Calling 2 ------------------------------------------------------------------------------- |
*注意*今回ちょっぴりサンジがゾロ以外と絡む表現が入っております。 一棒一穴精神は崩れてませんが、サンジがゾロ以外に弄られているのが苦手という方、申し訳ないのですがお戻りください。 この話はこの設定を踏まえた上での展開が書きたかったので、受け止めてやるぜ!という方、読んでいただければ幸いです。 「どうした」 咥えていた煙草を足元で踏み消して、サンジは走ってきたらしいコックスーツの男を見遣った。 「あの、ギンさんがお戻りです」 「…そうか」 その何の抑揚も感じられない口調に、見習コックとして入ったばかりの男は首を傾げた。 自分を見ているはずなのに、その青い目は未だに海を映しているままであるかのように、どこか遠くを捉えたまま動きもしない。 「あの…?」 男の気遣う声をすり抜けるように、細身のオーナーシェフの背中はそのまま丘を降りていった。 丘を下ってすぐのところに、レストランはある。 やわらかく日差しをのせる青い屋根に、くすんだ金の風見鶏。ペンション風に白木の壁で作られた二階家の、一階部分がまるまる店にあてられていた。 その裏口から厨房に入ると、午後も半ばで少し余裕の出てきた厨房のコックたちが軽く目線でサンジを認めた。 ウェイトレスも含めて片手くらいの従業員しかいない小さな店だが、それでも地元の港町からの客足は途絶えない。 なじみの町人も、貿易船でやってきた旅人も、定期的に顔を出してくれる商船のクルーたちも。 自分達の料理を食べて笑顔になってくれる人たち全てがサンジは好きだった。勿論、共に働く仲間たちも。 あたたかなで活気のあふれるここが、自分の居場所だった。 コックたちの間を抜けながら気づいた指示をいくつか飛ばし、客に軽く挨拶をしながら店内を通り抜けて入り口へと向かう。 そこにはそわそわとした様子の、やつれて顔色の悪い男が一人立っていた。 目の下にある隈は真っ黒く病的で、けれど眼光は鋭く不穏な気配を宿している。 レストランの入り口に立つにしてはかなり悪い印象を与えそうなその姿。 勝手知ったる家だ、先に上がっていてもいいと言ったことはあるのに、決してサンジの許可なしに入ろうとはしない。 そういうところは変に義理堅く犬のようなその男。 「よう、今回は随分早いじゃねぇか」 「…サンジさん!」 ギンはサンジに気づくと、青白い顔を太陽の下に晒して嬉しそうに笑った。 「今回は早くケリが着いたんですよ」 今度は一体どこの町を潰してきたんだ。 そう、歪んだ笑みをこぼしそうになるのを抑えて、サンジはいそいそ嬉しそうに話すギンに向かってへぇ、と小さく呟くと顎をしゃくって二階を示した。 「まだ日は高い。とりあえず上がって待ってな」 「オーナーの知り合いなんですか?」 サンジを呼びに言っていた男は裏口から厨房に戻ると店の表で話す二人の様子を遠目にして、隣で魚を捌いていた恰幅のいいコックに尋ねた。 「ああ…お前は新入りだから知らねぇんだったな」 すると食材を運んでいた別の背の高い男が、ひょいと顔を出して耳打ちをする。 「ギンさんはな、海賊なんだ」 「ええ!?」 海賊なんてこの穏やかな島ではここしばらく噂も聞かない。驚く新入りににやりと人の悪い笑みをのせた男は、なに大丈夫だよと肩をすくめ、そして少し声を落とした。 「なんせギンさんはオーナーにベタ惚れだからな。そうそう悪さもしねぇって」 「…えぇっ?」 再び目を白黒させた新入りを見て男が笑う。と、そこで二人の話を隣で黙々と聞いていた太った男の手が止まった。 「てめぇら…早く持ち場に戻らねぇとオーナーの代わりに俺が外に叩き出すぞ」 「うへぇっ」 「す、すいません!」 ドスのきいた低い声に慌てて作業に戻る2人を眺め、店でもサンジに次ぐその年輩のコックは苦虫を潰したような、けれどどこか哀しそうな表情を一瞬見せた後に小さく溜息をついて表の様子から目を逸らした。 レストランの営業と明日の準備が終わり、従業員も全て帰宅した深夜。 ランプの灯りがほの暗く、小さな部屋を浮かび上がらせている。 二階に設けた自室のベッドに、サンジは肌蹴たシャツ一枚で仰向けに寝そべっていた。 「へっ、今日はまた随分丁寧じゃねぇか」 頭上で縛られた両手の革ベルトをギシギシ鳴らして、小さく口の端を歪め部屋の隅にいる相手をせせら笑う。 サンジの両手首には包帯と布が巻かれ、そしてその上には真っ赤な拘束具が嵌まっていた。そのベルトはベッドヘッドのパイプに括りつけられている。 軽く膝立ちにしたままの両足首も同様に、それぞれ左右のベッドの脚に括りつけて固定させられていた。 