KOAKUMAラヴァー 9 ------------------------------------------------------------------------------- |
(9) * * * * * 「今のお前は、昼間のお前とは違うのか?」 跨ったゾロの下で、サンジは口を尖らせると、ニヤンと猫のように笑った。 「なんだよぅゾロ、あっちの俺の方が好み?」 「……」 ゾロは無言でサンジの顎を撫でると、おもむろにブチッと柔らかな一本を引き抜いた。 「ってええ!何しやがるこんのクソ緑ッ!!」 飛び上がったサンジが、涙目で暴れ出した。 体を捻る要領で背中側から飛んでくる膝が、ろくに力が入らない体勢のはずなのにそれでも痛い。 相当な脚力だ。侮れないと思いながら、ゾロはサンジを抑えつける足に力をいれた。 サンジはチッと舌打ちすると、やがて諦めたように溜息をついた。 クラスメイトのサンジとは髭も髪の色も違うが、ゾロを見上げる真っ青な瞳は変わらない。 学校にいる時も、あの前髪を掻きあげて野暮ったい眼鏡を外せばいいのにと思う。 サンジは寝そべったまま、気持ち首を傾けてゾロを見上げた。 白い首筋に見えた小さなホクロに、そういえば組み敷いた相手は半裸のままだったと、今更ながらに変な気分になりそうになる。 それどころじゃないとゾロは腹の底に力を入れなおした。 「これは…俺の本当の姿、だよ」 「本当の?」 「そ。ゾロはさぁ、この世には人間じゃない者が居るっていったら、信じる?」 サンジは試すようにふふん、と唇を遊ばせている。 突然の質問にゾロは小さく唸った。 「そりゃ幽霊とか妖怪とかってことか」 「妖怪っていうとすげぇイメージ違うけど…まぁそんな感じの」 「あー…見たことねぇからなぁ。でもまぁ盆とかやって迎え入れてるんだから、見えないけどいるんだろうなとは思う」 小さい頃は長期休暇の度に祖父母の暮らす田舎へ帰り、盆や墓参りなどの行事はきちんとする一家で育ったので、なんとなくそういう概念は持っている。 「で、俺も実は、その人間じゃないうちの一人なんだよね〜!」 じゃじゃーんと両手を広げてあっけらかんと言われても、そればかりは信じられるわけもない。ゾロは胡乱な目でサンジを見下ろした。 まぁ確かにこう夢であれこれやられている時点で、人間離れした力があると認めざるを得ないのかもしれないが。 「……幽霊ってことか」 しげしげ見下ろすゾロに、サンジは説明難しいなぁと唇を尖らせた。 「あー俺らは『淫魔』とか『夢魔』とか言われる、妖怪っていうか西洋の魔物?あ、ほら吸血鬼ってわかるだろ、あれみたいな」 「夢魔…?」 耳慣れない単語に眉をひそめる。 「うん。俺らは人間の夢を操れるんだ。好きに出入り出来るっていうのかな」 「だから毎回好き勝手に俺の夢に出てきてたのか」 「そういうこと」 はあ、と今度はゾロが溜息をついた。 「色々胡散臭ぇが…とりあえずお前が妖怪だとして」 「妖怪じゃねぇっての」 「なんで最初っから俺に乗っかってあんな事ばっかしてやがったんだ」 「それは…」 そこでサンジがふと、口ごもった。 「?」 見つめる先、じわりと、何故かその目元が赤く染まったような気がした。 しかしそれはすぐに、ぐしゃりと自分の前髪をかき混ぜたサンジ自身の両手に隠れてわからなくなった。 「あー俺らはさあ、腹が減るんだ」 「腹?」 「そ。人間の食べ物だけじゃ駄目なんだ。吸血鬼が血を飲まないと生きられないように、俺たちが生きる為にはどうしても必要なものがあるんだよ」 顔を上げたサンジは、再び艶めいた笑みを浮かべていた。 ニヤリと笑うその顔に、なんだか続きを聞きたくないような気分になる。 「…なんだよ必要なものって」 仕方なく尋ねたゾロに、サンジはわざと流し目を作ると囁くように言った。 「SEXした時に出る、人間のた・い・え・きv」 「……」 ちゅっとキスを飛ばしながら片目を瞑ったサンジに、ゾロは夢の中だというのにくらりと目眩がした。 |
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