SEMI sideS |
変な野郎がいるなぁ。 あいつを初めて見た時の印象はそれだ。 そこにレディがいれば。恋が始まるのにそれ以外理由はいらない。 季節は熱い夏、レディはみんな積極的で、男たちは我先にと意中の相手に向かって恋の歌を送る。 レディは可愛い。沢山の賞賛と、沢山の愛の言葉を。俺たちはそしてこの世に受けた生を謳歌する。 なのに奴は甘い言葉なんてひとつも吐かず、まるで自分達の本能を忘れたかのようにただ宙に向かって叫んでいる。 きらぎら燃えるような目で見据えて、いったいそこに何が見えるというのか。 さり気無く場所を変えて、その方向を見てみた。 けれど広がるのは眩しい一面の青ばかり。 何であいつに見えるもんが俺に見えねぇんだ、とギリギリ睨んでいたら、ちら、と初めてあいつが俺を見た。 それは直ぐに馬鹿にしたような目線を伴って逸らされたけれど。 その目が。 その一瞬が、忘れられなかった。 俺はレディに恋の歌を捧げまくった。 貴方がいいのと言ってくれたレディも居た。 なのになぜか、俺はまだ一人こうしてあいつを見ている。 仲間は段々数を減らし、太陽はゆっくりと傾いていく。 いい加減に寒い。アホのように叫んでいるあいつを見ながら俺は小さく腕を抱えた。 あいつは馬鹿だからこんな寒さ感じないんだろうけど、俺は寒い。 あー馬鹿だ。 馬鹿だ、馬鹿だ。 ほんとにもう、馬ッ鹿じゃねえの。 いい加減頭に来て、一発蹴りをくれてやろうと俺はあいつの背後に近づいた。 怒ろうが知ったこっちゃねぇ。むしろ怒れ。喧嘩なら負けねぇ。 目に見えないもんにばっか叫んでねぇで、もっかい俺を見ればいい。 でもいざ、真っ直ぐに上ばかり見つめるその背中を見たら、なんだか涙が出そうになって、慌てて拳を固めた。 悔しいんだか悲しいんだかわからない不思議な気持ちに、小さくため息を逃がして。 代わりにコツリと、あいつの背に身を寄せた。 ふ、とあいつの叫びが止まる。 初めて触れた部分が、どうしようもなく、あたたかい。 なぁ、もういいじゃねぇか。 最後くらいは、俺のもんになっちまえよ、馬鹿野郎。 |