となりの新婚さん
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【新婚さんCM劇場@】

玄関を開けたら3秒でサンジが飛んできた。

どーん!とゾロの腹目掛けて一直線、文字通り体当たりして飛びついてくる
その衝撃はゾロだからこそ受け止められたものの、実際はかなりの威力だ。
しかしそこはゾロ。条件反射で腹に抱きついたサンジを両手を広げて迎え入れ、
金髪からふんわり立ち昇る石鹸と味噌汁の匂いに幸せを噛み締める。

と、腹に巻きついたサンジの手がゾロの背広の裾を割ってもぞもぞ腹の肉を探り出した。
ふにっと横腹が細い手でつままれる。
が、筋肉だらけのゾロなので摘まめるような肉は少ない。

「……なにしてんだ」
「ん?ふんにゃりチェック〜♪」

柔らかな背中のラインを両手で堪能しながら見下ろせば、金髪からアホな台詞が返る。
TVのCMでやってたんだよ、体脂肪のチェック。うんさすが俺、余分なカロリーなんてつけさせてねぇな。
ひひ、とアホな笑いを浮かべてから離れようとするサンジを、ゾロはもう一度掴まえた。

「俺もチェックしてやる。ふんにゃりチェック」
「あ?」

ぽかんとした時は既に遅い。
と言う事を、サンジが思い出す頃にはいつももう手遅れだ。
「あ?馬鹿てめ、そこは腹じゃ…ッ」
不埒な手はサンジのエプロンの下のシャツをどんどん掻き分けて止まらない。

「お?てめぇふんにゃりしてるじゃねぇか」
「…ッ、それは当たりま…」
「お?硬くなってきた。よかったな」
「あ、ぁ、あ…ッ………アホぉ〜〜〜〜!」


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S原R子のやってたCMです。なんだっけ、炊飯器のCMだっけ?




【新婚さんCM劇場A】

「ただいま」
「…おかえり」

 玄関を開けたら、出迎えの声が遠い。
 奥を見ればエプロン姿のサンジがお玉を抱えたまま、リビングの入り口から半分だけ顔を覗かせている。
「なにしてんだ、こっちこい」
 サンジはお玉で口を隠すようにすると、ぷるぷると顔を振った。
「だって行ったらお前、ちゅーするだろう」
「当たり前だ。出迎えのちゅーは夫婦の基本だろうが」
 胸を張るゾロに、サンジの眉がへにょっと下がった。
「だって今日TVで見たんだ」
 またか。サンジはこの所TVから妙な知識を仕入れてくることが多い。
「今度はなんだ」
「あのな、ちゅーするとな」

「1秒間に2億個の細菌が口の中を行ったり来たりするんだって!!」

「……」
 ゾロは無言で鞄を置き、靴を脱いだ。
 そしてマリモ菌に冒されちまう!と騒いでる丸い頭をがしっと捕まえると、
 頭と一緒で軽いお玉を取り上げてポイと放り投げた。
「よし、それじゃ今からいくつ行き来するか数えてみろよ?」
 
 煩い取引相手を黙らせる時に使う営業スマイルを浮かべてみせれば、サンジの顔が引きつった。
「ッ、みぎゃ〜〜〜!」



 * * *


「……ふ、ぁ…」
「で、いくつだ?」
 スパーッと普段は吸わないサンジの煙草を吹かしながら聞けば、サンジは床に倒れたまま濡れて赤くなった唇を震わせた。
 
「ね、涅槃寂静…」
「いやそれ違ェだろ。ゼロが一杯並んで多そうな感じは同じだけどよ」
 サンジは唇どころか色んな部分がどろどろのくたくたになっていたが、まぁそれはご愛嬌。

「こうなったらもうどっちの菌だかわからねぇだろ?つかどれも全部自分の菌みてぇなもんだろ」
「…あぃ…」
 ほどけてよれよれになったエプロンの上に、サンジはバタリと力尽きた。


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まーめちしーきらんらんらん♪な豆のCMから。
涅槃寂静は10の-24乗←→無量大数が10の68乗←Wikiで調べた。
算数なんて私、ママンのおなかの中に置いてきました。