オレンジ色の灯りが剥き出しの脚に淡い陰を作り出す。勿論下着も全て取り去られていて、白い肌を隠すものは何もない。 相手の準備の間はすることもないので軽く所在のない脚をゆらしていると、サンジの肌や晒された陰部を凝視していたギンの喉がごくりとなった。 誘ってやるつもりなどないが、きっと目の前の男はこんな自分のどんな所作にも勝手に煽られているに違いない。 そう思うと、なんともいえない冷めた笑いが口端に上る。 「今回はね、凄い一品を手に入れてきたんですよ」 興奮したように荒い息を吐きながら、ギンは暗がりでギラギラ光る目をサンジに向けた。 上着一枚で裸同然のサンジに対して、見下ろすギンは昼間と同じシャツにジャンバーを羽織った格好だ。 舐めるように見ていたサンジの体から無理やり視線を引き剥がすように、ギンは持ってきていた小さな袋から黒い布に包まれた筒状のものを取り出した。 ビロードの布地を解いて中から現れたのは、朱塗りの太い張型。 「……っ」 今度はギンの手元を見ていたサンジの方が、小さく息を呑んだ。 明らかに男性器の形を模したと思われるそれは、少し反り返っていて太い。 それなのに朱塗りの筒には更にぐるぐると螺旋状に金色の龍を模した飾りが巻きついていて、ごつごつといびつな形状を作り上げていた。 ゾクリ、と。 サンジの背筋が粟立った。 それは嫌悪ではない。 太く節くれ立ったあれを、使われたら。 狭い器官に、容赦なく突き込まれたらどうなるか。 その快感を嫌というほど知っている体が、暗い期待に打ち震えたのだ。 「……っ」 小さく熱い呼吸を、サンジは唇から逃がした。 それに気づいたのかどうなのか、ギンは手の中の器具のリアルに鱗のひとつひとつまで彫刻された龍の背をなぞるように指を這わせると、薄く笑った。 「凄いでしょう?原型は東方の島の、貴族たちが愛用するのものだったらしいんだが…」 まるで美術品を愛でるような口調のまま、ベッド脇の棚の引き出しを開け小さなボトルを取り出す。 とろりとした液体が龍の頭、張型の先端部分からかけられた。 ゆっくりと滑り落ちる液体が、朱と金に絡み付いてぬらぬらと淫猥な光を放つ。 「…これなら絶対、サンジさんに似合う…」 「……ッ」 ギンがサンジの脚に手をかけ、その膝を割り開いた。 閉じられた固い窄まりに、ひたりと冷たいそれが押し当てられる。 その感触に、サンジの体が小さく跳ねた。 「……ぅ、はッ」 愛撫も慣らしもしない後孔に、質量をもった器具が突きこまれた。 ギンはゆっくりゆっくり、巻きつく龍にそって張型をねじ回しながらサンジのアナルに押し込んで行く。 「凄い…サンジさん…」 淡い色をして淫具の形に口をあけていくサンジのそこをねぶるように見つめながら、まるで自らが快感を得ているかのように上ずった声でサンジの名を呼ぶ。 「ひ…ぃッ…」 ごりごりと襞を掻き分けて潜り込んでくるそれを、サンジは悲鳴を押し込めて受け止めた。 必死で後ろの力を抜き痛みを和らげようとすると、すかざすギンの手が器具をさらに押し入れてくる。 こういった扱いに既に慣れてしまった体は、与えられる全てを快感に近いものへとすりかえていこうとする。 サンジは繋がれたベルトにぎゅっと爪を立てて、背を反らせた。 「あ、あぁ…ッ!」 ずぶり、と潤滑剤の助けを借りて勢いよく埋め込まれた龍の背が直腸をこすり上げ、前立腺を押し上げた。 逃げを打つように体をのたうたせたサンジから、たまらず声が漏れる。 「あ……ぅあ、あぁっ」 根元までギチギチに咥え込まされた淫具。 いつしかサンジの性器は天を向いて勃ち上がり、薄い先走りをその先端からにじませていた。 「綺麗だよ…」 目をつむり、汗ばんだ体を諌めるように荒い息を吐くサンジの様子を見て、まるで口付けるかのように囁いて。 そしてギンは手の中の張型を思い切りねじり回した。 ギンは不能だ。 海に出たばかりの頃何かの事故で玉を傷つけて以来、男性としての機能を失ったらしい。 しかし代わりに旅先で手に入れてきた様々な淫具でサンジをさいなみ、それを自ら果たせぬ快感の代替とする。 こうして両手足を拘束するのも、初めて相手をさせられた頃から変わらない。 サンジが逃げることを、拒絶されることをこの男は酷く恐れている。 それを内心あざ笑う。 逃げる気など、抗う心などもう持ち合わせてはいない。 この身でいくつもの代償が支払えているなら尚のこと。 それに、体はとうに覚えてしまった。 この暗くて逃れ様のない快感を。 相手は疲れを知らない。 どんなにサンジが乱れ、達し、快感を訴えてもそれは相手に通じることはない。 「綺麗だ…綺麗だよサンジさん……」 まるで絵画や人形を見るかのようにうっとりとした目で、ギンはサンジが乱れ狂う様をいつまでもいつまでも眺めているのだ。 