KOAKUMAラヴァー 8 ------------------------------------------------------------------------------- |
(8) * * * * * 「よう」 あれから二日後の朝。 沢山の生徒に混じって背を丸め、そろそろと校門を通り抜けている男の肩を、ゾロはがしっと掴んだ。 「っ!!!?」 びっと背に鉄板でも入れられたかのように跳ね上がり、おそるおそる振り返った男に、ゾロはにこりと笑いかけた。 「おはようサンジくん」 「ぅぇえぇなにそれ超こわい…」 引きつった顔になったサンジを、ゾロは手を引いてずるずると昇降口とは反対の部室が立ち並ぶ裏手へと連れて行った。 付近に誰も居ないのを確認すると、校舎を背にサンジを立たせ、ダン、と顔の横に片手をついた。 「久しぶりだなぁ」 にこり、再び笑ってやれば、サンジが「お、お金は持ってないです…」と見当違いな事を呟いた。 確かに構図は似てるがカツアゲじゃねえふざけんな。 「テメェ、よくも逃げ回ってくれたな…!」 ごごご、と背後に気迫を背負ったゾロに、サンジの背がますます縮こまる。 あの屋上の件以来、同じクラスにいるはずのサンジは素早かった。 普段こんなにもトロそうなのに、気づけば姿を消しているのだ。 授業中じりじりと殺人光線並みのゾロの視線を浴びせているのに、教師に礼をする為に目を逸らした一瞬で、廊下の向こうへ走り去っている。 休み時間は勿論、放課後や登校時も他の生徒に紛れていつの間にかだ。 今日という今日は部活の朝練を休んで朝からずっと張っていたお陰で、こうして捕獲できたというわけだ。 「言いたい事は色々あるけどよ…とりあえずはこれ」 ゾロは背負っていた鞄を開けると、中から紙袋を取り出した。 「美味かった」 言って、サンジの両手のひらにぽすんと袋を渡す。 中に入っていたのは、先日屋上で拾った弁当箱だ。 家でちゃんと洗って来てある。 中を見たサンジの目が、驚いたようにゾロを見上げた。 野暮ったい眼鏡ごし、青い目がぱちくりと瞬く。 「これ…食べたのか」 「おう。あんなに美味い弁当食べたの初めてだ」 ちなみにゾロの母親は朝はもう出勤して居ないので、昼は家から持って行く自分で丸めただけの白い握り飯と、購買で買ったパンで済ましている。 「へへ…」 ゾロの言葉に照れたサンジが、袋をぎゅっと抱きしめて小さく笑った。 なぜかその顔に、今度は小さくゾロの心臓が跳ねた。 夢で素っ裸であんな行為をした相手なのは間違いないはずなのに、目の前の男のこのギャップはなんだろうか。 「そ、それから」 動揺を誤魔化すように、ゾロはサンジの前で背筋を伸ばした。 「お前に会ったらまず、こう言うべきだったよな」 「ありがとう」 両手を脇に添えたまま、きっちり体を90度に折って礼をした。 「え、ちょ…!?」 慌てふためいたサンジが、おろおろと辺りを見回した。 「ぅぁああ、他の人が見てるからやめて、顔上げてっ…」 ゾロは顔を上げると、小さく笑った。 「一体どういう仕組みだかわかんねぇけど、この腕…助けてくれたのはお前だろ」 ゾロの言葉に、サンジは目線をさ迷わせたが、やがてこくりと首が立てに振られた。 「…うん」 「お陰で俺は剣道、続けられる。お前は俺の恩人だ…よかったらこれからも、その、助けてくれると有り難い」 「うん」 照れながら告げたゾロの前で、はにかんだようにサンジも笑った。 * * * そしてその日の、夢の中。 「ありがとうって言ったのにいいいい!」 「それとこれとは話が別だ」 しれっとサンジの上にマウントポジションで乗り上げ、押さえ込んだゾロが見下ろして笑った。 サンジは仰向けで、悔しそうにゾロを見上げている。 眼鏡もなく、羽織ったのはシャツ一枚。 床に零れる髪は甘い蜂蜜色に輝き、顎にはうっすら髭がある。 昼間のサンジとは全然違う外見だ。 今回も相変わらず一番最初にサンジがゾロの名前を呼んで上に乗ってこようとするので、再び足払いで転がしてやったのだ。 「感謝してるし、ありがてぇとも思ってる」 ゾロはサンジの顎を、指先でするりと撫でた。 そこに生えている髭は、付け髭なんかじゃない、柔らかな本物の髭だ。 「でもお前は一体、なんなんだ?」 |
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