KOAKUMAラヴァー 20
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(20)



* * * * *


 初めてその姿を見たとき、とても綺麗だと思った。

 自分にはない強さと信念とを、真っ直ぐに振るう立ち姿。


 でも、ある時そんなアイツが苦しんでるのを知った。
 俺に本当にそんな力があるのかわからなかったし、上手く出来るのかもわからなかったけど。
 でももしそうなら。
 こんな疎ましい俺の力が、アイツの、ゾロの役に立つのなら。

 初めて跨った他人の体。
 手は震えてなかっただろうか。
 汗ばんでいるのが、バレなかっただろうか。

 自分の作った夢の中で、どこまでが相手に伝わってしまうのかもわからない。
 顔は隠せているはずだから、苦痛に歪む顔は見えてない、はずだ。
 初めての衝撃に、声を殺すのは大変だった。
 でも事前に調べて念入りに解しておいたお陰か、それとももう一つの自分の性質のせいか、結果は上手く出来た方だと思う。多分。


 あれは何度目の時だったろうか。
 少しずつやり方にも慣れてきた時、ゾロがギラギラとした目で自分を見上げていた。
 今思えば多分、何かに怒っていたんだと思う。
 でも、ずっと隠れて見ていた存在に、真っ直ぐ目の前の敵だけを見据える、あの目に捉えられたんだと。
 その事実に、とてつもなく嬉しくなった。
 嬉しくて嬉しくて思わず笑ってしまったら、その分うっかり締め上げてしまって、ついでに予期せぬ気持ちよさが背を走ってびっくりした。
 ゾロも呻いていた。
 俺みたいに気持よさを少しでも感じていたなら、いいんだけどな。

 
 これはゾロの為だと言いながら、それよりずっと、自分の為だった。
 ゾロのものが体に流れてきた瞬間は嬉しかった。でも、だいすきな人のものなのに、それをただの食料として吸収してしまう、自分の体が悲しかった。


 深い暗闇に、息を吐けばゆっくりと手足の力が抜けた。
 とぷりと温かい水に沈むように、意識が溶けていく。

 あれはいつだったろう。
 幼稚園の頃。
 友達の肌に流れる汗を舐めたのを、見つかった。
 顔も忘れた誰かに、大好きな人以外にはだめよって言われてたけど。
 お腹が減って耐えられなかったのだけは、覚えてる。
 怖い顔の誰かが来て、それから暗闇に閉じ込められた。

 ギリギリまで飢えて、飢えて、何でもいいから食べたくて。
 でも何を食べたいのかもわからなくて。

 誰かに触れるのはこわい。
 だから隠した。
 全身、隠れるところは。
 髪も目も体も全部。
 本当の自分の姿が外に出ちゃわないように。
 綺麗だね、とか、可愛いね、とか。
 それは全部、俺の中の半分が出てきてるからだ。
 こわい。


 でもゾロは、必死で隠れる俺の目を見て、
 眼鏡が邪魔だって外して、
 俺の作った弁当、
 美味しそうに食べてくれて。


 でもゾロもやっぱり、そうだよなぁ。
 冷たい目で俺を見てた。
 そうだよな、体から出るもので食事するなんて行為、気持ち悪いよな。
 ゾロが俺の正体を知っても、昼間も同じ態度で接してくれたから、ちょっと忘れてたんだ。
 
 化物、とか。悪魔とか。
 散々呼ばれた名前。遠い過去、誰かの声。
 
 逃げるように、ぎゅっと身を縮こまらせる。
 ゾロにまでそんな視線をぶつけられるなんて、耐えられなくて、俺は背を向けた。
 あの時ゾロが何かを言う前に、何か言った気がする。よく覚えてない。

 俺は誰かとSEXするのが好きな悪魔で、淫乱な化物です。
 ゾロを選んだ理由なんて、何もない。
 ないったら、ない。

『だってほら、俺、気持ちいいこと大好きだもん』
 手馴れた風に、笑って言った。
 よくできた。…よな?
  

 ああでも、ゾロと背中合わせでよかった。

 笑っているのに、なんでか涙が止まらなかったから。


 暗闇。
 ここに居れば、だいじょうぶ。 

 ああ、お腹が空いたなぁ。
 あっちの姿で食事をすればするほど、どんどん飢えるんだ。
 もっとほしくなって、自分なのに、自分じゃないものがでてくる。
 こわい。

 だったら眠ればいい。
 前みたいに、もう一人の自分が味を忘れて弱るくらい。
 半年くらい?
 忘れた。
 忘れよう。


 人間として、舌を肥やせ。
 美味い飯を食って、美味い飯を作れ。
 他の飯なんて食う気がなくなるくらい。
 そうすれば――…

 ガリガリになってた俺を、暗い穴から引っ張り上げてくれたのは誰だっけ。
 ジジィ。
 迷惑かけて、ごめん。

 結局またこうなっちまったなぁ。
 

 温かく、意識が沈―――










「勝手に逃げてんじゃねぇぞ、この野郎!!」


 突然、暗闇を打ち払うような怒声と共に腕が引っ張り上げられた。






*21へ*





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2012/12/18