を追いかけ、やがて抵抗を失ったその身がじわりと濡れてゾロを受け入れるまで。 「っ……」 大きく喘いで、サンジの瞼が震えるように開いた。 暗闇でも青く澄んだ輝き。 ゾロを捉え、うーっと呻いたサンジの目から、ぼろりと涙が転がり落ちた。 「せっかく我慢してたのに、ぞろ、ごはん、おいしい…」 「なんだそりゃ」 たどたどしい言葉に、怒っていたはずの体から力が抜けて、ゾロは思わず小さく噴出した。 「どうしてくれんだよぅ、ばかやろうう」 「あーなんだよ俺は飯扱いかよ。でもまぁいいから、ほら」 小さく強請るように擦り寄るサンジを正面から抱き上げて、ゾロはもう一度今度はサンジから寄せられた唇を受け入れた。 「っ飯だから、じゃねぇもん。ゾロだから、うまいんだもん」 「……くっそ!」 おいしいよう〜〜と更に泣きじゃくるサンジを抱きしめたまま、ゾロはその場に再びサンジを押し倒した。 「っ、なに、何してんの、ロロノア…」 「ゾロって呼べ」 「てかなんで、ゾロここに居るの…?」 腹が満たされて段々目が覚めてきたのか、きょろきょろと落ち着かなくなってきたサンジのシャツを、がばっとゾロはめくり上げた。 「ひゃわわわわ!?ホント何してんのおまっ…」 「うっせぇちょっと舐めるだけだ暴れると突っ込むぞこの野郎」 「ひぅええぇぇえ!?ううう嘘だその顔ウソだぁああああ」 眼鏡はない。 そのままのサンジが今、ゾロを見上げている。 満足げにニヤリと笑ったゾロに、ふとサンジが何かに気づいたように表情を暗くした。 「ゾロ、腕、痛くないよな…?」 「ア?ああ」 「よかった」 ほっとしたようにサンジが笑う。 「そしたらさ、あの…もう俺と、やらなくても大丈夫だよ…?」 サンジのいわんとする所がわかって、ゾロは盛大な溜息をついた。 「…俺は別に、腕の痛みを治すためにやりたいんじゃねぇ」 「ふぇっ…あ、ああ、そか。突然相手が居なくなったから、溜まってるの?じゃ、じゃあ」 サンジが手でもそもそと、ゾロがたくし上げたシャツの裾を握って元に戻した。 自分で言いながら泣きそうに目線を逸らす。 その表情に、言いようのない苛立ちが沸き起こってゾロは奥歯を噛んだ。 「待って、今夢の中に…」 「いらねぇ」 「むにゃぁあああっ!?」 即答すると、ゾロは力任せにシャツの前を両手で引き千切った。 ブチブチッと盛大な音と共にボタンが弾け飛ぶ。 「なんっ…なんでだよ!だって、ぞろこんな姿、嫌だろっ…」 「はぁ?どういう意味だ」 眉をしかめるサンジは、ぎゅっと破けたシャツを握り締めながらゾロを睨んだ。 真っ赤に染まった頬に、濡れた青い目。 暗闇に浮かぶ白い肌は滑らかで。 どれが嫌だって? くっそ、それはわざとか! 「だ、だって俺、夢の中だと俺、凄くその…魅力的なんだろ?」 「…はぁ?」 「夢魔の魔力の一つに、魅了ってのがあるから…だから、お前だってやる気になってたんだ。こんな地味な人間の姿じゃ、俺…」 言いたいことはわかった。 ゾロは再び静かに息を吐くと、サンジの頬を両手で挟んだ。 そして真っ直ぐにその目を見据えた。 「夢ん中じゃなくたって、俺はお前とやりたいんだ。昼も夜もどっちの姿だって関係ねぇ。 目の前にいる、お前がいいんだ」 呆然とするサンジの鼻の頭に、ゾロは笑いながらキスをした。 「お前が好きなんだ。腹が減ったら我慢しないでいくらでも食えばいいだろ。 もしそれに遠慮があるってんなら…そうだな、俺には昼飯、食わせてくれよ」 「ぞろ…」 ふにゃっと情けなく笑ったその顔が、とろけるような幸せに満ちていて。 たまらなくなって、ゾロは力一杯その体を抱きしめた。 * * * 昼間のサンジの体はまっさらで、つまりは本当の肉体的な意味で未経験で。 結局その日、地下室では最後まで致せなかった。 再び日常に戻った日々の中、ゾロはサンジと学校でたまに、キスをする。 昼間のサンジは相変わらず恥ずかしがりだけれど、前のように逃げなくなった。 誰も居ない所、例えば昼休みの屋上とか、二人きりの時は照れながらも眼鏡を外してくれるようになった。 初めての体は敏感で、サンジの家などで少しずつ触れる回数を増やして、つい最近ようやく繋がれた事は記憶に新しい。 夢のように簡単にはいくはずもなく、ゾロとしてもリアルに同性を抱くのは初めてで、お互い色々努力した。 サンジも相当痛かったに違いない。 でもゾロを頑張って最後まで受け入れてくれた瞬間の、泣きながら嬉しそうに笑ったサンジの顔は、一生忘れないだろう。 ……なのに。 「お前のこういう性格はワザと作ってたんじゃなかったのかよ?!」 「ん〜?」 夢の中、ゾロを押し倒した体勢でサンジがくりっと首を傾げ、にまっと笑った。 「えへへ、どうですかね〜マリモちゃんvやっぱりこっちの姿だと、気持ちいいことに対して素直になっちゃうのかも」 「くっそ、お前…」 「なんだよう、ゾロ、どっちの俺も好きなんだろー?」 それにいくらでも食べていいって言ったじゃん。 ぷくっと拗ねたように唇を尖らせる。 その顔にすらムラッとするのだから、もうはなから勝負は見えてるようなもんだ。 だがしかし、やはり押し倒されるよりも押し倒したいのが男ってもんだ。 「だからって…俺の動きを封じるんじゃねぇ!解け!」 「やだ」 ぷいっとサンジは顔を逸らした。 なるほど、これはあれだ。 この前昼間のサンジに、泣きながらもうダメだって懇願されたのを聞き流して朝まで散々やったのを根に持っている。 むむっと顔をしかめたゾロの眉間に、ちゅっとキスが落とされた。 「ゾロ、好きだ」 嬉しそうに笑う。 そして次にあざといとしか思えない角度で髪を掻きあげると、サンジが小さく唇を舐めた。 「だからもっとちょーだい」 その瞬間、バサリ、大きな黒い羽がその背に広がるのが見えたのは、ゾロの気のせいじゃないはずだ。 …今に見てろよ、ちくしょう! |
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