ゆりかご |
「星ってのは」 深夜の甲板。芝生の上に寝転がっていたのは、今日の不寝番だったサンジだ。 暗闇では色のわからないその目は、そっと傍に寄り添ったゾロの気配を気にする事もなく、じっと、ただ真っ直ぐに天を見たまま動かない。 「海の底から生まれて来るんだって、聞いたんだ」 サンジの声が、深く冷たく夜風に溶ける。 「船乗りが死ぬと、海に流すだろう。そうすると新しい星がひとつ、生まれる」 ゾロは刀を置いて、サンジと同じように天を仰いだ。 果ての見えない暗闇に、沢山の小さな光が渦を巻いている。 「冷たい、冷たい、海の底から、暖かな光をまとって、天に昇るんだ」 人も、犬も、牛も馬も、命あるものはみんなだ。 低く柔らかい声が、ゾロの耳にも溶けていく。 「あんなにいっぱい居るなら、寂しくねぇかな」 サンジが闇の中でそっと笑う気配がした。 「ああ…ぎゅうぎゅうで、むしろ暑いくらいだな」 「…なら、よかった」 サンジの頬に、ゾロは触れた。 指先に当たった冷たさには、気づかないふりをする。 水平線までを埋め尽くす星は、静かな海面にも輝いている。 この船だけが、まるで星の海に浮いているかのようだ。 生まれ、そして朝の陽に溶けた星は、その後どこへ還るのだろう。 らしくもない考えに笑い、ゾロはサンジの瞼を優しく覆った。 END |