地下部屋倶楽部 第3夜 |
無駄な肉のついていない細い肢体が、毛足の長い絨毯の上を泳いでいる。 紅のビロードのような光沢を見せるその海にのたうつ、白い手足。 うつ伏せのその身にまとうものは何もなく、唯一両手足首に掛けられているのは黒い革ベルト。 そこから伸びる鎖が、時折しゃらしゃらと音を立てる。 何かを堪えるように、前方に伸ばされた手が柔らかな床を掻き毟った。 「地下部屋倶楽部にようこそ。紳士・淑女の皆様」 素顔を仮面で隠した男の姿が、白いライトと共にステージに浮かび上がる。 「今宵も素晴らしいショーと共に、皆様に選りすぐりの商品をご紹介いたしましょう」 男がパチンと指を鳴らすと、カーテンの幕を割ってそれは現れた。 真紅の絨毯が敷かれたステージ。 その中央に横たわるのは全裸の男。乱れる金色の髪が、頼りなく床に散っている。 青年は四つんばいで、手は前に伸ばし膝を曲げ、腰を上に突き出した状態で固定されているようだった。 「…ひ、…ぅ……ッ」 乱れる呼吸を飲み込みながら、青年がぐっと弓なりにしなった背を上下させながら身じろいでいる。 高く掲げた腰が、それに合わせてむずがるようにゆらゆらと揺れた。 ギリギリ毛足に埋もれる胸を、どうやら青年は床に擦り付けようとしているらしい。しかし固定された手足の位置が微妙にそれを許さない。 青年の体が上下するたびに、まっ赤に立ち上がった胸の尖りが、長い毛足に触れるか触れないかのところを掠めていく。 何かを探すように、強請るように揺れ動く腰。 どこかふっくりと赤味を増した後孔と、その下で揺れる性器を目にして会場内の人々の吐き出す空気も熱く澱んでいく。 白く長い手の腱が、手首の戒めを引きちぎろうとするかのようにぐっと浮いては消えた。 「…ぅあ、ぁッ……!」 真紅の海に擦り付けた頬の乱れた金糸の合間から、濡れた青い目が天から注ぐ眩しいライトに煌いた。 「ちなみに青年の胸部と後穴内部には薬を塗りこんでありますが」 司会の男の声が淡々と響く。 「薬は痒みもたらす、古来よりどの地方にもあるオーソドックスな淫剤です」 こちらはセットではございませんので、お手持ちのものを代用ください。 その言葉に、会場が先ほどからの青年の様子に納得をした。 青年の性器は既にピンと立ち上がっていて、刺激を求めて揺れる腰に合わせ濡れた先端が絨毯の毛先にくすぐられている。 おそらくは強く擦り付けて快感を得たいのだろうに、手足を戒められているせいで叶わない。もどかしさに首を振る青年が、かすれた声で鳴いた。 男は、次に舞台の袖に目配せをした。 舞台の脇から、いつもの屈強な男のアシスタントが2人、一枚の大きな板を両方から抱えて現れた。 高さは男の首丈くらいの、ガラスのように透明な板だ。舞台の上で、男たちはその板をゆっくりと一回転させた。 すると板の片面、少し低い位置からにょきりと太い、同じく透明な張型が突き出しているのがわかる。 「皆様ご存知の、固定式の張型です。設置場所や位置は様々考えられると思いますが…」 男たちはその板を、床でのたうつ青年の後ろに立て置いた。 透明な張型が青年の後孔にぴたりと押し当てられる。男たちは先端が触れるくらいのその位置で、両脇から板を真っ直ぐ固定するように支えたまま動きを止めた。 胸や性器を擦り付けようと前に重心を置いていた青年は、突然後ろに押し当てられたものにビクリと体を震わせた。 その瞬間に、ぐに、と張型の先が青年の内部にもぐりこむ。 「あァッ…!」 驚いたように青年の青い目が開かれた。 後に重心を戻せば貫かれる体勢だ。