ぽにょ! アナザーVer.
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「おい、好きだって言えよ」
「……っ」
 
 無言のまま翻した体は軽々と返され、払いのけようとした手首ごと掴まれて居間にあった柔らかなソファの背に縫いとめられた。
 目の前に迫る、飢えた金色の目。

「好きだって言え」
「……嫌だ」
「昔はあんなに好きだって叫びまくってたじゃねぇか」
「し、知らねぇ」
「……」
 ゾロは無言で、片方の手をローテーブルに伸ばすとそこにあったリモコンをテレビに向けた。
 ぷちっと画面が切り替わり、一体いつの間にセットされていたのかDVDが再生される。
 
『ぞろー、すきー!!』
 途端に響く高い子供の声。
 きゃっきゃと明るい笑い声と共に、金髪のチビが緑色のガキの頭に正面から飛びついてぐるぐると回っている。
 正視なんて出来るはずもない。
 この家で一体何枚コピーされたのかもわからない、出来るなら片端から踏み潰して割りたい代物だ。
 しかもご丁寧にサンジにダメージの大きいシーンだけ選り抜いてある、なんとも執念深く変態的な男の所業だ。
 サンジは唇を噛むと、ぐっと負けじと目の前の男を睨みあげた。
 
『可愛いわ〜サンちゃん』
 テレビから聞こえる声は、我等が愛しのお母様くいな嬢だ。
 彼女が撮った幼い日のビデオ映像、そのマスターデータは今日も彼女の手元に保管されているので、いくらこの男の手元のコピーを破壊しようともこの映像がこの世から消える事はない。
 彼女の部屋に入り込んで壊すのは簡単だが、大事にしているデータを失ったと知った時の彼女の悲しみと怒りを想像するに、それはとてもサンジには出来ない。
 この男がそれをわかっているのがまた悔しい。
 
 ゾロはむっつりと押し黙ったまま、サンジを睨みつけている。
 広くなった肩、伸びた手足、太い腕、鋭い眼光、画面に映る小さな姿とはもう似ても似つかない。
 けれど真っ直ぐに自分を見つめるこの目線だけは、今も昔も変わらない。
『ゾロもぎゅっとしてあげなさい、ほら!』
 画面からはやし立てる声がする。見なくてもわかる。
 くいなちゃんの声に押されて、眉を寄せた不機嫌そうなゾロが、本当はただ照れているだけのゾロが、サンジの事をぎゅっと抱きしめるのだ。
 そして頬を合わせたサンジが、アホな面で何の悩みもなく笑っている。
 
「お前が俺を選んだんだろ」
「……っ」
 舌打ちをしそうなゾロの呟きに、サンジは歯を噛み締めた。
 
 好きだった、嗚呼、確かに俺はコイツが好きだったさチクショウ。
 その「好き」には明確な意味も境界線もなく、ただ本当に「すき」だったのだ。
 自分の視界いっぱいに映った初めての外の世界。
 水の揺らめきのない真っ青でクリアな空を背後に、自分を見つめる深い目、掬い上げるその指先が、全てが光に満ちた自分の世界そのものだった。
 それが恋だとか愛だとか、そういう言葉で付けた枠の中に収まるものじゃない。
 あの時俺の目の前に開けた世界の全ては、全部こいつに繋がっていたんだ。確かに。

 でも10年、足を与えられ、ともに家族として暮らしていくうちに、サンジは知った。
 あの感情が、ずっとそのままの形を保っていられないこと。
 あの時こいつが俺に与えたものが、今どういう意味を持っているのか。
 お互いの間でどう、形を変えようとしているのか。
 ゾロはそれをサンジに求める。
 形で示せと訴える。

 ああ、自分達はいつの間に、こうなってしまったんだろう。
 あの日ゾロによって、ゾロの隣に立つ足を貰ったあの瞬間から、サンジにとってゾロはこの世界の全て、それだけだったのに。
 
 その甘やかな世界を壊せと言う男の目を見据えて、サンジはぐっと腹に力を込めると、静かに息を吸い込んだ。






END








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前回書いたぽにょは、サンジ⇒ゾロと押す感じだったんですが
今回はゾロ⇒サンジとぐいぐい押す感じで。こんな未来もアリじゃないかな、と!



11.07.04