KOAKUMAラヴァー 17 ------------------------------------------------------------------------------- |
(17) * * * * * ゾロ、少し、話を戻そう。 そう言って、エースは溜息と共にビールの缶を置いた。 「サンジがハーフだってのは知ってるか?」 「…ああ、言ってたな、そんなこと」 「うん、まずハーフってのはね、なかなか辛いんだよ」 「…?」 首を傾げるゾロに、エースは自分の飲みかけの缶と、ゾロの手元にあった色違いのビールの缶を二つ手元に並べた。 「まず一つに、人間と魔物と両方のエネルギーを維持する為に、体は両方の食べ物を欲しがる。 例えば誰もが知ってる吸血鬼なら、人間のエネルギーになる通常の『食物』と、魔物のエネルギーになる『血』。その二つを定期的に取り入れないと生きられないってことだ。これはなんとなくわかる?」 「…ああ」 頷いたゾロに、エースも頷いた。 「次に、人間と魔物の血が1つの体に入ってると、バランスが難しい。強いのは大抵、魔物の方だ。 魔物の血の影響が強くなると、人間の理性では抑えきれない、魔物特有の部分が表面に出てくる」 エースの手が、ゾロの方の缶を自分の缶の上に積み上げる。 「それは魔物の種類にもよるけど、大抵凶暴性が強くなったりして、自分に必要なエネルギーを手に入れたくて堪らなくなる。 サンちゃんが言ってたように、サンちゃん達夢魔の場合は性欲が強くなって気持ちいいことが大好きになるんだろうな。 それは結局、魔物としての『食事』をしようとする体が自然と、食事を取りやすい本能に導かれる結果なんだけど」 「……」 段々授業を受ける時のように難しい顔をしてきたゾロに、エースは苦笑して息を吐いた。 「そもそも彼らの食事ってねぇ、別にSEXしなくてもいいんだよ?」 「……は?」 耳を疑った。 今エースはなんと言った。 思わず顔を凝視したゾロに、エースはにやっと笑った。 「まぁ厳密には、性欲によって出るものが一番栄養になるらしいんだけど。 汗とか涙とか。人間の体から出る体液ならなんでもいいんだよ。キスで唾液を貰うだけだって、充分。 特にサンちゃんはハーフなんだから、尚更少量で事足りるんだ」 「そんなこと…」 あいつは一言も。 いやでもそれは、食事を兼ねて気持ちいい事も好きだから行為を繰り返してたってことで。 混乱し始めたゾロに、次のエースの言葉が重く突き刺さった。 「そもそもSEXするにしたって、相手は男じゃなくたっていいんだよ」 「……!」 思いも寄らなかった可能性に、ぱか、と口が開いた。 「サンちゃん、ああ見えてすんごい女の子大好きなんだよ?崇拝に近いけど。てか普通そういう相手は女の子って考えない? サンちゃんが精液じゃないとダメなんだ、とでも言った?」 そういえば、そうとは言ってなかったような…気もする。 「でも最初からああいうノリで…慣れた風だから、てっきり…」 誘い慣れたように、乗りなれたようにゾロを押し倒してくるから。 いやそれだけじゃない。甘い表情や、ゾロを呼ぶ声や、目線や。 サンジの全てが。 だから…相手は男ばかりなのかと勝手に思い込んでいた。 他のどんな相手にも、同じ態度で、あのふわりと溶けた表情で名前を呼んでいるのかと。 「まぁ…それにさぁ。いくらサンちゃんが、ハーフで力が弱いっていったって、記憶を消したりも出来るんだよ。夢魔の力の一つね。 毎日同じ相手だって、まぁちょっとは相手に疲れが残るかもしれないけど、本当に何もかも忘れてしまう夢にだって出来るんだ。 …その意味、わかる?ゾロ」 「……」 黙りこんだゾロに、エースは小さく溜息をついた。 「…ほんとはね、サンちゃん。人間を襲うってこと自体が嫌いなんだよ」 ぽつりとエースが漏らした。 「女の子に対しては尚更。…多分、自分みたいなハーフを作れちゃうって可能性自体が、本能的にダメなんだろうね」 それは俺にも…わかることだから。 真剣な響きに顔を上げたゾロに、エースは緩く笑った。 「だから俺はサンちゃんに協力してた」 「でも…だからやっぱりあんたとは…してたってことなんだろ」 ぎゅっと拳を握ったゾロに、エースは何故か「青春っていいなぁ」とテーブルに頬杖を付いた。 「別にSEXしてたわけじゃない。俺もまぁサンジと同じハーフみたいなもんでね。 俺の場合は相手の…ざっくり言えば相手の『人間じゃない力』の部分を吸い出せるんだ」 「…どういうことだ」 エースはさっき縦に積み上げた二つのビール缶を手にすると、上に乗っていたゾロの缶を下ろし、今まで土台になっていた方の缶を今度はその上に乗せた。 「人間を襲いたくない、魔物の部分を出したくないって願うサンちゃんの、その魔物の血自体のエネルギーをね、俺が食べてたってこと。 そうすれば魔物の血は勢いを無くして、表面に出てきた人間の力が強くなる。 結果、魔物としての食事も、少量に抑えられるってことさ」 「……」 長々としたエースの説明に、頭がついていかない。 エースとサンジは、ゾロのように夢で関係を持っていたわけじゃなかった。 しかもサンジは、人間を襲うのが好きじゃないという。 でもじゃあ何故、他にも相手は色々いるからと、あえてゾロに言ったんだろうか。 自分は気持ちいい事が好きだから。 SEXが好きだと、あんなに堂々と宣言していたじゃないか。 いや、そんなことじゃない。 何かもっと大事なことを、見落としている気がする。 昼間の、隠れるように逃げるサンジ。 夢の中の、奔放で淫らなサンジ。 二つの姿が、ぐるぐると回る。 「ッ!?」 不意にその思考を中断したのは、左手首に走った鋭い痛みだった。 見ればゾロの手を取ったエースが、そこに噛み付いていた。 「っな…!?」 「ごっそーさん」 ばっと自分の手を奪い返したゾロに、エースがぺろりと唇を舐めた。 「お前の中から、サンちゃんの匂いのする部分を取ってやった」 「あ…?」 意味がわからない。 気持ち悪くエースを見ながら手首を擦るが、そこには別に噛み跡もなければ痛みもない。 「ここまでしてあげるのはサンちゃんの為ってもあるけど。 …ほんとは、サンちゃんを泣かせるような男なんて嫌いだよ」 にこり、笑ったその目が笑ってないような気がして、ゾロは本能的に身構えた。 でも次の瞬間エースはふっと力を抜いた。 「でもルフィの友達っていう部分で…おまけだな」 あとどうするかは、自分で考えな。 そう言ってエースはおもむろに立ち上がると、電話台に置いてあったペンを取り、その場で何かを書くとメモを1枚、ゾロに手渡した。 そのメモに書いてあったのは、たった一言。 『Baratie』 |
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