インコの裏側 |
「おい、インコの裏側ってなんだ」 ある晴れた昼休み、机の上に広げた紙、多分CDの歌詞カードを見ながらひどく真剣な顔でゾロが聞いてきた。 机の角には購買で買ったパンに付いてた点数シールが横並びに貼られている。ちなみに貼ったのはサンジで、集め終わる前に期限が切れてしまったのでそのままずっと貼りっぱなしだ。 「インコの裏側って、腹だよな」 「あ?」 黄色いふくふくした鳥がひっくり返って腹を見せてる絵が頭に浮かび、言われたサンジも、ファッション誌をめくる手を止めて思わず考えた。 「いや鳥の裏側っていったらお前…内臓とか詰まってる体内のこったろ」 するりと浮かんだのは、実家のレストランで年末よく注文の入るターキー。鳥の丸焼き。初めて自分の手で内臓を開いた時は衝撃だった。 「そうか」 「いやいやおいおい、お前ら何の話してるんだよ」 納得したゾロに突っ込みをいれたのは、ゾロの目の前にいた男ウソップだ。 ヘッドホンを外し、ゾロの手元を覗き込む。 「これインコじゃねーよ。コインだろ。『コインの裏側』ってタイトルだ」 「あ?そもそもコインって裏とか表とかあんのか」 「サンジくんに聞いてくれたまえ」 阿呆な質問が面倒になったウソップが逃げた。 サンジは欠伸をして、再びパラリとページをめくった。 「お、このシャツかっけぇ。でも高っけえな…ジジィ、バイト代増やしてくんねーかな」 教室の窓から生徒の声と一緒に少し冷たい春の風が吹く。 のどかだ。 ふと再びゾロの声がした。 「なぁ、お前の裏側ってどこだ」 「…は?」 目を上げて、一応まずウソップを見たが、再び前を向いてヘッドフォンをしている。 つまりゾロはサンジに向かって言っているらしい。 「なにそれ、意味わかんね」 「お前だったら腹だろうと内臓だろうと、見てみてぇな」 「え」 ぱちくり、目を瞬かせれば、ゾロは大きな欠伸をしてそのまま目を瞑ってしまった。 「……え?」 それはのどかなある日のこと。 春が来る前のお話。 END |