泡恋 10
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「―――ッ!!」
 馴らしもしない後孔にいきなりゾロのものを突き立てられて、サンジは上がる悲鳴を咄嗟に噛み殺した。
 熱くて太いものが粘膜を捲り上げながらぐぬりと押し入ってくる。咄嗟に逃げを打った背中を押さえつけるようにして、ゾロが覆い被さってきた。
 腕は脱がされたシャツで後手に拘束されたままで、剥き出しの肩に木の床が擦れて痛い。ボトムは腿のあたりに絡まってすでにぐしゃぐしゃだ。
 
 船の外にはビュウビュウと逆巻く強い風。
 波は揺れ、嵐は足元からクルーの命運を揺らしている。
 なのに。
 今この小さな船倉に満ちるのは、ただの獣のような荒い息遣いだけだ。
 
 もしもこの嵐で船が座礁し、沈んだら。
 先の見えない航海の間に、限りある食料が尽きたら。
 クルーの誰かが事故や病気で倒れたら。
 ――自分がどこかに消えてしまったら。
 
 そんな不安や心配事が全て、どこか遠い世界のように頭の隅に霞んで消えていく。
 自分の上に覆い被さる汗ばんだ肌と、内臓を容赦なく掻き回す圧迫感。縫い止められた肢体は燃え上がるように痺れ、震えて床を掻き毟る。
 
 サンジの体と、ゾロの体。熱い塊。
 たったふたつの、それだけが今ここにある全てだ。
 
「ふ…ぁ、ア……ッ」
 一端際奥まで押し込まれたゾロのものが、ずるり、容赦なく引抜かれ、抜け出る寸前で再び一気にはめ込まれる。
 狭い粘膜の中を押し上げられるその苦しさに、サンジの口元からは掠れた声が漏れるばかりだ。
 床に這いつくばってゾロの動きのままにがくがくと揺さぶられるだけの体は、快感なんて拾えるわけもない。
 それなのに。
 頑なだったサンジの蕾は徐々に慣れ親しんだゾロの形にほぐれ、吐息はいつしか熱を孕んでくる。
 心より先に、慣れた体がゾロを受け入れてしまう。
「…――ッ」
 ゾロ、と。そう呼びそうになった唇をサンジはきつく噛み締めた。
 汗ばんだその手がサンジの腰を掴み、荒々しい息遣いが背中を滑る度に、どうしようもない気持ちが胸の奥を揺らす。
 ゾロの名前とともに、溢れそうになる気持ち。
 
 うれしい。
 うれしい。
 そしてこんなにも。
 いとしい――。
 
 乱暴に揺さぶられる体の痛みも、心のないただの交わりも。
 最悪な状況なのに、それでもなおゾロと繋がっていることにサンジの心は悲鳴を上げる。
 最早自分では止められないその感情を飲み込んだサンジの耳元に、ゾロが顔を寄せた。
 
「あれは、なんだ」
 床に散らばったノート。
 開かれたページには普段サンジが書き溜めているものとは違い、丁寧で少し大きな文字が並んでいる。
 専門用語もなく、誰にでもわかりやすいようにと図やメッセージも添えて書いたそれ。
 目を逸らそうとしたが許されず、ゾロが真上から深いところを抉ってサンジの体を叩き付けた。
 
「俺が剣の腕を磨くことが義務なら、テメェの義務はこの航海の間、仲間を飢えさせないことじゃねえのかよ」
 ゾロが冷たく笑う。
「あ…、ぁ、…ッ」
 怒気を隠し切れないその声に、サンジは何も言うことはできない。
 ゾロの言う通りだ。
 仲間の為にと書いたレシピノート。
 皆が飢えることのないようにと書いたそれは、裏を返せばサンジの逃げの証でしかない。
 あれはクルーの為ではない。サンジ自身が諦める為のものなのだから。
 
 見抜かれて、いた。
 その事に、サンジは情けなさと恥かしさを堪えきれず目を閉じた。
 ゾロを思う気持ちどころか、自分はクルーとして、仲間としての責務ですら捨てようとしていたのだ。
 その事実を否定することなんて、できやしない。
 
