Calling 8 ------------------------------------------------------------------------------- |
ゾロの目が強く光ったと思うと、いきなりサンジの両膝が持ち上げられた。 「ぅあ…ッ!?」 ゾロの肩に掛けられ、大きく腰が宙に浮く。その状態でゾロの熱い塊が内部を抉り、サンジはシーツを握る手に力を込めた。 ぬるりと引き抜かれては、再びずぶりと突き立てられる。何度も繰り返される律動に不安定な体勢の腰がガクガク揺さぶられる。 「あ…ッ、ぃ、…あァ…ッ」 冷えた道具とは違い、熱く脈打つゾロの性器。 それがサンジの狭い壁内をずるずると這い回る。 痛みなどはないけれど、ダイレクトに快感だけをもたらされていたあの行為とは違う。 意志のあるものがサンジの中を探り、追い立て、暴いていく。 それは初めての感覚だった。 ゾロは睨むような険しい顔でサンジを見つめている。 じわりと汗ばんだ額。荒い呼吸。サンジの肌に触れる熱。 (ああ――) これは道具などではない、確かにゾロなのだ……まるで夢でも見ているように、現在の感覚とは遠いところでサンジは漠然と感じた。 あのゾロが自分を。考えたことはあるけれど、本当に手を伸ばせる日が来るとは思っていなかった。 信じられない喜び。 けれどそれとともに沸き起こるのは―――恐怖。 予測のつかない動きに性急に追い立てられて、サンジは小さく息を呑んだ。 身を任せるという行為すらどうしていいかわからないサンジは、ただゾロの行動を見守るしかない。 ゾロが今サンジに何を求め、何を施そうとしているのか。 ゾロは何も言わず一方的にどんどんサンジを追い上げていくばかりだ。 「……ッ!」 突然ゾロの手に性器を掴まれて、サンジは悲鳴を詰らせた。 ぬるりと糸を引く剥き出しの皮膚を、ゴツイ指が容赦なく擦り上げる。 「……ぞ、ヤッ…待、ゾロ……ッ!」 熱い手がサンジの弱い先端をぐちゃぐちゃと弄る。 しとどに蜜を零していたそこはジンジン痺れ、熱い快感が尿道を競りあがってくる。 「あ……ああああッ―――ッ!」 グリっとゾロの性器に内部のイイ所を抉られると同時に、サンジは先端から白濁を思い切り吹き上げた。 ぎゅうっと絞られた後孔に眉をしかめて、ゾロは動きを止めた。 どこか冷えた瞳が、くたりと力の抜けたサンジを見下ろす。 「強がってんじゃねぇ」 吐き捨てるように言われた言葉に、サンジは小さく肩を揺らして顔を背けた。 体は射精後の快感の余韻に覚束ないのに、精神だけが深い穴底に叩き落とされたようだった。 一方的に高められ、勝手に吐き出して。 これではまるで、相手がゾロだった意味がない。 同じだ。この8年間、繰り返した夜と同じ――。 ではどうすればよかったというのか。 どうしようもなく惨めで、サンジは静かに目を瞑った。 まるで泣きそうに唇を歪めたサンジにゾロは小さく溜息を吐いて、サンジの顎に飛び散っていた精液を指で拭った。 挿入した体勢のまま体を折って、胸元に飛び散っていたものも舐め取る。 そのまま淡いベージュをした柔らかい突起に舌を這わせると、ビクッとサンジの体が跳ねた。 「なっ…何してやがッ」 「んだ、ここも弄られたことねぇのか」 ベロリと見せつけるように乳首を舐められて、サンジはカーッと首を赤く染めた。 黙りこんだその態度は肯定だ。 「……てめぇ、あの男と一体どんなSEXしてやがった」 また怒りを露にしたゾロの瞳。 あまりにあけすけな質問にぐぅ、と下唇を噛む。 「後ろに咥え込むことにはやたら慣れてやがるが…その他はからっきしだ。どういうことだ、これは」 どういうことだ、なんて。 慣れてないなんておかしい、とゾロは言っている。 もっと男の行為と慣れてると思った、ということだろうか。 それはつまり、もっと楽にヤれると思ったのに、っていう失望なのか。 あんな行為ばかりをしてきた自分が本当に情けなくて、まるで汚い、どうしようもないと責められているように思えて。 ぶわっ、と突然サンジの視界が曇った。 ぼやけたゾロの顔が、ぎょっと焦ったように見える。 (うわ、泣き出すなんて最低だ、俺――) サンジは慌てて顔をそらすと、ぐっと手に力を入れて上半身を起こそうとした。 