真夜中の博物館で。 |
カツ、カツ… 真夜中の博物館、シンとした大理石の床を歩いて辿り付いたのは、広い館内の一番奥。 国の歴史が再現されたブースだ。 ガラスケースの向こうには開拓時代の様子を再現したセット、広い荒野の前で 地図を広げた冒険者の蝋人形が二体、顔を付き合わせて地図を眺めている。 そしてその横にいるのは、そのガイドを勤めたと歴史の書でも有名な現地の部族代表の男性。 ほの暗い照明の下で、昼間はただの硝子玉でしかない茶色の目が金の輝きを放った。 決められたポーズで無表情の蝋人形、その姿がゆっくりと動き出す。 『 』 ガラスケースの向こうで、サンジの姿を認めた男が何かを言って嬉しげに笑った。 しかしその声はガラスケースに阻まれて聞こえはしない。 「……ゾロ」 サンジも笑って、そっとガラスに手を伸ばした。 その冷たく透明な壁に、両手をひたりと当てる。 ゾロもサンジの前まで歩み寄ってきて、そしてそっとサンジと同じ場所に手の平を合わせた。 やがてガラスを通してじわりと伝わる、この体温は自分のものだけではない。 何度夢ならいいと思っただろう。 朝になれば全てが戻る、この現実こそが。 「……ゾロ」 博物館のプレートに書かれた彼の名前をただなぞることしか、サンジには出来ない。 言葉は聞こえない。 けれど確かに、お互いの中に伝わるものがある。 秘密の逢瀬。 サンジだけの、ゾロ。 |