Feel Like the Heaven 2
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 背後から放たれる猛々しい男の気。
 それはサンジの剥き出しにさせられていた感覚を荒々しくなぶっていく。
「はな…、離せッ……」
 力の入らない体でゾロの手を逃れようと身を捻れば、逆に力強い腕で腰を引き寄せられた。
 ぴたりと合わせられた背中から、燃えるような怒りが伝わる。
 皮膚を伝い、内臓を伝い、内側からサンジという器の中に流れ込んでくるのはゾロの激しい感情だ。その全てがサンジを掴んで揺さぶる。
 痛い、怖い、けれど。
 
 ――――気持ちいい。
 ぐちゃぐちゃにかき乱された末に待っているのは、とろけそうな程熱い快感だ。
 理性なんて最早関係ない。体の芯の、そのまた奥の細胞のひとつひとつが滑らかな舌でゆっくりなぶられるように侵される。
 体は勝手に熱を帯び、放出できない淫靡な欲望が指の先まで赤く染める。
 腰に力が入らないまま荒い息を押し殺して耐えるサンジの上で、ゾロが小さく笑う気配がした。
 
 
 腰に回された太い手がサンジのラインを辿るように腰から滑り落ち、ゆるりと左の内腿をさすりあげた。
「ア、ぅッ……!」
 途端、ズクン、とゾロに触れられた太腿の内側から焼けるような痛みが走って、サンジは喉を反らした。
 
「あ……あ、ァ…ッ!」
 腿の内側からゾロの手の平に向かって、解放を求める強大な力が噴き上げる。
 金の髪を振り乱して悶えるサンジを逃がさぬように、ゾロが腕の拘束を強めた。捕らえられた脚から、よりいっそうの力が湧き上がる、流れ込む。
 
 突然、サンジの左肩で光を放っていた赤い印がジュゥッと音をあげた。
 方陣の左下の方から、赤い輝きがまるで燃え尽きるように黒く鈍く色を変えていく。
「ぐ…ッ!?」
 がくり、と目の前の男が膝を折り、喉元を押さえたかと思うと床に蹲った。
 驚愕の目をゾロに向け、がくがくと全身を震わせ始める。
 その様を一瞥して、ゾロはサンジの晒された白い首筋にゆっくりと歯を立てた。
 
「ゾ…、ぁ、あ…ッ」
 ちゅ、と音を立てて吸い上げられれば、サンジの白い肌は素直に赤く染まる。
 ゾロの舌がゆっくりと癒すように、焼け焦げていく左肩の印をなぞった。淡く消えそうな赤い光に、歪められた口元から覗く犬歯が光る。
 左脚から左肩に掛けて駆け上がる、熱い奔流。
 ゾロから与えられる感触に、全身が貫かれる。
 
「お前は……いったい…ッ!?」
 目の前の男が苦しそうな表情でゾロを睨みつけた。
 先ほどまでの態度とは打って変わり、その顔は脂汗を滲ませて病的なまでに震えている。
 ゾロは黙ってサンジの太腿に手を這わす。
 まるで楽しむかのような動きに、男が苦悶の表情を濃くした。
「ば、かな、…こんなに、強い…――ッ!?」
 暗い部屋の中、男が這うように後ずさった。窓の下、落ち窪んだ表情が月明かりに晒される。
「うるせぇな」
 うめく男に冷ややかな視線を投げ、ゾロはサンジの太腿にかけた手を揺らめかせた。
 ドクン、とひとつ大きな熱がサンジを揺らしたと同時に、男が苦痛の声をあげる。
「……ッ!」
 ゾロの手の平の下、緑色の光が暗い部屋に輝いた。
 ジーンズ越しに浮かび上がるのは、サンジの肩にあるのと同じような方陣。
 描かれた紋は微妙に違えど緑色に燃え上がるそれは強い光を放ち、呼応するかのようにジュウッっと肩の印が一際大きな音を立てて最後の煌きを燃え上がらせた。
 男が怯えた表情でゾロを見上げた。 
 