「な、慣れてなくて、ワリィ……ッ」 ぼたぼた勝手に頬を伝うものを拭いながら、もう片方の震える手でゾロを押し返そうとする。 「そりゃ、ヤり辛ぇよな…こんなヘタクソ……」 震える声を誤魔化すように、へらっと笑った。 なんて面倒な男だと自分でも思う。 ゾロも今度こそ本気で嫌になったに違いない。 うーうー唸って涙を堪えていると、突然両手を掴まれてベッドに押し戻された。 「馬鹿野郎、なに謝ってんだ…!そういう意味じゃねぇっ!!」 咄嗟に泣き顔を覆った手をゾロが引き剥がす。それに抗いながらサンジはもうぐちゃぐちゃだ。 「も、いい…!わかんねぇもんッ…やめ、やめよう、ゾロ……ッ」 むずがるサンジを押さえつけるように抱きしめて、ゾロはもう一度「そうじゃねぇ」と言った。 「あいつに、何されてた…今更蒸し返すのもどうかと思うが、どうにも気になって仕方ねぇ。てめぇをこうして弄ってた野郎がいるのかと思うと…それだけで腹が立つ」 ――みっともねぇ嫉妬してんのは、俺なんだ。 その言葉に、震える呼吸を飲み込んでゾロを見る。 「てめぇが慣れてないから嫌とかじゃねぇ…違ぇ…俺が聞きたいのは、あいつにはこんな前戯、一度もしてもらえなかったのか、ってことだ…!」 「……ぅあッ」 きゅっと胸の柔らかな突起をつままれて、びくッと体が逃げを打つ。 しかしゾロのいまだ質量を持った太い楔がサンジの中心を深々と貫いているために、それはかなわない。 険しい顔で、一体どんな扱いをされてたのかと、ゾロは再び呟いた。 「酷ぇ抱き方されてたんじゃねぇだろうな……」 ここにはいない誰かを睨むように、しかしサンジに触れる指先はとても優しい。 失望や蔑みや、そんな感情を持っていたのではなかった。 それどころか、ゾロは。 「……ッ」 サンジの目から再び涙が溢れた。 「……なッ!?」 そこでなんで泣く!?と慌てたゾロがサンジの背を抱いた。 抱え起こすと、そのまま顔が向き合うように膝の上に座らせる。 「んぁッ…」 膝に跨る形になったため、埋め込まれていたゾロの性器が体重によって深く沈みこんだ。 ゾロは身じろぐサンジをぎゅっと抱き寄せる。 震える白い背を、あやすように太い手が何度もゆったり撫でさすった。 ゾロは自分が慣れてないのを怒っているんじゃない。 慣れることができないような環境だったのかと、つまり勝手に突っ込まれて後は放りだされるような行為をされていたのかと、本気でサンジの為に怒っているのだ。 それは半分、あっているけれど。 「そういう訳じゃ…ねぇ」 涙で乱れた呼吸を抑え込んで、ようやくサンジはゾロの肩口を見つめながら言葉を吐いた。 大きくひとつ息を吸い込むと、ゾロの汗の匂いがする。 それに安心して、サンジはゆるゆると顔を上げた。 「抱かれる、っていう言葉でいうなら、そんなSEXしたことねぇよ。………あいつは不能で、そういった意味で俺の体を弄ったことなんか、ねぇもん」 「不能…?じゃあてめ、なんでこんなに入れられ慣れてやがる」 「それ、は……」 サンジはちょっと逡巡した後、ゆっくりと明かした。 ここまできたら、もう、今更だ。 「あいつは自分の代わりに、色んな道具を俺を犯すのに使ったからな……だから、慣れてる」 ゾロの顔が見るからに強張った。 「しかも毎回手足縛りやがるしよ……あ、でも後ろに入れられてもそっから先、あいつは俺に触れようともしないんだぜ?おかしいよなぁ」 つとめて軽い口調でいいつのるも、ゾロの表情はふつふつと湧き出る怒りを殺しきれていない。 鋭い目線にサンジは再び俯いて、ぎゅっと唇を噛んだ。 落ちる沈黙。 体だけ繋がったどこにも逃げられない状態で、サンジはじっと息を殺す。 ゾロに呆れられようと、どんな言葉を投げつけられようと、しょうがない。 投げられるゾロの言葉を待った。 「……じゃあてめぇ、初めてなんじゃねぇか」 低いうなるような声が落ちてきて顔を上げれば、これ以上ない程不機嫌なゾロの顔。 「?なにが…」 「野郎に入れられるの」 明け透けな物言いに対し、サンジの言葉が鈍る。 「……う…まぁ、生身って、意味ならな…」 「愛撫ひとつ、受けたことねぇんだろ」 「う…うぅ、……まぁ…うん」 答えながらサンジは首筋から赤く染まる。 