慌てて姿勢を立て直すかと思えた青年は、しかし戸惑うように、そろそろと後孔に押し当てられた感触を確かめているようだった。 く、と身じろいだ弾みに、さらに青年の腰が淫具に沈み込んだ。 「あ……あぁ…ッ!」 ずるずる、と勢いづいた体は止まらず、白い尻が突き出た張型に落ちていく。 少しずつそれが含まれていくたびに、青年の目が恍惚と歪められた。 ようやく与えられた強い刺激に体の方が我慢できないのだろう。 内部の粘膜を擦り上げてくれる硬い突起物に、擦り付けるように青年の腰が揺れ動く。 「は、…ぁひ…ッ!」 ぐん!とついに青年はその大きな張型を付け根までのみこんだ。 は、と乱れた呼吸に口を開けたまま、やがて自らいいところに擦り付けるように、そろそろと青年の体が上下に動きはじめた。 「ご覧いただけておりますでしょうか」 静かに笑いを含んだ声が、熱気のこもった会場に通る。 「以前より当方で扱っております定番商品でございますが、前夜の商品をご紹介した際、皆様より多数問合せのあった商品ゆえ急遽取り上げることとなりました」 背を反らした獣の姿勢で、青年は自慰に没頭しはじめている。 ずるりと抜ける太い張型を、吸い付くように締め上げる後孔。全てが抜ける寸前で、それは再び赤く染まった襞をいっぱいに押し広げ青年の腸内に飲み込まれ、一気に付け根まではまり込む。 誰もがごくりと喉をならした。 その張型は勿論男たちの抱えているその壁は、ガラスのように透明なのである。 淫具を頬張る青年の尻側から見ると、ぱくりと大きく口を開ける充血した内部の様子がまるで内視鏡でも使ったかのように丸見えになっていた。 抜いては小さく窄まり、また再び極限まで開かれる恥部。 大きく口をあけた内部の、赤く熟れた腸壁がいやらしく蠕動する様まで手にとるようにわかる。 青年は自分の秘部が観衆の好色な目に晒されているとは気づいていないだろう。躊躇うことなく尻を何度も壁に打ち付けている。 「あ、ひ、…止まん、ね……ぁあアッ」 くちゃくちゃとリズムを持って響く水音は、薬剤かはたまた青年自身のものか。 壁に打ち付けられた尻が桃色に染まっていく様を、会場中が食い入るように見つめていた。 「ちなみにメス用に低い位置のもの、また二輪ざし用もご用意してございます」 「い、あ…、そこ、い……ァ、アああッ……ッ」 青年から上がるのは紛れもない嬌声だ。 桜色に上気した頬に、喘ぎを漏らす青年の目は宙をさ迷っている。 腰を打ち付ける動きは止まらず、クライマックスが近いのかぱんっぱんっと音がしそうなほど激しく自ら尻を壁に打ち付けている。 「あ、ァ…ああ…ッ」 桃色に染まった頬に、どこか遠くを見たままとろりと溶けた青い瞳が涙に歪む。 口端から零れた唾液がきらりと糸を引いた。 「―――…ロッ…」 声にならない叫びを天に向かって吐き、やがて青年が逐情した。 赤く染まった目元がきゅうと細められ、青い瞳の端からほろりと雫が零れ落ちた。 そして暗い部屋。 重く黒い怒りの渦まく男の前で、商人はうっそりと笑っていた。 「あと三晩ですね」 ゾロの内心の言葉を先取りしたようなその物言いに、答えてなどやらない。 『―――ゾロッ…』 そこに何かがあるように、遠くを見た青い瞳はかすかに笑っていた。 燃え滾る怒りを、そのまま拳に握りこむ。 幻などではなく、今すぐその目に映りこんで思い切り全てを打ち壊してしまいたかった。 ゾロはゆっくりと男に背を向けた。 全てが終わるまで、あと三夜―――。 |
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