契 約 2 |
「あ……ッ、ぅ」 熱気の篭った部屋の中。 濁った赤い絨毯、金と赤をベースにした広くて豪奢な作りの中央に、大きな天蓋付きのベッドがある。 薄い上等な絹のカーテン。その中に蠢く人影が数人、そして一人の男がその様子を前にして椅子に凭れ、ボトルを呷っていた。 「う……くっ」 サンジは零れる喘ぎを唇を噛み締めて堪えた。 全身が熱い。ぶるりと震えるように唯一自由になる頭を振れば、晒された喉元にすぐさまぬるりと唇が這う。 別方向から伸びてきた指が噛み締めた唇を解いて、こじ開けた舌が吸い上げられる。 首を背けたり唇を齧ったりするような些細な反抗は、とうにやりつくした。むしろ血を見るだけ相手は興奮し、そのツケは更に体を苛む棘となって返ってくる。 「あ……ッ」 力を無くした舌は相手に嬲られるままに翻弄され、悲鳴も唾液も何もかもが啜られる。 肌に降りかかる熱い吐息。喉元を愛撫していた唇はやがて胸元へと降りていく。 突き出された胸の尖りは指でも舌でも愛撫されつくし、小さい粒は真っ赤に熟れた色に変わっていた。 ぐい、と突然両手が後方から引かれた。 上半身に意識がいっていたのが気に入らないのか、サンジの脚の間に居座った男が存在を主張するように激しく体を揺すり上げる。 「ひ……、あ…ッ」 両足を大きく割られ、男の上に跨った体勢でサンジは悲鳴を上げた。 体の中心を射抜いたものが反動で、ぬちゃりと更に密着する。 太くて熱い楔に広げられた後孔は最早あまり感覚がない。 意識が戻ってからこっち、入れ替わり立ち代り一度も空くこともなく詰め込まされたままの孔は注がれた液体でしとどに濡れ、ぬるぬるとぬかるんでいる。 汗ばんだ白い腹も、指先も、足の爪の先や毛の一本一本に至るまで、この男たちに愛撫されなかった所はないだろう。 火照った肌は敏感になりすぎて、もうどこがどこやらサンジ自身にもわからない。 溶ける、とはまさにこういう事を言うのかもしれない。 どこを触られても気持ちいい、それは裏を返せば痛みも焦燥も全て等しくもたらされるということ。 サンジを囲む指先や唇は時に優しく、そして時には全てが痛みや焦燥をもたらしてサンジを翻弄した。 それはまず反抗的な精神を快楽で落とす所から始まり、やがて耐え切れない欲望を自ら求めさせられるに至る。 サンジは心も体も蕩かされ、やがてただの雄として目の前の男に屈服させられるのだ。 前も後ろも、サンジの肌を余すところなく舐りながら全身に纏わりつくのは皆同じ男だった。 双子のように皆同じ顔と体を持つ。それは緑色の髪をした――悪魔。 目の前の椅子に座り、優雅に鑑賞しくさってくれている男の顔もまた、同じだ。 ただサンジの体を弄る者たちとは違い、唯一左耳に金色の三連のピアスをしている。 あれから一体どれくらいの時が経ったのか。 意識が戻った時には既にこの状態で、窓のないこの部屋では昼も夜もわからない。 とはいえ例え窓があったとしても、地獄――そう呼ばれるこの世界に時間を推し量れる変化があるかはわからないのだが。 サンジは熱い息を殺し、目の前でのんびりと酒を煽る男を辛うじて意識を繋ぎながら青い目で睨みつけた。 その目線に気づいた男が、面白そうにボトルを床に置くとベッドに近づいてきた。 男の重みでギシ、と僅かにスプリングがしなる。 「どうした、それだけ囲まれててまだ不満かよ」 もう一人増やしてやろうか? まさに悪魔の笑顔でクソ野郎がのたまう。 「テメェこそ、自分の体一つじゃ足りねぇってな、相当な不感症だな」 へっと笑ってやれば、意趣返しのように体を嬲る動きが激しくなった。 いつだったかこのクソ悪魔が言うことにゃ、この同じ顔した奴ら全員、感覚を共有してあってるんだそうで。 早い話が沢山の自分。手も口も沢山あって、おいしいご馳走を一度に色んな角度から何倍も味わえる…ってホントにどんだけ変態だって話だ。 「契約だろうが、大人しく対価を払えよ」 悪魔が笑いながらサンジの頬を掴むと、赤みの差した目元をべろっと舐めた。 その舌先にすらぶるっと快感が走る。 「ざっけんな…釣り合ってねぇ契約なんて、した覚えなんざねぇ…ッ」 「てめぇの仕留め損なった悪魔を消してやって、瀕死のテメェの体と命を助けてやって、あーついでにあのガキも家に戻しておいた。記憶も綺麗に消してさしあげたぜ?」 悪魔は数えながら、少しずつ深くサンジの唇を割って侵入してくる。 