【新婚さんCM劇場B】

風呂上がり、タオルで頭をごしごし拭きながらゾロがリビングに来たら
カーペットに座ったサンジがカップアイスを片手に、食い入るようにTVを見ていた。
ぱかりと口を開けたまま、運びかけたスプーンの上で掬ったアイスが溶けそうだ。
ほんのり赤く染まったその横顔に一体何を見ているのかと画面を見れば、
男優がやっている某虫取りスプレーのCMだ。
卑猥とも取れる台詞を吐くその男に釘付けなサンジに、
ゾロはうっかり出そうになった殺気を消して静かにサンジの背後に立った。
そっとその耳元に顔を近づける。

「てめぇ、他のオトコの声に感じてるんじゃねぇよ」
「んぎゃ!」
飛び上がってアイスを零しそうになったサンジを押え付けて、ゾロは柔らかい耳に歯を立てる。
「ち、ちが!別に俺はTヨエツに感じてるわけじゃなくてだな」
「アアン?」
ニヤ、とゾロは口角を釣り上げた。

「なんだ、俺にあんな台詞言って欲しいのかよ」
「ばっ、馬ッ鹿野郎、違うって言ってんだろ!」
目の前で真っ赤になった耳を舐めるように、ゾロは低く息を吹き込んだ。

「長持ちするやつか」
「遠くまで飛ぶやつか」

いや、その程度じゃ収まらない。

「優しく丁寧なやつか」
「激しく奥まで届くやつか」


「……今夜はどれがいいんだ?」

わざとイイ声で囁いてやれば、サンジの体がへにゃんと沈んだ。
「う〜〜」
悔しそうな顔をするその体を抱えあげれば、
真っ赤な顔をしたサンジが手にしていたスプーンをゾロに向かって差し出した。
上目遣いに、小さく小首をかしげる。


「と、とろ〜り、する…?」

とろ、と溶けかけたアイスがスプーンから滴ったと同時に、
ゾロのどこかも溶けそうになった。


「…ッさせてやるに決まってんだろうがあああ!」
「みにゃーーッ」

その夜猛獣の吼え声がしたとかしないとか。
のちに近隣の住人の噂となったのでした☆


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気になるCMネタを2本詰めてみました。きんちょーるとぷりん。
Tヨエツのキ○チョーのCMはいいですよ(笑
あの絶妙な息遣いがもー。
多分まだ公式HPで聞けるので、聞いたことない方はぜひ!



【オマケの新婚さんCM劇場】

『運命の出会いが 男と女とは限らない』

TVから聞こえてきたそんな文句に、ゾロはふと足を止めた。
風呂上りの頭をごしごし拭きながら居間を覗き込めば、大きなTVの前のテーブル、片付けの手を止めてぼんやりTVに見入っている金髪頭が見えた。
今日もあれこれと文句を付けながら、両親の帰りの遅いゾロの家、勝手知ったる台所で好きな料理と酒をしこたま用意してくれた幼馴染。
毎年の誕生日近くになると、ゾロに祝ってくれる彼女がいないことを確認し、バカにし、それでも最後はどこかほっとしたように、それなら俺が作ってやるよと小さく笑顔を零す男のまぁるい頭を、ゾロはじっと眺めた。

確かに運命の出会いは、男女だけのものではないのだ。
ここ数年、密かに感じていた想い。
けれどそれをこれ以上暖めてはならないと、いつものように首を振ったところで、目の前の金髪頭がくりっと振り向いた。
よほど夢中になって見ていたのか、目を丸く開いて口も半開きなアホさ全開の顔だ。

「ゾロ」
そしてサンジはいつになく真剣な目で見上げながら、こう口を開いたのである。

「結婚しよう」


…それが。
アホで単純でTV大好きで流されやすてどうしようもなく愛しいサンジとの、
同棲生活の第一歩だった。

サンジがゾロと同じ気持ちに長年悩み、けれどCMのその言葉に後押しされるように何かが吹っ切れ、挙句色々すっ飛ばした末のとんでもない告白に至ったと知ったのは――もう少し先の話である。

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肝心のCMが一体なんのCMだったか忘れた。あれ、コーヒー…?
新婚さんが新婚さんになる前の、いわゆる過去編です。






09.05.06