しかしゾロの顔は真剣そのものなので、いたたまれなさを感じつつもサンジは正直に答えた。 するとちら、と互いの重なった股間に目をやったゾロが、ぎっと眉を吊り上げた。 「てめえ、それをなんでもっと早く言わねぇんだ!!」 ビリビリと部屋をふるわせる程の大声で叱咤され、サンジは目を見開いた。 けれど持ち前の気の強さでカチンときて、直ぐに言い返す。 「こんな恥かしいことべらべら言えるわけねぇだろうがッ!」 「あぁ!?処女には処女なりの手順ってもんがあるんだよッ!それを…ッ」 「処女じゃねぇよ!それに俺は男だッ!!」 「同じことだクソ眉毛ッ!!」 「あークソ、いきなり突っ込んじまったじゃねぇか。こんなんじゃ俺もソイツと変わんねぇだろうが!」 チクショウ、と呟いて、ゾロはサンジを再びベッドに転がした。 え、え、と戸惑うサンジのまぶたに小さく口付けてから、ゾロはサンジの目を覗き込んだ。 「……やり直しだ」 ゾロはサンジの右手を取ると、その傷口を熱い舌でざらりと舐めた。 「んッ…」 ゾワリと腰を這い上がるようなむず痒い感覚。 ゾロに与えられるものなら、今は何でも気持ちいい。 「俺の傷はふさがっちまったが」 太くがっちりしたゾロの左手首は、幼い頃の傷なんてもう痕も残っていなかった。 「でもテメェの血は、今もここに流れてる」 サンジの手を、ゾロは自らの胸に導いた。 斜めに走る傷の上から、ひたりと手を当てる。 手の平から伝わる、どくん、どくん、と強い鼓動。 「……いっぱい傷作りやがって、俺の血なんてもうどっかに流れちまってるだろ」 意地悪く笑ったサンジに、ゾロもニヤリと笑った。 「これからまた、ずっと、俺の血肉を作るのはテメェだ」 夢を叶えるその日まで。叶えた後だって、ずっと。 サンジはゾロの傍にいて、ゾロの為に料理を作るのだ。 サンジの手によって生まれたものが、ゾロの体内を巡るのだ。 「まぁ交じり合えるのは血だけじゃねぇけどな」 グイと意味深に中に収まったままのモノを押し付けられて、サンジは頬を染めてゾロの背を蹴った。 「それから」 ゾロはサンジの両手を取ると、それを自分の背中に回させた。 「手の位置はこうだ。てめぇなら…傷つけてもいいぜ」 可愛いもんだしな、なんて呟かれた不遜な言葉に、サンジはピクリと眉を吊り上げた。 「……見てやがれ。一週間は残る傷跡つけてやる」 実際そんな傷をつけた場合、いつも上半身裸でトレーニングするゾロだ。クルーに見つかって困る思いをするのはサンジなのだが。 「望むところだ」 ゾロは笑って、引き寄せられるままにサンジに覆い被さった。 その後、サンジは首筋から乳首、臍、背中、性器は勿論太ももの内側までありとあらゆるところをゾロの手と舌で愛撫された。 それだけでも幾度か高められてゾロのあまりのねちっこさに音を上げていたサンジだったが、一通りの儀式は済ませた、後はこっちのもんだと言わんばかりのゾロに本格的に圧し掛かられて、更にこれでもかというぐらいイかされドロドロにされた。 最早何回こなしたのかもわからず、思い返すのも恥かしいポーズを取らされたり臆面もない台詞を言われたりもした。 ついでに快感と疲れで朦朧となっていた時に、出しすぎて中々イけなくたった性器をわざとらしく責められては、ギンと関係を持った理由とか、島で決闘して別れた理由だとか、果てはあの時ゾロに見せたキスシーンがゾロを振り払う為にやったという事まで洗いざらいしゃべらされた。 気付けば憎たらしいくらいスッキリ顔でぐうぐう寝こけるゾロに抱きしめられたまま迎えた翌朝…というか多分もう昼。 体は痛いし喉はかすれてるし、なんだかもう色んな事や部分がぐちゃぐちゃだったサンジは、そのまま起き上がるのを諦めて脇で間抜けな寝顔を晒すゾロを見た。 幼い時に交わした血。 あの時相手に入った自分の血が、もしかしてこうして互いの体を呼び合ったのかもしれない。 筋肉の軋む体を捻り、サンジはゾロの胸に耳を寄せた。 そしてゆったりと目を閉じる。 ゾロの鼓動からは、遠く眩しい。 いつもサンジが求めていたあの海の音がした。 |
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