「まーそれでだいたい7日間てとこか、どうだ、良心的だろぅ?」 悪魔が良心なんて言葉、どの口で言いやがる。 けれどほわりと霞む思考に、口が追いついていかない。 「…助けろなんて…言った覚えはねぇ」 「俺の条件に対して拒否された覚えもねぇな」 「まぁ今回もたっぷり可愛いがってやるよ……サンジ?」 低く囁かれた名前。 「あ……ぁ…ッ」 体と心を縛るその声に、ぶるぶると全身に快感が走る。 気づけばサンジの前はとろとろと蜜を溢れさせていた。 もう幾度となく達したせいで勢いも色も失ったそれは、涙のように自身を伝っていく。 きゅう、と僅かに後孔を締めながら肌を震わせるサンジを、再びいくつもの柔らかな指先が愛撫し始める。 目の前の悪魔が屈んで、サンジの砲身を口に含んだ。 「ふぁ……ッ」 ざらりとした舌先にむき出しの肉を容赦なく舐められて、サンジは痛いくらいの快感に堪え切れずぼろぼろと涙を零した。 目の前の男は、悪魔だ。 身勝手な契約で気まぐれにサンジを捕まえては、こうして快感を植え付けて飼い殺す日々。 地獄に拘束して、幾人もの相手に、毎日毎日。 心も体もなくなって、おかしくなってしまうほど。 けれど本当の地獄は、今この時じゃない。 契約が終わって、地上に戻されてから。 この男の腕から放り出されてからの、あの日々。 快楽漬けにされた体がうずいてうずいて止まらない、あの地獄に比べたら。 (ほんと、ちんこ握ってはいずりながらこの男の名前を呼びそうになった時は舌噛みそうになったぜ……) サンジは唇を噛みながら、朦朧と熱の回る頭で緑色の頭を見下ろした。 その目線に気づいた男が、犬歯を覗かせてニィと笑う。 「なぁ、そろそろ俺のモンになっちまえよ」 ゾロ――そう自らサンジに縛る為の名を教えた悪魔が、サンジのモノを舌先で嬲りながら笑う。 皮を限界まで剥き下ろされてやわらかく充血した肉を抉られる。 同時に後ろに銜え込まされた塊が、ごりごりとサンジの内部の一際感じるいやらしい部分を擦りあげた。 「――……ッ」 絶対に名前なんて呼んでやるものか。 サンジは悲鳴を噛んで、涙の滲んだ目で男を睨んだ。 飛びそうになる意識を、男の金色に鈍く光る目を見据えることで辛うじて繋ぐ。 そんなことをしたら、俺が狂う。 荒々しい獣のような、滾る力を振りまく悪魔。 濁流に流されるように、引き込まれるように、周りの者を虜にする魔性のその存在。 けれど真っ赤な海に溺れるその男が、実は冴え冴えと冷えた白銀の牙を持っていることも知っている。 悔しいことに自分の力では抑えこめるような相手ではないし、また抑え込みたくもない。 そう考えていること自体が、惹かれているのだ――なんて。そんなこと。 まさに魂ごと食われ、舐めしゃぶられる。悪魔と契約するとはそういう事だ。 そして狂おしいままに心が裂けて、きっと、瞬きの間ですら冷静でいられやしない自分はもう、自分ではなくなる。 この男の前でだけは、そうなるものか。そんな姿を見せてなるものか。 それ以上の考えを打ち切って、サンジは体をぶるりと震わせた。 だからテメェみたいな存在、俺は絶対手に入れてなんか、やらない。 サンジはぐっと息を詰めると、一度目を閉じて大きく息を吸い込んだ。 そしてゆったり目を開けると、慈愛に満ちた極上の笑顔で微笑んでみせた。 「お前に主の導きと祝福があらんことを」 地獄に落ちろ、なんて暴言が一切無意味な悪魔は虚を突かれたように僅かに目を丸くして、次の瞬間に大きく噴出した。 「お前のそういうとこがたまんねぇよ、ほんと」 肩を震わせながら、悪魔がぐいっとサンジの膝に手をかける。 「ひ、ア……!?」 大きく開かれた股の間、後孔に突き立てられた楔と肉壁の間に四方から無数の指が這わされた。 いくつもの太い指がサンジのいっぱいに広げられた襞をなぞり、そしてゆるりとその隙間に指を差込み始める。 「む…り、ィ…――!」 青ざめたまま逃げる腰はすぐに引き戻され、無情な指はサンジの中をぎりぎりまで押し広げて侵入を果たす。 バラバラに肉壁をなぞって遊び始める指たちに翻弄されながら、揺れる視界で悪魔が笑う。 「まぁ時間はたっぷりあるからな、ゆっくり楽しもうぜ…?」 昼も夜もない、時間の流れなど無いに等しい地獄の中。 提示された7日間という契約期間を計る術は、サンジにはない。 答えのないサンジの唇を、悪魔が遊ぶようにやわらかく塞いだ。 |