 
 答えないサンジに業を煮やしたのか、背後で小さく舌うちをしたゾロの手がサンジの性器に伸ばされた。
 痛みの中でもうっすらと立ち上がりかけていたその根元に、ぐるぐると何かが巻きつけられる。
「……ッ?」
 ぎゅっと締め付けれられる圧迫感をいぶかしんで眉を寄せれば、ぐっと体が持ち上がった。
 床に付いていた体が引き上げられ、そのままゾロの足の間に座り込む形になる。
「な…ァッ?!」
 サンジの根元に巻きつけられていたのは黒いバンダナだった。
 赤く色味を増しているサンジの先端に、後ろから伸びてきたゾロの指が絡みつく。
「ヒ…――ッ!」
 グイッと皮がむき下ろされて、晒された敏感な肉をゾロの太い指が擦り上げた。
 飛び上がりかけた体は貫かれた剛直によってすぐさま引き戻される。
「あ…あ、ァ――」
 過ぎた快感は苦痛にもなる。
 ゾロに中心を貫かれたままの体はどこへも逃げられず、ただその刺激を受け止めるしかない。
 刺激によってとろりと熱く熟れてきた先端の穴に、すかさずゾロの爪先が潜り込んだ。
 たわんだ皮の中にまでその指先が入り込めば、サンジの体は電気が走ったように仰け反って喘ぐ。ぐんと張りを増した起立は、ゾロのバンダナに塞き止められて更なる痛みをもたらす。
 
「テメェ一体何考えてやがる」
 背後のゾロがゆるゆると突き上げを再開させた。
 冷たい口調に、揺さぶられながらサンジは唇を噛み締めて俯いた。
 
「何を、考えてやがるッ!」
「―――ッ!!」
 ビリビリと空気が震えるような声。
 同時にぎゅっと性器を握り締められて、サンジは声にならない悲鳴を上げた。
 熱い、けれど涙の枯れた瞳を虚ろに開き、力なくただ首を振る。
 
 
 今ここで考えていることなんて、一つだけだ。
 ゾロのこと。
 …ゾロのこと、ゾロのことだけだ。
 体も心も全部、なにもかも今サンジの中を埋めているのはゾロだけなのに。
 
「ふ、…ぅ…ッ――」
 ガクガクと視界が揺れる。前立腺をゾロのものが擦りあげる度に、爪の先から背筋にかけてびりびりと快感が体を突き刺す。
 
 痛い。
 
 流すものなどないけれど、唇から漏れた呼吸は情けなく震えて零れ落ちる。
 
 心が、痛い。
 
 ゾロを乱したかったわけではないのだ。
 こんな風にサンジのせいで、大事な決闘の前に怒りで気を乱すような事、させたくはなかった。
 いつものように笑って、何事もなく、ただの仲間のままでいたかっただけなのに。
 ……ただ少し、その存在を抱きしめてやりたいと思っただけで。
 でももう、何も気付かなかったあの頃には戻れない。
 泣きたくたって泣けない事がこんなにも辛いとは思わなかった。
 荒々しく自分を揺するゾロに、手を伸ばそうにも最早伸ばせない。
 言葉だって、もう何も選ぶことはできない。
 
 喜びも悲しみも、痛みも快感も、全てが体の中に塞き止められている。嵐のように渦を巻く。
 サンジは血の滲むほど唇を噛んだ。
 
 真っ赤に充血した先端を擦るゾロのリズムが早くなっていく。
 同時にポイントを叩く内部の動きも激しくなってサンジを突き上げる。 
「あ、ァあ―――ッ!」
 やがて訪れた脳裏を焼くような真っ白な快感。
 握りこまれた先端から吹き上げることは出来なかったのに、神経自体を揺さぶるような激しい痺れが全身を貫いた。
 初めての感覚に目を見開いて体を小刻みに震わせるサンジの後ろで、小さくゾロがうめいた。
 体の奥でどぷりと熱いものが弾けて、ゾロも達したのだとわかる。
 熱い腕がサンジの体に回され、弛緩した体が背中越しに合わせられた。
 
 荒くリズムを刻むゾロの心臓。
 喘ぐ自分に重なるその音だけが、ひどく体に響いた。
 
 

 
 
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 07.10.18