KOAKUMAラヴァー 15
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(15)



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 サンジに避けられていると気づいたのは、ほどなくしてだった。
 目を合わせなかったり、話しかけても逃げられる事は前からだったが、昼間一緒に弁当を食べることも気づけばなくなっていた。
 
 ゾロ自身苛々する気分を持て余していたので、それを幸いにサンジとの距離はあえて放っておいた。
 黒い気持ちを振り払おうと、ひたすら練習に参加して竹刀を振った。

 このところ毎日と言っていい程頻繁だった夢も、数日置きになり、十日置きになり、頻度がどんどん減っていった。
 ゾロの元に来ない夜は、他の誰かの夢に居るのだと思うと、振るっても振るっても竹刀は重くなるばかりで。
 それを考えないようにすればするほど、ますますサンジとの距離は離れていった。


 おかしいな、とゾロがようやく気づいたのは、サンジが学校に来なくなった時だった。
 サンジはしばらく休学する事になったと、帰りのホームルームで事務的に告げた教師の言葉。
 クラスメイトは驚くでもなく、ぽつんと空白になった座席の違和感は直ぐに日常の会話に埋もれた。

 そういえば、最後にサンジの顔を見たのはいつだっただろうか。
 ふと左腕をさすって、気が付いた。
 あれから十日はとっくに過ぎているだろうに、不思議と腕が痛くなることはなくなっていた。

「……!」
 ガタン、とゾロは席を立つと、帰宅を始めるクラスメイト達の間を縫って廊下へ飛び出した。


 * * *

「サンジの住所だぁ?ダチなら聞いとけよンなもん」
 息を弾ませて聞きに行ったゾロを、職員室の席に大股開きで座ったまま、担任であるボニーが面倒くさそうに頭を掻いた。

 住所はもとより、そもそもサンジの電話番号も知らなければメールアドレスも知らない。
 学校で会えなければ夢だけという、酷く不安定な繋がりだったことに、今更ながらゾロは気が付いた。

 口の悪さとは裏腹に、ボニーは乱雑に積み上がった机の中からファイルを取り出すとぺらぺらと捲る。
「最近じゃ個人情報がどうだこうだと煩いからなぁ、お前にも簡単には教えられないんだが」
「そこをなんとか、お願いします」
「ただどっちににしろサンジは今、この住所には居ないと思うぞ。休学中は実家に帰省するって話だからな」
「実家…ですか」
「ああ、ほんとお前ダチなら聞いとけよな」

 呆れたように言うボニーに礼をして、ゾロはふらふらと廊下に出た。
 実家に帰る?
 ということは、サンジはずっと一人暮らしをしていたということだろうか。
 遠い大学に行ったり仕事をするようになって、一人暮らしを始めるというのはよく聞く話だ。ゾロの親戚にも居るからわかる。
 けれど高校にいる間に、一人暮らしなんてするんだろうか。
 料理や家事なんて自分ひとりでしたこともないゾロには、想像も出来ない世界だ。
 多分学校中探したって、一人で住んでる生徒は居ないんじゃないだろうか。

 通い慣れたルートを自然と辿り、足は剣道部の更衣室についていた。
 ベンチに座り、袋に包まれたままの自分の竹刀を握る。
 コン、と床に乾いた音を立てる竹刀が軽い。
 重いものを振り払ったはずなのに、そこに残ったのは酷い虚しさだけだった。

 サンジと自分の繋がりは、一体なんだったのだろうか。
 ここに来て初めて、ゾロは途方に暮れた。

 サンジにとって、自分はただの餌だったとして。
 じゃあ自分にとって、サンジはなんだった?

「…あっ」
 その時ふと、ゾロが思い出したことがあった。
 消えてしまったサンジに繋がるかもしれないもの。

「あれっ先輩、今日の練習は?」
 入り口で擦れ違った部員に返事もしないまま、ゾロは走って部室を後にした。






*16へ*





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2012/12/11