「そんな…まさか、原種が生き残っているはずが――ッ」
 
「所詮は契約も忘れた粗雑な末裔が。そのおごり、身を持って知れ」
 
「、ァ―――ッ!!」
 サンジの悲鳴と男の苦悶の声が、同時に部屋の空気を震わせた。
 
 
 男は胸や喉を掻き毟りながら、ゾロから逃げようと部屋の中を転げるように走り出した。
 その様を見て、ゾロの目が凶悪に歪められる。
 冷酷に口元を引き上げて笑えば、男の目が恐怖に開かれた。
 
 
「逃がすかよ」 
 
 
 
「ゾロ――!!」
 
 部屋に響いた強い叫び。男に向けられていたゾロの動きがピタリと止まった。
 ゾロはチッと舌打ちをすると、自らの左手を睨んだ。
 ゾロの動きを制するように強く重ねられたそれは、サンジの手。
 
「ダメ、だ…、ゾロ、殺すな…ッ!」
 切れ切れに言葉をつなげたサンジに、ゾロは言葉を否定するようにサンジの首筋に立てた歯に力を込めた。
「ッ――!」
 体の芯を貫くような痛みと、そして紛れもない快感と。
 その双方に震える体を叱咤して、サンジは自らゾロの上に重ね合わせた手を強く握った。
 
「だめだゾロ…ッ、ソイツは、…大事な――!」
 
 その言葉に、突然ふっとゾロの力が緩んだ。
 首筋から牙が引き抜かれ、耳元に笑うような息がかかる。
 
 
「大事な、―――なんだ?」
 
 先ほどまでの荒々しい気と違い、ぞっとするような冷酷な気配。
 底冷えする声に、サンジは自分の失態を知った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「あ…ぁア……ッ!」
 ギシ、ギシ、とほとんどスプリングの利かなくなった古びたベッドが激しく悲鳴を上げている。
 居間の隣、かつては家主の寝室だったのであろう部屋で、暗闇の中サンジは切れ切れの悲鳴をあげた。
 
「あいつは大事な、なんだって……?」
 低い怒りの言葉とともに、ズン、と後ろから突き上げられる。
 後孔にぎっちりと埋め込まれた猛々しいゾロのものがいやらしく内部をえぐって、サンジはヒッと喉をひきつらせた。
 ジーンズは左足だけ抜かれ、ボロ布みたいに右足にからまっている。性急に後ろだけを晒されゾロの膝に抱え込まれるように跨った体は、シャツもスカーフも身につけたままだ。右足にだけ穿いたままのブーツが、古いベッドのパイプにゴツゴツと当たる。
 ゆさゆさと容赦なく揺さぶられ、サンジは嬌声を零しながら自分を抱える太い手に爪を立てた。
 
「あいつ、は…ゆ、かい事件の…ようぎ、ア―――ッ!」
「聞こえねぇ」
 ゾロの手が後ろからサンジの股間に伸びて、だらだらと蜜を零していた先端をくじった。
「ひ……っ」
 まだ達して間もないソコを硬い指の腹で捏ね回されれば、ビリビリとした刺激に体が跳ねる。
 ゾロの指が絞るようにサンジの先端を回り、そこから掬い取った恥かしい液体をサンジの肌蹴られた胸元に塗りつけた。
 ぬるぬると乳首の周りをゾロの指が這い回る。
 そのひやりとした感触に、カァッと体内が沸騰する。
 
「なんだっててめぇ自身をくれてやった。――俺の目を隠してまで」
 きゅうっと乳首をきつく摘ままれて、左脚の爪先が古いシーツの上を掻いた。
「ぅあァ……ッ!」
 その脚をぐいっと持ち上げられ、支えを失った体がより深くゾロのもとへと沈みこむ。
 ゾロの手が、汗ばんだサンジの白い腿の上をゆるりと這った。
 太腿の中央には先ほどまで巻かれていた包帯がほぼ破られるように解かれ、切れ端が絡まっている。
 そこに挟んであったのだろう、古びた古代文字のようなものが書かれた札紙がベッドの上に散らばっている。ゾロは忌々しげにそれらを睨むと、ぐっとサンジの脚を大きく開いた。
 
「見てみろ。てめぇが誰のモンなのか―――ようく見ろ」
「ヒ……!」
 
 ゾロの手が嫌がるサンジの顔を正面に向けさせた。
 ベッドの脇にある、大きな姿見。
 そこに映し出された自分たちのあられもない格好に、サンジは唇を噛んで目をそらした。しかしそれをゾロの手が許さない。
 サンジ自身にその姿を余すところなく見せつけるように、ぎりぎりまで脚を開かせてその様を思い知らせる。
 
