再会は二度ない
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 見つけた。
 俺は自慢の視力で人ごみの中に現れたその姿を捉えたまま、いつも利用させて貰っていたカフェの窓際の席を立った。この曜日に通るルート、定刻通りだ。

 出会いは偶然。俺のアパートの隣に越してきた、やたら調子のいい金髪のアホ。それがアイツだった。
 飢えてた俺に飯を食わせ、勝手に部屋に上がりこみ、同じ間取りとは思えない程の汚さだと驚愕し、そして文句を言いながらも、いつの間にかアイツの寝る場所は俺の部屋になっていた。
 全力で喧嘩もしたし、その分腕が折れる程抱きしめもした。
 星まで溶けるような甘いキスもした。仕事も素性もよく知らない。
 でもその体だけは隅々まで、まるで自分の一部のようで。

 そういや名前は。
 散々熱くとろかして、仕舞いにはくたりとアイツがシーツと同化し半分夢の中を遊泳し出した頃、その体を柔らかく抱きこみながら俺は聞いた。
 サンジ。
 擦れて甘い、その静かな響きは一生忘れないだろう。

 ある時俺の携帯に電話が入った。いつも邪魔されたくなくて切っていたのを忘れた時だ。
 お前、刑事だったのか。
 真っ青な目を零れそうな程見開いたアイツの目玉を、俺は舐めた。そして盛大に蹴られた翌日。
 ガチャリ。俺の手には金属の手錠(いつの間に俺の私物くすねやがった)そしてベッドに大の字に縛られた体の上で、アイツは今までにないくらいに熟れた体を乱した。
 ばいばい。キスの合間に吐息が零れた。
 朝日に飛び起き、裸のまま廊下に飛び出し音を立てて開けた扉の向こう。アイツの部屋は空っぽだった。
 その日のうちに、デカイ山が解決した。悪徳代議士が破綻したのだ。
 大きな切欠になったのは、そいつが溜め込んだ黒い財産が根こそぎ全部騙し取られた事。鉄の檻の中でそいつは叫んだ。俺の金を、アイツを探せ!
 クリス、ハイネル、呼び名は様々だったが裏で名を馳せる大物失墜の陰に常に見え隠れする、とある詐欺師。白い肌に金の髪、青い瞳で惑わすそれは一人の男。
 手配リストに載ってはいるものの、その年齢も正体も不明のまま。
 俺は一生分の頭を動かし、調べて調べて脅してまた調べた。
 古い資料の片隅、迷宮入りした事件。これまで失墜した大物全てが繋がる、時の権力者。
 その不正な手法によって奪われた家族、そして唯一の生き残り。幼い子供の、その名前。

 様々な人種が入り乱れる市場の雑踏。その中に一際目立つ金髪頭。眼鏡で顔を隠し安心した気でいるのだろうが、一番隠すべきはあの頭だ。一生教えてはやらないが。
 俺は言ってやる。気配を殺し、アイツの視界が利く範囲外ギリギリのラインに立ち、アイツが露店の親父と楽しげに交渉し、最後に笑って気を抜いたその瞬間に。

「サンジ」

 決して大声ではない。けれど必ず耳の奥に届く、張りのある声音で言ってやる。
 ふ、とアイツが振り向いた。
 沢山の名前と姿を持つアイツが、その名前一つに振り向いた。
 きっと俺とアイツ自身以外にはもう、使う事も呼ぶ事もない、忘れたつもりでいる名前だ。
 青い目が驚きに見開かれる。

 俺は笑った。自慢じゃないが、決して爽やかな笑みじゃない。極悪で凶悪。犯罪者も震え上がる様な笑みだ。
逃げる腰を掴まえ、俺はその口を封じて舌に直接囁く。
 二度と再会はないと思え。何故なら二度と逃がす事はないからだ。

 暴れる白い体を抱きながら青い目から転がり落ちる物を、俺は野次馬の喝采を浴びながら舐め取った。





*END*













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こういう美味しいトコぎゅっとつめた小話書くの好きです。
これはオフページのペーパー欄にもUPしてあるんですが、
とても気に入ってるのでTEXTにひっぱってきました。



12.06.26