ぽにょ! その2 |
「なぁゾロ、お前タマゴって産める?」 黄色く丸い頭をくりっと傾けて、アホが真剣な目をしてこちらを見上げた。 「………………産めねぇな」 「だよなぁ〜〜」 たっぷり30秒は考えて、というより本気で思考が止まっていたゾロの前で、腕組みしたアホはうんうんと頷きなにやら納得したようだ。 「俺もそうなんじゃないかと思ったけどよ。じゃあやっぱり」 くるりと煌く、深くて遠い海の色。 心の奥までも見通されるようなその目には、多分一生敵わないんじゃないかと密かに思っていたりもするゾロの前で、サンジは眉をぐっと寄せた。 「俺が産むしかねぇのかなぁ〜?」 「……」 普段このアホな同居人が突拍子のない事を言うのには慣れてきたつもりだし、魚が人間になるくらいの世界だ、多少の事には動じない自信が自分にはあった。 が。 流石にこの発想だけは想定外だ。 「おまえ、たまご、うめるのか」 思わず片言になりかけたゾロの前で、再びうーんとサンジは唸った。 「産めるはずだ!…よな、多分?」 その確信はどこから来るんだ、一体。 「でも俺人間になっちゃったじゃん?人間の体だとタマゴって外に出ないんだよな?駅前のパン屋のお嫁さんも、お腹大きかったけど最後までタマゴ出なかっただろ?俺元魚だからその辺どうなんだろうって思ってたんだけど、でもロビンちゃんが、魚にはタマゴを自分のお腹の中で暖める種類もいるのよって言ってたから、俺もそうなのかなって」 「……」 一体目の前の金髪の頭の中はどうなっているのか、思考回路がさっぱり追えない。 ゾロは軽く目を閉じると内心の荒波を抑える為に深く息を吐いた。 まず色々考える前にお前、オスとメスの違いはわかるのか、とい言いたい。 魚だろうが人間だろうが、その前に、俺とお前の性別は何だ。 一緒に小学校の授業から受けていたはずなのに、やぱりコイツはアホでしかなかったということか。 ロビンというのは自分たちの学校の養護教諭で、おっとりしている様でいて結構飛びぬけた思考の持ち主だ。 一体どんな質問の仕方をこいつがしたかはわからないが、どちらにせよ歯止めにはならなかったのだろう。 押し黙るゾロの前で、サンジはあっと声を上げた。 「そうそう、とりあえずお前、白いのは出せるだろ?」 「……あ?」 「白いのだよ、あれだ、その…俺たちが愛し合うときに、可愛い俺の為に出す愛の印ってやつだろ?」 ジジィがそう言ってた。 クラリ、今度こそ本気で頭痛がして、ゾロはうっかり目頭を押さえた。 ちなみにジジィというのはなぜか海の上でレストランを開いて暮らしている、サンジの親だ。 何だかんだと口では言いつつ可愛がっているのであろうサンジから、こんなアホな質問をされた日にはさぞ頭が痛かったことだろう。 「ほら、タマゴ産むのと白いのかけるのとで、愛の共同作業だろ?」 もじ、となぜか頬を染めてサンジがはにかんだ。 そして制服の薄いシャツの上から、そっと自分の腹を押さえる。 「俺がタマゴ担当だとして」 「その場合はどこにお前の白いの、かけてもらえばいいと思う?」 上目遣いのその台詞に、ビシッ、とゾロの脳みその奥、理性と言う名の柱にヒビが入る音がした。 動かないゾロの前で、サンジは真剣に眉を寄せながら続ける。 「とりあえず体の上?つか全身? でもタマゴが俺の腹から出ないパターンだとすると、腹の中に入れなきゃだよな? あ、直接俺が飲めばいいのかな! いやでもまて、美味しくないと俺無理かも…でもゾロとのタマゴ欲しいしな。 愛の証だって言うしよう!チクショウ照れるな!! ……なぁお前の白いやつって、どんな味?」 ビシビシッっと脳内で砕け散る音が響く。 バシバシとゾロの肩を叩くサンジの手首を、わしっと掴んで捕まえた。 「なに、なんかテメェ顔怖いぞ、どうした」 腹でも痛くなった?と問うてくるアホに、ゾロは暗いオーラを放った。 このアホ、もう勘弁ならん。 「俺が腹のタマゴに直接ぶっかける、もっといい方法を教えてやる…」 「え、なにお前知ってるの」 凄いな、そか、これで安心だな!と両手を挙げて喜ぶアホに、ゾロはニヤリ、今世紀最強の顔で笑ってみせた。 おわる! |