「目ェ開けろ」
「や、め……ッ」
 顎を取られ開いた向こう、鏡の中でゾロがサンジを捉えて笑った。
 
 暗闇の中、ほのかに赤く染まった自分の肌。
 はしたなく濡れそぼった中心、その下に深々と突き刺さったゾロのもの。
 それを咥えこんで歓喜する、自分自身―――。
 
「てめぇは、俺のモンだろう――?」
 逃れられないサンジの体を、ゾロの言葉がさらに締め上げる。
 左の太腿の内側を、ことさら見せるようにゾロは手の平で撫で上げた。
 包帯の切れ端を振り払う。久しぶりの解放に喜ぶように、緑色の方陣が呼吸をするように淡く発光した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 東の山のそのまた奥に、魂の契約を交わす一族がいる。
 
 
 魂を糧とする伝説の魔人。
 その姿は獣のようだと人々の口に恐怖の対象として囁かれ、捕まったものは肉体をしゃぶられ魂を吸い尽くされ、次の世への転生すら叶わないと言われている。
 何物をも穿つ鋭い牙と、全てを打ち砕く強大な力を持つとされるその一族。
 しかしその者たちが真に望むのは、一生で唯一人。
 
 ――――愛したものの全てを食らうこと。
 
 食われ、『しるし』をその身につけられたものは、どんなに離れていてもその者に魂の力を食われつづける。
 けれど、食われたものにはその代償として、得るものがある。
 ―――それは魔人の無限なる力と、そして深い深い、無償の愛―――。
 
 魔人にとって、唯一の存在。
 その者を失っては、生きては行けない。
 契約は生涯一度きり。
 強大な力を持つ存在であるのに、その生を支えるのは小さく弱い一人の人間でしかないのだ。
 
 悲しい一族だ、と彼等のことを語るものもいる。
 人は心変わりするもの。それは一族が伝説とまで語られるほど数を減らした歴史を物語る。
 けれど至上の愛だけを食べて生きる、それは幸せな者たちだと言うものもいる。
 
 どんなに互いが離れていても、「しるし」は互いを繋げ、常にその力を与え合う。
 その身に「しるし」がある限り、互いの存在は互いの中で生き、呼吸をし、ひとつになる。
 相手の様子を、時には感情までもを、互いの内に「見る」ことができるのだ。
 互いが互いを望み、決して離れては生きていけない。
 
 それは深い、愛の形。
 
 
 
「俺の目を塞ぎやがって」
 サンジの体を揺さぶりながら、ゾロが忌々しげに吐き捨てた。
 
「知らない野郎に、くれてやがって……ッ」
 
 俺の印を封じやがって。
  あの魔女の仕業だろう、忌々しい。
 違う、あれは捜査の為だ。ナミさんは関係ねぇ、俺が。
  アイツを殺したら、今まで攫われた子たちの行方が、足取りが。
 
 ギリギリまで脚を開かされ、より深く穿たれる。
「あ…アァッ……!」
 中心を貫かれれば、よりいっそう全身でゾロを感じる。
 太腿の印から、そしてゾロに触れた部分の全てから流れ込んでくる、激しいゾロの気持ち。
 互いの感情が絡み合って、激しく内部で渦をまく。
  
 うるせぇ。
  何で逃げる、俺の何が気にいらねぇ。テメェはいつだって口にしやがらネェ。
  だからいつだって。
 違う、やめろ。
  覗くな、勝手に、ひとのこころを。
 
「見るな…見んなよッ……!」
 
 
 自分の体がゾロとひとつになる。この感情が、快感が、どちらのものなのかすらわからなくなるほど。
 互いが溶け合って気持ちいい、その喜び。
 そう、嬉しい。
 ゾロとひとつになれて嬉しい。
 待ってたのに、なのに、自分は。
 
 繋がった部分から、ほろほろと溶け出していくサンジの感情。
 押し込めてた寂しさ。嫌になる自分の弱さ。
 いつでも一緒に居たいなんて、そんな甘さを求めているわけじゃない。
 自分たちにそんな馴れ合いは、むしろ反吐がでる。
 常に対等で、互いをぶつけ合うくらいで丁度いい。
 