その手は巧みに淫具を蠢かせて、サンジの快感を引きずり出しては追い落とす。 ぐちゃぐちゃと部屋を占めるいやらしい水音。 それがどこから聞こえてくるのか解らなくなるほどに、どろどろに溶けて。 サンジの精が尽き果ててやがて意識をなくすまで、それは続けられるのだ。 「……ぅ、あ、ああぁッ」 終わりのない。 それは快楽の、地獄。 「またしばらくここに居るつもりですから」 ギンの陶酔したような声をどこか遠くに聞いたまま、サンジは意識を閉じるように暗いまどろみに落ちていった。 ある日、小さな島の小さな町を海賊が襲った。 それはようやく、手首傷の痛みにゾロの姿を追わなくなってきたときのこと。 クリークという、武力によって力を誇示する卑劣な海賊たち。 海域のはずれにあるこの島には海軍の目は遠く、また元々自警団のみで事足りるような平和な町だったことがあだとなった。 「こんなところにこんな大物が隠れていやがったとはなぁ?」 赫足のゼフ。 そう呼ばれて海賊たちに囲まれた老人。 サンジのせいで海賊時代の無二の武器を無くしていたゼフは、叩きのめされ床に倒れたレストランのコックや客人たち、そしてきっと幼い自分の為に、最期まで堂々とした目で相手を捉えながらも決して抵抗らしい抵抗をしなかった。 ギンという男は、昔サンジが行き倒れていたのを偶然助けてやった相手であった。 海賊であったとは知らなかったが、その海賊団でNo2の実力と座を持つギンのはからいがなければ、きっとあの場で皆殺しにされていただろう。 いやその気になれば、いつでもギン一人の力だけでこんなレストラン一つ、町の一つ、潰せてしまうだろう。 倒れたゼフのその血溜まりに座り込み、ただ縋りつくしかできなかった自分の脇で、他の従業員や町人の命を助けたのは確かにギンだった。 だからその男に、代償として自分が必要なのだと言われれば素直にこの身を差し出した。 まだ戦闘力も足りないその時の自分には、他に町の皆の命を救う術などありはしなかった。 ひ弱な自分。 そんな自分に、他に何ができただろう。 サンジはギイ、と軋むレストランの裏口の扉をそっと押し開けた。 まだ夜明け前のため、あたりはうす暗く夜空にはかすかに星が瞬いている。 冷たい夜風が前髪をさらう。 サンジはそこで自分が裸足であることに気づいたが、靴を取りに戻るのも面倒に思いそのまま外へ一歩を踏み出した。 ひやりとした大地を踏みしめると、サクサクした草の感触。 海の音は、ここからじゃ遠くて聞こえはしないが、しかし色の薄くなってきた夜空の下、真っ黒く横たわるその影に存在は知れる。 サンジはゆっくりと丘を登りながら、暗がりの中手首に巻いていた包帯を解いた。 夜風に白い布が流されていく。 この包帯は、こういった行為の時サンジ自らがいつも巻いているものだ。 料理人の手首に跡がつくのは嫌なのだと、ギンには言っている。 もちろんそれを防ぐためでもあるのだが、それだけでは、ない。 左手首の傷。 ゾロと血を分け合った場所。 何度も何度も確かめるために、消えないように傷つけたその場所が、痛むような気がしたから。 もうこれ以上誰にも、触れさせたくは。 汚されたくは、なかったからだ。 ぼんやりと丘を登る体は、昨夜の名残を引きずるように重い。 まだ日は昇っておらず、Gパンに上はシャツ一枚しかまとっていない体に空気が冷たく刺さる。 しかしその痛みが自分を現実に立ち返らせるようで、むしろ心地良くサンジには感じられた。 やがて、空の一端が薄く白くにじみ始めた。 夜明けだ。 水平線からゆっくりと光がこぼれ始める。 ぼうっとそれを眺めながら一歩ずつ辿り付いた丘の上。 そこでサンジはギクリと足を止めた。 石碑の前に、人影があった。 こんなはずれの丘、例え従業員や客であっても滅多に登ってこない場所だ。 予想外の先客に、サンジは小さく息を詰めて身構える。 すると石碑の前でうずくまっていたらしい人影が、サンジの気配に気づいてのそりと立ち上がった。 「……サンジ、か…?」 聞き覚えのない、低い男の声だった。 こちらを振り返ったその背から、静かに朝日が昇りだす。 そして少しずつ、その男の顔を明るく照らし出した。 浅黒く日焼けした肌に、短く刈り込んだ髪。 左耳につけていた三つの金のピアスがきらりと光を弾いた。 白い半袖シャツに腰には三本の刀を差し、少しはにかんだように笑ってサンジを見つめるその深くてまっすぐな瞳。 「……ゾ、ロ……?」 目を焼くまぶしさも忘れて、サンジは呆然と目の前の男を見つめた。 面影と重なるその緑頭の男は、おう、と応えて目を細めるようにして笑った。 |
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