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 サンジが苛々している。
 
 そんな時船で一番空気に聡いウソップはラウンジではなく船倉に設けられた工場にフランキー共々引きこもり、チョッパーは一応どこか健康面に問題がないかどうかだけを外見でチェックして、派手な喧嘩にならないといいなぁとこっそり溜息をつく。
 ナミやロビンは気づいていても自分たちに被害が及ばない事を知っているので、あえて黙視だ。気になるのは普段以上にごてごてと盛られたデザートの数々が、体重を変化させないかだけ。
 ちなみにルフィは気付いていないが、野生のカンでオヤツを強請ってもいいことがないとわかるらしく、その日だけはゴリ押しをしなくなる。
 
 
 サンジは夕食の用意をしながら深々と溜息をついた。
「……クソッ」
 落ち着かない体を気にしないように、目の前の食材に集中する。けれど意識はつい、あらぬ方へと向かってしまうもので。
 ふと気付けば用意してあったはずの野菜が一品足りない。最初に全て用意しておいたはずなのに、気がそぞろになっている証拠だ。バラティエならば蹴り飛ばされていることだろう。
 サンジは舌打ちすると、包丁を置いてキッチンの隅に新たに用意された倉庫へと足を向けた。
 扉を開けて、すぐ傍に積まれていた食料の箱を覗き込む。
 野菜を手に取った手がそのまま止まる。
 しゃがみこんだまま、ぎゅ、と唇を噛んだ。
 
 
 背後でゴトン、と重い靴音がしたのはその時だ。
 振り返らなくたってわかるその気配に、サンジの背が小さく粟立った。
 
 
「そろそろか」
 パタン、と扉が内側から閉められる。密閉された空間に、高まる緊張。
 その空気を振り払って、サンジは野菜を選ぶふりをしながらそっけなく返した。
「……飯はまだ準備中だ」
 
「ソッチじゃねぇよ」
 喉の奥でゾロが嗤う。
 
「そろそろだろう」
「知らねぇよ」
 振り切って立ち上がろうとしたサンジの腕が強い力で掴まれた。
 
「……ッ!」
 蹴り飛ばそうとした足の勢いは受け流され、そのままの勢いで倉庫の奥の棚に叩き付けられる。
 声を上げかけたサンジの動きを封じるように、ゾロが喉元に喰らいついた。
 本当に獣のようだ。
 強靭な歯列がサンジの柔らかい喉を押さえつけ、熱い舌がサンジの喉仏をひと舐めしたかと思った頃には、スーツの胸元のシャツを引きちぎるように分厚い手が滑り込んでいる。
 
「……やめろッ」
 抵抗など耳にも届いていないように、サンジの胸元を開いたゾロが笑った。
 
「頃合じゃネェか」
「……っ」
 サンジは唇を噛んで、見上げるゾロを睨みつけた。
 
 生まれつき白いサンジの肌。その胸の左、小さな飾りの際に消えかけた淡い印。
 
 
「で、今回はドッチに付けて欲しい?」
「……ッ」
 言いながら、べろり、と肉厚の舌がサンジの小さな尖りを押しつぶした。
 すぐに立ち上がってくる粒をゾロが咥内で弄ぶ。
 薄っすらと紅く残る円形の跡。
 見せつけるように、ゾロが白い歯で自らがつけた形の上をなぞった。
 
「……、」
 目を逸らしたところでもう遅い。
 サンジの上気し始めた肌も、荒くなってきた息も、全てがゾロの前に晒されている。
 
 数日前にゾロに強く付けられたそれ証が、薄暗い倉庫の中で濡れて淫靡な光りを放つ。
 
「コッチにするか」
 
 反対の胸を探ったゾロが白い肌の上で牙を剥いた。
「う、ぁ……ッ」
 ギリッと熱い痛み。
 思わずゾロの肩を掴んだ指が震えた。
 食い込む牙。血が滴るようなその瞬間、代わりに零れるのはサンジの熱い息。
 
 
 しばらくして離された口元から、ひやりとした空気が肌に触れる。
 濡れたそこを、ゾロの熱い舌が再びなぞる。
「ぅ……」
 見下ろせば右胸に新たに咲いた、紅い花。
 舌はそのままサンジの中心を上へと移動し、ぐるりと白い首周りにゆっくりと這わされていく。
 ねとりと嬲られた耳の下で、ゾロが低く囁く。
 
「すげぇな」
 噛まれただけで、もうこんなかよ。
 
 
 
 サンジは耳を染めてゾロを睨んだ。
 熱を孕んで濡れたその目線の先で、喰らい尽くすようなゾロの目が光る。
 
 
 
 熱い体。獣がつけた、所有の証。
 自分ではどうしようもないくらい、ゾロを覚えてしまった体。
 けれどゾロが手を出してくるのは、こうしてサンジの肌に自らの跡を刻むときだけで。
 深く残されたその跡が消えるまでは、どんなにサンジの体が疼いても、目でゾロを追っても決して手を出してはこないのだ。
 涼しい顔で、普通の仲間の顔ですり抜ける。
 
 自分から誘うなんて、サンジにそんな真似が出来るわけもない。
 けれど持て余した体の熱を出そうにも、思い出すのはゾロの感触ばかりで。
 一人放出した夜は、悔しさばかりがつのる。
 
 
 なのに。
 
 
「あ、ぁ…ッ、クソ、とっとと入れ…ろよチクショウッ…!」
 
 
 嬲るようなゾロの目線。舐めるような指先。
 それに堪えきれずについにサンジが叫ぶと、ゾロはその口元を引き上げた。
 
 性急に寛げられたスラックスが足元に落ちる。
 裏返され、前と後ろを同時に攻められればもう声もない。
「あ……、アッ…!!」
 熱に浮かされ何も考えられなくなったまま、サンジは縋る棚にひっそりとまた一つ新しい傷をつけた。
 
 
 
 
 そうして日々は繰り返される。
 
 
 一箇所だった傷跡は二箇所に増えた。
 ならば今度はそれを三箇所に増やせばいい。
 そうすれば新しい傷がつく頃には別の傷が癒えている。
 
 ゾロはやがて毎日、サンジの体に跡を刻む事になるだろう。
 サンジは濡れた息の合間にうっそりと笑った。
 
 それがゾロの思惑通りだろうと、自分の手中だろうと、どうだっていい。
 
 
 だからサンジは自らの手で濡れた白い脚を押し広げ、柔らかな肉を晒すとこう言うのだ。
 
 
「……今度はここに、つけてみせろよ…?」
 
 
 
 見上げるゾロの唇が、三日月に歪んだ。
 
 
 
 




*END*



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08.02.08

企画サイト「悪ゾロ祭り」さまに投稿したお話。
とにかく悪いゾロ!ということで妄想したらこんなん生まれました。
独占したいゾロと、されたいサンジ。