 ただちょっとしたほころびから勝手に積もったこれは、自分の身勝手な、拗ねた幼稚な感情だ。
 常に繋がっている、その関係をただそれだけのものだと、不安になるだなんて。
 それは絶対、ゾロには知られたくなかった。
 悔しさにぼやける視界の隅で、ゾロが小さく舌うちするのが見えた。
 
 
「だから、てめぇはアホだってんだ」 
 ゾロの手がサンジの股間に伸びて、柔らかくサンジの起立したものを掴んだ。
「ふ、あ……ッ」
 ゆるゆるとしごかれれば、敏感になったそれはすぐさま上を向いてとろとろ蜜を溢れさせる。
 耳の裏に、首筋に、背中に、ゆるりと愛撫を施されて、サンジは喘いだ。
 
「そういう事だからこそ、俺を呼べ。隠すんじゃねぇ」
 淡い跡になって今はもう沈黙している左肩の傷に、ゾロは歯を立てた。
 
「そういうアホなトコひっくるめて、俺はテメェに惚れてんだ」
 てめぇだって俺のどうしようもねぇ馬鹿なとこだって、惚れてくれてるんだろう?
 違うか、と言外に囁けば、へっとサンジは笑った。
 
「あったりめぇだ…そんな規格外の方向音痴、愛してやれるのなんて、俺くらいだぜ」
 ぐしゃぐしゃに歪んだみっともない顔を晒しながら、なお悪態をつくサンジに笑って、ゾロはお返しとばかりに激しくサンジを追い上げた。
 
「あ、あ―――ッ」
 最早言葉もなく、ひたすら甘い快感が全身を支配する。
 全身を突っ張って背を震わせたサンジに伴って、ゾロもすぐに高みへと昇りつめた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 * * *
 
 
 
 
 
 
 
「いやーお手柄じゃったの、サンジ」
 
 翌朝、連絡を受けてやってきた警察の車に廃屋で伸びていた男は収容された。
 印をつけた相手を支配し、やがて売買組織に売り飛ばす。
 尊い祖先のわずかに残った血すら蔑むような、稚拙な犯罪だった。
 
「思ったより早くケリがついてよかったわい」
 そう言いながら古き友人の住処から駆けつけた上司の老人は、早速事情聴取とばかりに周りに集まってきていた町人の中のギャルたちを追いかけまわしている。
 
 サンジがゾロの契約者だと知るのは、龍の棲家に集まるあの友人たちだけだ。
 上からこの事件に関して囮捜査のお鉢が回ってきたのは偶然だったが、それにかこつけてゾロの目を封じたのは、サンジのただの逃げでしかない。
 
「顔色が悪いようじゃが、平気かの?」
 頬に真っ赤なビンタの跡をつけながら、ちっとも懲りてない老人がふとサンジに目をとめる。
「いや、これはその…大丈夫です」
 犯人に一方的に力を吸われたり、封印の呪具が思いのほか負担だったりで最近体調が優れなかったが、それは昨日ゾロの力を再び取り入れることによってすっかり元に戻った。
 顔色が悪いのは、明け方まで我を忘れてひたすらゾロと……あれしてた、からで。
 実を言うと腰だって気力総動員で立っているようなものだ。
 もごもご呟くサンジをもとより気にもせず、上司は再び事情聴取に戻っていった。
 
「で、テメェはどうするよ」
 ふわぁ、とサンジの隣で大あくびしていた侍をチラリと見遣れば、ゾロは袂に差し入れた手でボリボリ胸のあたりを掻いた。
 
「帰る」
「帰るって…どこに」
「ア?んなの一箇所しかねぇだろうが、テメェんちに決まってんだろ」
 
 その一言に、ふわふわと全身が発熱し始める。
 ああ全く、どうしようもない。
 小さく俯いたサンジを見て、ゾロがニヤリと笑った。
  
「続きはテメェんちのベッドでたっぷりやってやる」
 その声に、サンジは赤い顔をガッとあげた。
 
「ばッ……テメェ!あんだけやっといて続きなんてもうねぇよ!」
 
 町人もびっくりする大声で叫んだサンジに、「若いってええのう〜」とギャルにビンタをくらいながらの武天老子の呟きは、幸い届かなかったようである。
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 * おわり! *

 
 
 
 
 
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 07.04.16