KOAKUMAラヴァー 12 ------------------------------------------------------------------------------- |
(12) * * * * * サンジと夢での関係は、あれから順調だ。 背中の小さな羽根の存在をゾロが見つけてから、サンジはあっさり上に乗っかってくるのを諦めた。 要するに、今まで背中を見せたくないが為に正面からゾロの上に乗る体勢にこだわっていたらしい。 「なんかもうどうでもいいや。お前の好きにして」 「……」 同じベッドに二人。押し倒した先に寝転んだ相手。 多分こういうシチュエーションで言われたなら酷く興奮する台詞なんだろうに、男の投げやりな態度がそれをぶち壊しにしている。 いつか押し倒してやるとの意気込みに肩透かしを食らわされたゾロのこめかみに、青筋が立った。 「…よし、わかった」 にこり、ゾロは笑った。 数日前、部内で回ってきたエロ雑誌。特集が組まれてた48個の体位から、これ絶対ありえねぇだろうと皆で指差し笑ったポーズをいくつか思い描きながら。 「え、おまっ…何コレ何すんの、痛い、ちょ、…え!?」 「おー体柔らかいな、いけるいける」 「ふぎょぇあお〜〜〜〜!!??」 その日以来、サンジが再びゾロに背中を取られないよう警戒するようになったのは言うまでも無い。 でも相変わらず、昼間のサンジとは妙な距離感がある。 ゾロは気にせず夜と同じ調子で声を掛けるのだが、サンジの方は逃げなくはなったものの、何故か俯いたまま目を合わせてはくれない。 夜のサンジが言ったように恥ずかしいのだろうか。でもそれは一体何が恥ずかしいんだろう? ウソップ曰く、お前はただでさえ目立つ存在なんだから、やたら親しくされてビビってるんじゃないの、とのことだが。 金髪から覗く白い耳は、やはり今日も赤く染まっている。 唯一昼間のサンジとのまともな交流は、昼休みだ。 あれは夜のサンジにだったか、お前みたいな弁当が毎日食えたらいいのにな、と呟いてからだった。 次の日、滅茶苦茶挙動不審な昼のサンジに屋上に連れ出され、なんだ何かの事件かと思ったら胸元に押し付けられたのは弁当箱だった。 それ以来、昼休みの弁当は屋上で二人で食べている。 「…美味いか」 「もむ」 おう、といったつもりが口に詰めこみすぎたおかずのせいで言葉にならなかった。 ゾロの様子を隣で見ていたサンジが、口元を緩ませてほにゃっと笑う。 膝に自分の弁当箱を抱えながら、この時だけはサンジはしっかりと顔を上げてゾロの顔を見上げる。 聞けば、弁当は全部手作りだという。料理好きなんだ、と照れくさそうに言っていた。 毎日違うおかずにも驚くが、自分で作っただけに味の評価が気になるらしい。 いつもおかずを口に含む瞬間、サンジはゾロの顔をじっと見ている。 最初は少し居心地が悪かったが、普段隠れている眼鏡の奥の目が真剣な光を帯びるのは面白かった。 でも最初のうち、何故かサンジはゾロと1m以上距離を置いて座るのには困った。 並んで座ってあれこれ話したいのに、寄っても寄ってもサンジは逃げていく。 なのでしまいにはキレたゾロがサンジを屋上の、金網と壁に囲まれたコーナーのに追い詰め、正面にどかりと座って顔を見据えながら弁当を食べてやった。 サンジが声にならない叫びをあげながら「お願いだから隣に座って」と言うのを三回聞くまで、ゾロはそこを動いてやらなかった。 ちなみに両脚はサンジの両脇に開いて座っていて、早い話がコーナーに押し付けたサンジを脚で囲む形だった。 屋上に偶然上がってきた他の生徒がその奇行を見て、そっとUターンしていったのを背中を向けていたゾロは知らない。 * * * そういう関係になってから、気づけばゾロは昼前のサンジの姿を目で追うようになっていた。 それと同時に、部活の練習時に、ふと視線を感じる事があるのに気がついた。 校庭の隅に建てられた剣道場は、一階の畳敷きの柔道場の上に作られていて、天井付近に横長の明かり取りの窓がある。 そこから見える、校舎の中ほど…どこの教室かはわからないが、視線を追った先のベランダに、さっと隠れる金色の頭が見えた。 普段それ程目立たない色だが、太陽の光の下ではきらりと輝くいい目印だ。 「全然隠れてねぇし」 ちらっとこっちを窺う男の姿は、頭は引っ込めたもののベランダの手摺りの間から体がまる見えだ。 もしかして、今までも度々こうやって姿を見られていたのかと。 そう気づいたと共に、じわ、とゾロの耳が熱くなった。 「……なんだこれ」 とっとっ、と不思議な鼓動が跳ねる。 妙な恥ずかしさに、ゾロの頬がサンジのようにじわりと赤みを増した。 |
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