KOAKUMAラヴァー 14
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(14)



* * * * *


「お前さぁ、今俺以外何人いんの」
「…え?」
 最近じゃほぼ数日置きになっていた夢での時間。
 不意に漏らしたゾロの言葉に、隣に寝転がっていたサンジが顔を上げた。

「何人って、なにが」
「こういう相手」
 サンジの青い目が、驚いたようにゾロを見た。
 舌打ちしたい気分で、ゾロはその目から逃げるように視線を逸らした。

 何故か酷く苛々していた。
 この前の帰り道で見た二人の姿が、あれからずっと頭から離れない。 
 腹の奥底から黒い何かがじわりと染み出し、重い。
 嫌な気分だった。
 精神を研ぎ澄ませる剣道での竹刀の先までもが、最近その重みで少しぶれる。
 それがまた苛々を増長させていた。

 こんなことを言ってなんになるんだろう。
 わかっているのに、吐き捨てるようにゾロは言った。

「だって俺のとこに来ない日は、別の奴のとこに行ってるんだろ」
 サンジが小さく何かを言いかけ、けれど飲み込む気配がした。
「…だったら、なんだよ」
 代わりにふてくされたように、サンジがごろりと自分を背にするように横になった。
 顔が見えなくなったのは丁度よい。
 ゾロも反対を向いて、サンジと背中を合わせるように横になった。
 多分自分は今、酷い顔をしている。

「ここんとこほぼ毎日俺だろ。俺ばっかで飽きねぇのかよ」
 そんな事、聞きたいわけじゃない。
 けれどなにを言いたいのか、自分の中から咄嗟に見つからなかった。

 食事だと言っていた。
 だからサンジが誰かと寝るのは食事をすることなんだろう。
 それはつまり、サンジが生きてきた自分と同じだけの十数年間、これまでずっと、こうして誰かを相手にしてきたってこだ。
 考えれば考えるほど、腹の奥が重くなる。
 そんな自分が一番わからない。

 背中合わせのサンジが、小さく笑った気配がした。
「ほらお前だとさ、遠慮したり隠したりしない分楽じゃん」
 放たれるサンジの言葉が、更にゾロの気分を重くする。
 胸の奥がじくりと痛んだ。

「お前以外にも色々いるけどさぁ。まぁ気分次第で、行くよ。どこへでも」
「……」

「だってほら、俺、気持ちいいこと大好きだもん」
 サンジは今、それをどんな顔で言っているんだろうか。
 いつものように軽く笑っているのだろう。
 ――そんな顔、今は見たくなかった。
 
「そうだよな」
 苦々しい気持ちで、ゾロは呟いた。



 * * *


 翌朝。ベッドの上に身を起こして、ゾロは溜息をついた。
 ようやく鳴り始めた枕元の目覚まし時計を片手を伸ばして止める。

 自分はサンジに何を言わせたかったんだろう。
 そして何がこんなに苛々するんだろう。

 ――サンジが自分と会っていない夜に、他の誰かの夢でこういう風にしていることが?
 ――それとも自分が、他の知らない誰かとまったく同じ『大勢のうちのひとり』であることが?

 何故かふと、科学の教科書に載っている並列繋ぎのスイッチの図が浮かんだ。
 横一列に沢山の電池が並んでる。王冠のように頭上に灯るのは、小さな一つの電球。
 電球にとって自分の下に繋がる電池は、たとえどれだけ数があろうとどれが特別なわけでもない。


『お前以外のとこには行ってないよ』

 自分はそう、言って貰いたかったのか?
 サンジが笑う、その顔を想像して苦く笑った。
 
「ハッ…それこそ一体、何の為に、だよ…」

 もう一度溜息をついて、ゾロは頭を抱えた。






*15へ*





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2012/12/09