KOAKUMAラヴァー 16 ------------------------------------------------------------------------------- |
(16) * * * * * 学校にも、そしてゾロの夢にも来なくなったサンジ。 行方を追ってどうするつもりなのか。 会って何がしたいのか。 自分の心の中は整理がつかないままだ。 だけどもう一度、しっかりと、眼鏡の奥のあの青い目を確かめたかった。 * * * 夕暮れの商店街は、ざわざわと人の波で溢れている。 とあるスーパー脇の駐輪場。そこの塀に腰を掛けて、ゾロはじっと入り口を見つめていた。 今日ここに来るとは限らない。でもそれなら一週間、毎日ここで張るつもりだった。 それでも来なかったらどうしよう。いや来る、絶対。 来い、来い。 じっと動かず、ひたすら念じて。 一体どれくらいそこに居ただろうか。 「…あれっ」 遠くからやがて姿を現したその男は、予想外にゾロを見つけるなり笑顔になって近づいてきた。 「お前、ゾロだろ」 「……」 にこっとそばかすの散った顔で見下ろされて、咄嗟にゾロは何も言えなくなった。 「な、んで」 「おっやっぱりな。まぁ緑頭でサンちゃんと同じ学校の制服とくればなぁ」 サンちゃんが言ってた特長通りで笑っちゃうなマリモちゃん。 疑問を先回りで答えられて、ゾロは更にぐっと詰まった。 からかい混じりの言葉だが、仮にも年上っぽい相手に喧嘩ごしで接するわけにもいかない。ましてこっちには聞きたい事があるのだ。 「まぁ丁度いいや。話する前にちょっと手伝ってよ」 『エース』とサンジが呼んでいた男は、親指をくいっと後ろに立ててスーパーを差した。 「え…」 「聞きたいことが、あるんだろ?」 何もかもを見透かしたように、男が笑った。 * * * 「いやー悪いね〜運んで貰っちゃって」 「いえ…鍛錬だと思えば」 疲れた顔なんてこの男の前で見せたくなくて、ゾロは背筋を正したまま言った。 両手にぶら提げた沢山のビニール袋に、みしみしと腕が鳴っている。 エースの買い物は半端なかった。大量の野菜、果物、ペットボトルと酒、そして肉、肉、肉の嵐だ。 オマケに季節外れの西瓜まで買いやがった。 スーパーから10分ほどの所にあったマンション、その一室。 まだそんなに年数が経っていないような綺麗な壁や床を見ながら、ゾロはエースに促されるまま部屋に入った。 白い壁に、黒を基調にしたソファやテーブルが並ぶ。見知らぬ大人の雰囲気に、ゾロは少しだけ怯んだ。 「お邪魔します」 「荷物、このへんに適当に置いといて」 「…凄い量っすね」 一週間分なのか、食材も多いがキッチンにある冷蔵庫もやたらと大きい。 「大抵三日くらいで食べちゃうけどね。俺が」 にしし、と笑った顔に、ふと中学の頃よく喧嘩した男を思い出した。サルみたいなあの男も、ありえない程食べていた。 「…ルフィみてぇだな」 小さな呟きに、何故か目の前のエースがきょとんとした顔をした。そして自分を指差す。 「俺、ルフィのお兄ちゃん」 「……は?」 「なんだよゾロ!ルフィ知ってんのか!そーかそーかルフィの友達かぁ!」 エースは途端に破顔して、ばしばしとゾロの背を叩いた。 にかっと笑ったその顔は、成る程兄弟か!と思うほどそっくりだった。 「いや友達っつーか」 「ようしそうと決まれば飲もう!」 「いや、ちょっ…!?」 エースは開けた冷蔵庫からビールの缶を数本抱えると、いそいそとリビングへ向かった。 * * * 酒は公に飲めない年齢だが、飲んだことはある。 むしろ正月ともなれば親戚一同無礼講だ。しかもゾロの家系は滅法強い性質らしく、ゾロも類に漏れずかなりのザルだった。 だから酔いが回ったわけではないのだが。 「え、てーことはゾロ、もしかしてサンちゃんと…やったの?」 気づけばエースのペースに乗せられて、事の顛末をぽつぽつ話し出していた。 目を丸くしたエースに、ゾロは少しだけばつの悪い思いで缶に口を付けた。 「やったっていうか、そもそも向こうが勝手に乗ってきたんだよ。毎回毎回」 「え、それホントに…?!うわーマジかサンちゃん」 「本当だっつってんだろ!」 目の前の男がさも当然のように『サンちゃん』と馴れ馴れしく呼ぶのすら、苛々する。 そもそもこの男だって、自分と同じ『その他大勢のひとり』だったんだろうに! 「大体アンタんとこにだって来てたんだろ!?食う為だから誰とだってするしSEXすんのは気持ちよくて大好きっつってたじゃねぇかアイツも!」 思わずダン!とテーブルにビール缶を叩き付けて叫んだゾロに、エースが驚きに目を見開いた。 「…あー…成る程。サンちゃん…」 そしてエースは盛大に溜息をついて、片方の手で顔を覆った。 |
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